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侯爵令嬢ヴェロニカの推し活~義弟の恋を応援していたはずが、最初から逃げ場はありませんでした~
しおりを挟む「ヴェロニカお嬢様、本日の夜会のご準備が整いました」
侍女の声に、ヴェロニカ・アルテンブルクは鏡の前で立ち上がった。
深紅のドレスに身を包んだ自分の姿を一瞥し、小さく息を吐く。
今夜こそ。
今夜こそ、義弟のルートヴェル・アルテンブルクに、彼の想い人を引き合わせるのだ。
前世の記憶を持つヴェロニカにとって、この世界の常識は時に残酷だった。
どれほど優秀でも、女子は家督を継げない。侯爵家の一人娘である自分もまた、その例外ではなかった。
だからこそ父が養子に迎えたのが、ルートヴェルだった。
容姿端麗、頭脳明晰、立ち居振る舞いの全てが完璧な青年。ひと目で心を奪われた。
初めて彼を見た時、ヴェロニカの心に宿ったのは恋ではなく——前世の感覚で言うならば——
「推し」への崇拝だった。
この類まれなる白磁の美貌、この才能、この佇まい。絶対に素敵な恋をするべき存在。
そう、彼には幸せになる権利がある。
そして自分は、その幸せを全力で応援する「推し活」に全てを捧げるのだ。
だから気づいていた。
最近のルートヴェルが、夜会で必ず特定の令嬢の方を見ていることを。
会話の端々に、誰かへの想いが滲んでいることを。
——ああ、ついに来たのだ。推しの恋が。
ヴェロニカの胸は、喜びと、ほんの少しの寂しさで震えた。
けれど、それでいい。自分は姉として、彼の幸せを見守る。それが自分の役目なのだから。
夜会の会場は、シャンデリアの光に満ちていた。
「ルートヴェル、こちらへ」
ヴェロニカは義弟の袖をそっと引き、人混みの中を進んだ。
彼女が目指すのは、薄紫のドレスを纏った令嬢——エミーリエ・ヴァルトシュタイン。
ルートヴェルが夜会で視線を送っていた相手だ。きっと彼女こそが、義弟の想い人に違いない。
「姉上、一体どちらへ」
ルートヴェルの声は穏やかだったが、ヴェロニカは気づかなかった。
その声に潜む、静かな困惑と、じわりと滲む苛立ちに。
「いいから、ついてきて。あなたに紹介したい方がいるの」
エミーリエの前に辿り着くと、ヴェロニカは最高の笑顔を浮かべた。
「エミーリエ様、お久しぶりです。こちら、私の義弟のルートヴェルです」
「まあ、アルテンブルク家のご養子様。お噂はかねがね」
エミーリエは優雅に微笑み、ルートヴェルへと視線を向けた。
けれど義弟は、ほんの一瞬だけ令嬢を見ると、すぐにヴェロニカへと視線を戻した。
「……姉上、お疲れではありませんか。少し休まれては」
「ああ、大丈夫よ。それより、エミーリエ様とゆっくりお話しして。私は向こうで休んでいるから」
ヴェロニカはそう言い残すと、さっと身を引いた。
完璧だ。これで二人きりになれる。きっと素敵な会話が弾むはず——。
だが、ヴェロニカは知らなかった。
自分が去った後、ルートヴェルがどれほど冷たい目でエミーリエを見つめたか。
どれほど早く会話を切り上げ、彼女の後を追ったか。
それから数日後。
ヴェロニカは書斎で一人、考え込んでいた。
あの夜会の後、ルートヴェルの様子が少しおかしい。
いつもより彼女に話しかける回数が増え、視線が重く、距離が近い。
——もしかして、恋の進展がうまくいかなかったのかしら。
ヴェロニカは眉をひそめた。それなら、自分がもっと積極的にサポートしなければ。
でも、あまり義弟に密着しすぎるのは良くないかもしれない。
彼には、自由に恋をする時間が必要だ。
そう結論づけたヴェロニカは、翌日から意識的にルートヴェルとの距離を取り始めた。
朝の挨拶はそそくさと済ませ、書斎での読書時間は別々にし、夕食後のティータイムも
「用事がある」と言って席を外す。
全ては、義弟の恋を応援するため。
だが——。
「姉上」
ある夜、自室に戻ろうとしたヴェロニカの手首を、誰かが掴んだ。
振り返れば、ルートヴェル。
廊下の燭台の光に照らされた彼の顔は、いつもの穏やかさを失っていた。
「……ルートヴェル?」
「最近、僕を避けていますね」
その声は、静かだった。けれど、その奥に潜む感情の重さに、ヴェロニカは息を呑んだ。
「避けてなんか——」
「避けている」
彼は一歩、距離を詰めた。ヴェロニカの背が、壁に触れる。
