23 / 23
23
しおりを挟むスフィミア、僅かに朱に染った顔で唇を開く。
「あの……お隣に行っても……よろしいですか」
「もちろんだとも。おいで」
優しく目を細める、手招きする彼。すっと座席から立ち上がり、向かいに座っているハネスの横にくっつくように座る。
彼はスフィミアが冷えないようにブランケットを膝にかけてくれた。どちらからともなく手を繋ぎ、彼の肩に頭を乗せる。
「今日は、久しぶりにアドニス様に会えました」
「そうだな。またスフィミアに迷惑をかけてしまった。油断していた」
「迷惑だなんてとんでもないです。会えて嬉しかったです。やはり……呪いを完全に克服するというのは難しいのですね」
「それでも、以前のことを思えばマシだ」
「ふふ、ですね」
ふいに、手を握るハネスの手の力が強まる。
「ずっと……厄介な呪いだとばかり思っていたが、あなたと思い合えたのはこれのおかげでもある。今はこの呪いが祝福にさえ思える」
「そのお言葉で、私も救われた気持ちになります」
彼が今まで、呪いのことでどれだけ悩んできたかは想像もつかないが、自分の存在のおかげで前向きに捉えられるようになったというなら、それほど嬉しいことはない。
スフィミアはそっと目を閉じ、口角を上げた。
「……スフィミアは、子どもが好きなのか?」
「はい。特にアドニス様が大好きですよ」
「あなたの子どもなら、きっともっと可愛いんだろうな」
「!」
突然降ってきた言葉に驚き、かっと目を開いて彼の方を見る。ハネスは余裕たっぷりの様子で不敵な笑みを浮かべていて。
(旦那様は……ずるい)
なら、ハネスの子どもだってものすごく可愛いのだろう。照れた顔で彼を見つめていたら、頬に手を添えられる。
口付けをされるのだろうとそっと目を閉じると、タイミング良くスフィミアのお腹がぐぅと鳴った。雰囲気は台無し。ハネスはスフィミアからさっと離れ、破顔する。
「もうすぐ夕食の時間だな」
「ふふ、そうですね」
今日の夕食はなんだろう。そんな幸せな想像をしながら、ゆったりと馬車の時間を過ごしたのだった。
◇◇◇
数年後。スフィミアとハネスの間に第一子が生まれた。彼はアドニスにそっくりな男の子に成長していった。
スフィミアの実家だが、しばらくは金を無心する手紙を送って来ていたが、そのうちにふつと連絡が途絶えてしまった。領地と爵位も売り払ったらしいが、今彼らがどこで何をしているのかは分からない。
「ち、ちちうえ……! またははうえが道端のきのこを焼いて食べようとしてる!」
「きのこ?」
「赤くて白い模様があるなんかヤバそうなやつ」
「早急に止めろ」
「しょうち!」
公爵夫人は相変わらず食べ物に目がない大食らい。底なしの食欲を管理するのは息子と夫の仕事だ。土地神の祝福を受ける公爵家は、いつも笑い声が絶えなかった。
-----------------
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
新連載のお知らせ。
『他の令嬢をひいきする婚約者と円満に別れる方法はありますか?』
お楽しみいただければ幸いです…!
773
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(6件)
あなたにおすすめの小説
病弱な私と意地悪なお姉様のお見合い顛末
黒木メイ
恋愛
幼い頃から病弱だったミルカ。外出もまともにできず、家の中に引きこもってばかり。それでもミルカは幸せだった。家族が、使用人たちがいつもミルカの側にいてくれたから。ミルカを愛してくれたから。それだけで十分――なわけないでしょう。お姉様はずるい。健康な体を持っているだけではなく、自由に外出できるんだから。その上、意地悪。だから、奪ったのよ。ずるいお姉様から全てを。当然でしょう。私は『特別な存在』で、『幸せが約束されたお姫様』なんだから。両親からの愛も、次期当主の地位も、王子様も全て私のもの。お姉様の見合い相手が私に夢中になるのも仕方ないことなの。
※設定はふわふわ。
※予告なく修正、加筆する場合があります。
※いずれ他サイトにも転載予定。
※『病弱な妹と私のお見合い顛末』のミルカ(妹)視点です。
幼馴染の生徒会長にポンコツ扱いされてフラれたので生徒会活動を手伝うのをやめたら全てがうまくいかなくなり幼馴染も病んだ
猫カレーฅ^•ω•^ฅ
恋愛
ずっと付き合っていると思っていた、幼馴染にある日別れを告げられた。
そこで気づいた主人公の幼馴染への依存ぶり。
たった一つボタンを掛け違えてしまったために、
最終的に学校を巻き込む大事件に発展していく。
主人公は幼馴染を取り戻すことが出来るのか!?
