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しおりを挟むハネスは、格式あるフェデラー公爵家の当主として生まれた。幼名のアドニスは、母が付けてくれた名だ。
フェデラー公爵家は、創始の際に土地神の力を借りる代わりに代償を支払った。当主となる者は、異性の前で幼児化してしまうという……。ハネスも爵位を継ぐ前から、その呪いを背負う覚悟はしていた。
ハネスには、スフィミアの前に五人の婚約者がいた。皆、公爵家という地位に惹かれて公爵邸にやって来たものの、すぐに逃げてしまった。ハネスにとっても愛せるような人柄の女性はその中にはいなかった。
アドニスは、五人の婚約者の誰にも心を開かなかった。貴族の娘たちは気位が高く、アドニスに対して冷たく当たったからだ。
「ねぇ、もう一週間も経ったわ。いい加減、わたくしに慣れてくれない? 呪いをさっさと克服してくれないと困るのだけれど」
「呪い? なんのことかよく分からないよ。……ご、ごめんなさい……」
「ああもう、そうやってすぐ泣く。子どもって面倒ね」
「あなた、本当にハネス様なの? 私のこと騙してるんでしょ。ハネス様に会わせて!」
「ハネス……? ……僕は、アドニスだよ」
彼女たちは、最初は良い顔をしていても、アドニスがなかなか懐かなかったり、呪いを克服する見通しが見えなかったりすると、だんだんと横柄な態度に変わっていった。そうして最後には屋敷を去っていく。
でも、スフィミアは違った。五人目の婚約者との関係を解消した直後に王城で出会った彼女。溺れているところを水際まで運んでくれた彼女の手は優しかった。そのときに直感で『この人だ』と思ったのだった。
◇◇◇
「俺は本当に、この呪いを克服することができるのだろうか」
いつかのときに、リルバーにこんな弱音を漏らしたことがあった。呪いのせいで外に出かけることもままならず、公務にも長らく行けていない。そのせいで、社交界では引きこもりの好色家などという不名誉な噂が広がる始末。精神的に参っていて、ついこんなことを言ってしまったのだ。
リルバーは片眼鏡を指で持ち上げながら、淡々と言った。
「歴代の当主の方たちは、この呪いを克服し、ご夫婦で領民のために貢献されたそうです。これは、ただの執事の戯言ですが――」
前置きのあとに続ける。
「土地神様の呪いではなく、祝福だと私は思うのです。土地神様は生前、女運がなかったという伝承があります。公爵領を治める領主が伴侶選びに失敗しないように……そんな土地神様の愛があるのではないでしょうか」
「ありがた迷惑な図らいだな。こんな呪いがなくても失敗しない」
「それはどうでしょうか。先代も、先々代も、その前もその前も……。爵位を継承する前、ろくでもない女性ばかりに惹かれて悩まれたそうですよ。それに、ハネス様も……」
「それ以上は言うな。……分かってる」
思い当たる節があって、顔をしかめる。フェデラー公爵家の男たちに、女難に逢う傾向があるのは否めない。
「あなた様は容姿も身分も能力も非の打ち所がありません。今まで女性に困ることもなかったでしょう。ですが、こんな呪いがあってもあなたと向き合ってくださる女性がいるなら、それこそ逃してはいけない女性なのでは」
「……そうだな」
ハネスは執務机に頬杖を着きながら、リルバーの言葉に妙に納得させられて、そっと目を伏せた。
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