「朝も、昼も、夜も。姉上は僕から逃げている」
「そんなつもりじゃ——」
「では、なぜ?」
ルートヴェルの瞳が、真っ直ぐにヴェロニカを見つめる。その眼差しは、まるで全てを見透かすようで。
ヴェロニカは口ごもった。
言えるわけがない。あなたの恋を応援したいから、だなんて。
それを言えば、彼は気を遣って自分の想いを押し殺してしまうかもしれない。
「……ルートヴェル、あなたには自由が必要だと思って」
「自由?」
彼は静かに笑った。けれどその笑みは、どこか冷たかった。
「僕に自由など、必要ありません」
「でも——」
「必要なのは、あなただけです」
その言葉の意味を理解する前に、ルートヴェルは踵を返して去っていった。
残されたヴェロニカは、壁に背を預けたまま、自分の鼓動が異常に速いことに気づいた。
それからルートヴェルの「攻勢」は、日に日に強まっていった。
朝食の席では必ず隣に座り、書斎では彼女の読書の邪魔をするかのように話しかけ、
夜会では他の男性が近づこうものなら、鋭い視線で牽制する。
ヴェロニカは混乱していた。
これは一体、何? 義弟の様子があまりにもおかしい。
まるで、自分に執着しているかのような——。
いや、違う。きっと彼は悩んでいるのだ。
恋がうまくいかず、姉である自分に甘えているだけ。そうに違いない。
だから、ヴェロニカは決意した。
今夜の夜会で、もう一度エミーリエとルートヴェルを引き合わせる。
そして、きちんと「あなたの恋を応援している」と伝える。
それが、義弟への最大の愛情表現だと信じて。
夜会の会場は、いつにも増して華やかだった。
ヴェロニカはルートヴェルを見つけると、彼のもとへと駆け寄った。
「ルートヴェル、少し良いかしら」
「……姉上」
彼は静かに振り返った。その表情は穏やかだったが、瞳の奥には何か——諦めにも似た、
けれど同時に決意を秘めた光があった。
「あのね、ルートヴェル。私、ずっと言いたかったことがあるの」
ヴェロニカは深呼吸をした。
「あなたには、幸せになってほしい。素敵な人と出会って、素敵な恋をして、心から笑ってほしいの。だから——」
「だから?」
「だから、私はあなたの恋を、全力で応援するわ」
その瞬間。
ルートヴェルの表情から、全ての感情が消えた。
「……応援、ですか」
「ええ。エミーリエ様とも、もっとお話しすればいいわ。私は邪魔にならないように、少し離れているから——」
「姉上」
彼の声が、低く響いた。
「もう、やめましょう」
「え?」
「この茶番を」
ルートヴェルはヴェロニカの手首を掴むと、人混みをかき分けて歩き出した。
抵抗する暇もなく、彼女は引きずられるように廊下へ、そして誰もいないテラスへと連れ出された。
月明かりだけが、二人を照らしていた。
「ルートヴェル、一体――」
「姉上、僕が誰を想っているか、本当にわからないのですか」
その声は、今までになく切迫していた。
「え……?」
「――エミーリエですか? 冗談でしょう」
ルートヴェルはヴェロニカの両肩を掴んだ。
「僕が夜会で見ていたのは、彼女ではない。彼女の隣にいる、あなただった」
「……え?」
「僕が会話の端々に滲ませていた想いは、あなたへのものだった」
「で、でも——」
「そして」
彼はヴェロニカの顎を指先で持ち上げ、その瞳を覗き込んだ。
「姉上が僕を避け始めた時、僕は理解しました。ああ、彼女は気づいていないのだと。
僕の想いに、まったく気づいていないのだと」
ヴェロニカの頭が、真っ白になった。
「待って、待って。それじゃあ――」
「そう。僕が想っているのは、最初からずっと、あなただけです」
ルートヴェルの声が、耳元で囁かれる。
「家督も、地位も、全てはあなたを手放さないために手に入れたものです。あなたを、誰にも渡さないために」
「そんな——」
「逃げ道はありません、姉上」
彼の腕が、ヴェロニカの腰を抱き寄せた。
「あなたは最初から、僕のものだったのですから」
「ル、ルートヴェル——」
「もう、応援などしないでください」
彼の唇が、ヴェロニカの耳たぶに触れた。
「僕が欲しいのは、あなたの応援ではない。あなた自身です」
気がつけば、ヴェロニカはルートヴェルの部屋にいた。
いつ運ばれたのかも覚えていない。ただ、彼の腕の中にいるという事実だけが、やけに鮮明だった。
「あの、ルートヴェル――」
「邪魔なドレスなど脱いでしまいましょうね、姉上」
彼の指が、ヴェロニカのドレスの背中のリボンに触れた。
するすると解かれていくそれを、彼女は止めることができなかった。
「待って、まだ心の準備が――」
「心の準備など、必要ありません。僕は十分待ちました」
ルートヴェルの声は優しかったが、その瞳は――彼女を逃さないという、揺るぎない意志に満ちていた。
「あなたはずっと、僕のものだったでしょう?」
「そんな――」
「だから今更、拒む理由などないはずです」
ドレスが床に落ちた。
ヴェロニカは本能的に腕で胸を隠したが、ルートヴェルはその手首を優しく、けれど逃さないように掴んだ。
「隠さないでください。僕に、全てを見せて」
「で、でも——」
「姉上」
彼の唇が、ヴェロニカの首筋に触れた。
「あなたは、僕が他の誰かを想っていると思っていた。だから身を引こうとした」
「……うん」
「それが、どれほど僕を苦しめたか」
唇が、鎖骨へ、胸元へと降りていく。
「あなたが僕から離れようとするたび、僕の中の何かが狂いそうになった」
「ごめん、なさい――」
「謝らないで。姉上の謝罪がほしいわけじゃない」
ルートヴェルは顔を上げ、ヴェロニカの瞳を見つめた。
「ただ、もう二度と、僕から逃げないと約束してください」
「……逃げないって、でも――」
「約束してください」
彼の手が、ヴェロニカの頬を包んだ。その手は震えていた。
「じゃないと、僕は――あなたをどうしてしまうかわからない」
その声に滲む切実さに、ヴェロニカは息を呑んだ。
ああ、彼は本気なのだ。
本気で、自分を想っていたのだ。
「……わかったわ」
ヴェロニカは小さく頷いた。
「逃げない。もう、逃げないから」
その言葉を聞いた瞬間、ルートヴェルの表情が変わった。
まるで、長い渇きからようやく解放されたかのような——。
「ありがとう」
花のようにパッと笑顔を咲かせた彼は、ヴェロニカを優しく寝台に横たえると、その上に覆い被さった。
「では、約束を果たしてもらいます」
彼の唇が、彼女の唇に重なった。
最初は優しく、けれどすぐに貪るように。まるで、今まで我慢していた全てを取り戻すかのように。
「ん、んっ――」
ヴェロニカは抵抗しようとしたが、ルートヴェルの舌が彼女の唇をこじ開け、口内へと侵入してきた。
甘く、熱い感触。それは彼女の思考を溶かしていく。
「ルート、ヴェル――」
「姉上、あなたの声、もっと聞かせてください」
彼の手が、ヴェロニカの胸に触れた。優しく、けれど確実に、彼女の感覚を支配していく。
「ああ、んっ――」
胸の先端を指で転がされ、ヴェロニカは背を仰け反らせた。前世でも、この世でも、こんな感覚は初めてで。
「敏感ですね。可愛い」
ルートヴェルは微笑むと、その先端に唇を寄せた。
「ひ、あっ――!」
舌先で舐められ、唇で含まれ、甘噛みされる。その全てが、ヴェロニカの理性を奪っていく。
「ダメ、そんな――」
「ダメじゃありません。あなたは僕のものになると、約束したでしょう」
彼の手が、さらに下へと滑っていく。ヴェロニカの秘所に触れた瞬間、彼女の体が大きく震えた。
「あ、ああっ――」
「ここも、濡れている」
ルートヴェルの指が、彼女の敏感な場所を優しく撫でた。
「やっ、そこ、は――」
「感じてくれて、嬉しい」
彼の指が、ゆっくりと慎ましやかなヴェロニカの秘孔に挿入される。
ヴェロニカは思わず彼の肩に爪を立てた。
「痛い?」
「ち、違う――」
「なら、もっと」
指が、ゆっくりと動き始める。彼女の内側を丁寧に探るように、優しく、けれど確実に。
「ああ、んっ、ルート――」
「姉上、僕の名前、もっと呼んでください」
指の動きが速くなる。ヴェロニカの体が、まるで自分のものではないかのように熱を帯びていく。
「ルート、ヴェル、もう――」
「まだです。初めてのあなたに、少しも痛い思いはさせたくない。」
彼はヴェロニカの中を十分にほぐし、たっぷりの愛液で濡れた指を抜くと、
その指をヴェロニカに見せつけるように、淫靡にペロりと舐めた。
そして、うっとおしそうに自らの衣服をすばやく脱ぎ捨てた。
月明かりに照らされたその体は、彫刻のように美しく。
そして――。
「姉上、目を逸らさないで」
ルートヴェルは彼女の足を開かせると、その間に身を置いた。
「怖い?」
「……うん」
「大丈夫。僕が、優しくします」