妹の身代わりの花嫁は公爵様に溺愛される。
光子
恋愛
お母様が亡くなってからの私、《セルフィ=ローズリカ》の人生は、最低なものだった。
お父様も、後妻としてやってきたお義母様も義妹も、私を家族として扱わず、家族の邪魔者だと邪険に扱った。
本邸から離れた場所に建てられた陳腐な小さな小屋、一日一食だけ運ばれる質素な食事、使用人すらも着ないようなつぎはぎだらけのボロボロの服。
ローズリカ子爵家の娘とは思えない扱い。
「お義姉様って、誰からも愛されないのね、可哀想」
義妹である《リシャル》の言葉は、正しかった。
「冷酷非情、血の公爵様――――お義姉様にピッタリの婚約者様ね」
家同士が決めた、愛のない結婚。
貴族令嬢として産まれた以上、愛のない結婚をすることも覚悟はしていた。どんな相手が婚約者でも構わない、どうせ、ここにいても、嫁いでも、酷い扱いをされるのは変わらない。
だけど、私はもう、貴女達を家族とは思えなくなった。
「お前の存在価値など、可愛い妹の身代わりの花嫁になるくらいしか無いだろう! そのために家族の邪魔者であるお前を、この家に置いてやっているんだ!」
お父様の娘はリシャルだけなの? 私は? 私も、お父様の娘では無いの? 私はただリシャルの身代わりの花嫁として、お父様の娘でいたの?
そんなの嫌、それなら私ももう、貴方達を家族と思わない、家族をやめる!
リシャルの身代わりの花嫁になるなんて、嫌! 死んでも嫌!
私はこのまま、お父様達の望み通り義妹の身代わりの花嫁になって、不幸になるしかない。そう思うと、絶望だった。
「――俺の婚約者に随分、酷い扱いをしているようだな、ローズリカ子爵」
でも何故か、冷酷非情、血の公爵と呼ばれる《アクト=インテレクト》様、今まで一度も顔も見に来たことがない婚約者様は、私を救いに来てくれた。
「どうぞ、俺の婚約者である立場を有効活用して下さい。セルフィは俺の、未来のインテレクト公爵夫人なのですから」
この日から、私の立場は全く違うものになった。
私は、アクト様の婚約者――――妹の身代わりの花嫁は、婚約者様に溺愛される。
不定期更新。
この作品は私の考えた世界の話です。魔法あり。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
ヒロインが私の婚約者を攻略しようと狙ってきますが、彼は私を溺愛しているためフラグをことごとく叩き破ります
奏音 美都
恋愛
ナルノニア公爵の爵士であるライアン様は、幼い頃に契りを交わした私のご婚約者です。整った容姿で、利発で、勇ましくありながらもお優しいライアン様を、私はご婚約者として紹介されたその日から好きになり、ずっとお慕いし、彼の妻として恥ずかしくないよう精進してまいりました。
そんなライアン様に大切にされ、お隣を歩き、会話を交わす幸せに満ちた日々。
それが、転入生の登場により、嵐の予感がしたのでした。
姉妹同然に育った幼馴染に裏切られて悪役令嬢にされた私、地方領主の嫁からやり直します
しろいるか
恋愛
第一王子との婚約が決まり、王室で暮らしていた私。でも、幼馴染で姉妹同然に育ってきた使用人に裏切られ、私は王子から婚約解消を叩きつけられ、王室からも追い出されてしまった。
失意のうち、私は遠い縁戚の地方領主に引き取られる。
そこで知らされたのは、裏切った使用人についての真実だった……!
悪役令嬢にされた少女が挑む、やり直しストーリー。
厄介払いされてしまいました
たくわん
恋愛
侯爵家の次女エリアーナは、美人の姉ロザリンドと比べられ続け、十八年間冷遇されてきた。
十八歳の誕生日、父から告げられたのは「辺境の老伯爵に嫁げ」という厄介払いの命令。
しかし、絶望しながらも辺境へ向かったエリアーナを待っていたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
素敵なお話ありがとうございました。一気読みしました。
楽しかったです!道端のキノコ🍄を食べようとしているのに笑う!二人(親子)で止めている姿にほっこりですね。
すごく良いお話でした!
公爵様の爵位受ける前の過去(黒歴史?)が気になるものの、今の彼らには関係ないですね!幸せになって良かったーアドニスくん似の長男も素直で可愛いです!「しょうち!」にほっこりです