彼の熱いものが、ヴェロニカの秘所に触れた。ゆっくりと、慎重に、押し込まれていく。
「ああ、っ――!」
ヌプヌプど少しずつヴェロニカの中に埋め込まれていく赤黒い陰茎。痛みと、けれど不思議な充足感。
ヴェロニカは思わずルートヴェルの背中に手を回した。
「痛みますか?」
「少しだけ――」
「すぐに、慣れます」
彼は動きを止め、優しくヴェロニカの髪を撫でた。
そして、彼女がルートヴェルの大きさに落ち着くのを待ってから、ゆっくりと腰を動かし始めた。
「ん、あ、ああっ――」
最初は痛みが勝っていたが、次第に快感が混ざり始める。
ルートヴェルの動きは丁寧で、優しく、けれど確実に彼女を高みへと導いていく。
「姉上、あなたはなんて美しいんだ」
彼の声が、耳元で囁かれる。
「こんなに乱れて、こんなに感じて。全部、僕だけのものです」
「ルート、ヴェル――」
「もう、誰にも渡しません」
動きが速くなる。バチュバチュと激しくルートヴェルの腰が打ちつけられる。
ヴェロニカの体が、まるで波に攫われるように揺れる。
「ああ、もう、無理――」
「いいですよ。全部、僕に預けて」
その言葉と同時に、ヴェロニカの体が大きく震えた。視界が白く染まり、全身を快感が駆け抜ける。
「ああっ――!」
その直後、ルートヴェルもまた達した。彼女の中に、熱い大量の白濁がドクドクと注がれていく。
「姉上――」
彼はヴェロニカを強く抱きしめた。まるで、もう二度と離さないとでも言うように。
どれくらい時間が経っただろう。
ヴェロニカは、ルートヴェルの腕の中で目を覚ました。
「起きましたか」
彼の声が、優しく響く。
「……うん」
ヴェロニカは小さく頷いた。体中が心地よい疲労感に包まれている。
「姉上」
「なあに?」
「もう、僕を推さないでください」
「え?」
「僕は、もう姉上の義弟ではない。今日からあなたの、恋人です」
ルートヴェルはヴェロニカの額に口づけた。
「そして、いずれは夫になります」
「で、でも――」
「でも、じゃありません」
彼はヴェロニカの唇を塞いだ。長く、深い口づけ。
「あなたは最初から、僕の檻の中にいたのです。気づかなかっただけで。もう諦めてください」
「……檻?」
「ええ、檻」
ルートヴェルはうっとりと微笑んだ。
それは、今まで見たことのない——どこか危うい、けれど愛に満ちた笑みだった。
「あなたが逃げられないように、僕が用意した檻です」
「ひどい」
「ひどいですか?」
「うん、ひどい」
けれど、ヴェロニカは微笑んだ。
「でも——」
「でも?」
「嫌いじゃない、かも」
その言葉を聞いた瞬間、ルートヴェルの顔がぱっと明るくなった。
「なら、もう逃げませんね」
「……逃げない」
「約束ですよ」
「うん、約束」
二人は再び口づけを交わした。
月明かりの中、二人の影が重なり合う。
それは、檻の中の甘い、けれど逃げ場のない恋の始まりだった。
それから数ヶ月後。
ヴェロニカとルートヴェルの婚約が、正式に発表された。
侯爵家の人々は祝福し、社交界は驚き、そして――。
「まあ、ヴェロニカ様、本当におめでとうございます」
夜会でエミーリエが声をかけてきた。
「ありがとう、エミーリエ様」
「それにしても、ルートヴェル様、本当にヴェロニカ様のことがお好きなのですね。
いつもお姿を目で追っていらして」
「え?でも、以前は――」
「以前? ああ、私の方を見ていらした時ですか?
あれは、私の隣にいたヴェロニカ様を見ていらしたのですよ。お熱いことですわ」
「……え」
ヴェロニカは絶句した。
そして、隣にいるルートヴェルを見上げた。
彼は、何も言わず微笑んでいた。
「全部——」
「全部、僕の手のひらの上でしたよ、姉上」
ルートヴェルはヴェロニカの手を取り、口づけた。
「最初から、ずっとね」
その言葉に、ヴェロニカは呆れたように、けれど幸せそうに笑った。
「ひどい人」
「ええ、ひどい人です」
ルートヴェルは彼女を抱き寄せた。
「でも、あなたはもう、逃げられません」
「……知ってるわ」
ヴェロニカは彼の胸に顔を埋めた。
「だって、約束したから」
二人の影が、シャンデリアの光の中で重なり合う。
それは、甘くて、逃げ場のない、けれど——何よりも幸せな、檻の中の恋の物語。
【終】
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