【完結】小公爵様、死亡フラグが立っています。

曽根原ツタ

文字の大きさ
25 / 51
一章

〈25〉いつも絆されてしまいます

しおりを挟む
 
「あっユリちゃーん!   偶然だね、ユリちゃんも今から西講堂?」
「うん、そうだよナターシャ……にロベリア」

 校庭の道すがら、ユーリに無邪気に声をかけたナターシャ。修練場で一悶着あって以来、体裁が悪い。

「げっ……」

 うっかり声を漏らし、苦虫を噛み潰したような顔を浮かべたロベリア。本音が表に出てしまうのは昔からだ。

「ナターシャ。僕、少しだけロベリアに話があるんだけど、先に行っていてくれるかな?」
「うん、分かった!」

 ナターシャはこちらの気も知らず素直に頷き、一人西講堂へ歩いていってしまった。

「ロベリア、あの日はごめん。僕が大人気ながった。反省してる」
「全く……びっくりしたのよ?   ……ユーリ様に嫌われてしまったのかって」
「……違うよ。君を嫌いになることはない」

 ユーリは、「嫌いになることはない」と確信を持って断言した。

「どうしてあのような振る舞いをなさったのか、ちゃんと説明してくださる?   私の不用心さに呆れたとか……」
「違う。ロベリアは何も分かってない」

 すると、ユーリは心底決まり悪そうに目を逸らして言った。

「……――妬いたんだよ」

 小さな声で告げられた真相に、ロベリアは目を見開いた。僅かに頬を赤らめているユーリ。つまり、ロベリアがファビウスと親しくしている様子を見て嫉妬したというのか。いつもは理性的な彼が、理性的な振る舞いを忘れるほどに……。

 ロベリアも、"嫉妬した"と言われ、その感情の要因となるもっと深い感情を察せないほど鈍感ではない。ロベリアもまた、みるみる顔を熱くさせて俯いた。

「……ユーリ様って、嫉妬とかなさるタイプだったんですか」
「知らないよ。……自分でも、よく分からないけれど、嫌だと思った気持ちは……確かだ」

 ――「どうして嫉妬なんて」、という野暮なことは聞かずとも、彼がロベリアに友情以上の特別な感情を抱いていることは理解できてしまう。
 あのときの余裕のない彼の行動も、今見せている紅潮した気まずそうな表情も、全てロベリアへの好意からきているのだと思うと、軒並み羞恥心が湧いてくる。

「本当、ごめん。……許してくれるかな?」

 甘えるような声で、ユーリが距離を詰めてくる。ロベリアはつい彼を意識してしまい、気恥ずかしくて上擦った声で言った。

「わ、分かったから、そんなに近づかないでちょうだい……!」

 ロベリアは片手で赤らんだ顔を隠しながら、数歩後ずさった。

「ロベリア?   どうして顔を隠す?」
「日差しが、強くて!」
「今日は曇りだけど」

 ユーリはつかつかとこちらに詰め寄り、ロベリアの手を退けて顔を覗き込んだ。彼と視線がかち合う。ユーリは、茹でたタコのように真っ赤になったロベリアを見て、深碧の瞳を瞠く。

「……顔、赤いけど」
「…………」
「君もそんな風に照れることがあるんだね」
「だって……あなたが妙なこと言ったりするから……!」
「妙なことって?」

 ……完全に弄ばれている。手のひらで転がされる感じ。ロベリアはすっかりユーリのペースに飲まれていた。

 ロベリアは彼の胸を押し離して、距離を取った。彼は楽しそうに小さく笑う。

「あのさ、今度の休日――空いてる?」
「え、ええ。空いてるけれど……」
「よかったら、君を連れていきたい場所があるんだけどどうかな?   ……王都より南の港町、アルネスに」
「……!」

 アルネスといえば、ユーリの亡くなった実母の故郷だ。確か、彼女の墓もアルネスにあり、ユーリは度々そこに足を運んでいたはず。

「行きたいわ、私でよければぜひ……!」
「よかった、嬉しいよ」

 結局、ユーリに翻弄され、絆されてばかりのロベリアだった。彼にとって思い入れのある街への誘いに、散々思い悩んでいたさっきまでを忘れて、まんまと心をときめかせていた。単純である。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました

三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。 優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。 優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。 そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。 絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。 そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

最初から勘違いだった~愛人管理か離縁のはずが、なぜか公爵に溺愛されまして~

猪本夜
恋愛
前世で兄のストーカーに殺されてしまったアリス。 現世でも兄のいいように扱われ、兄の指示で愛人がいるという公爵に嫁ぐことに。 現世で死にかけたことで、前世の記憶を思い出したアリスは、 嫁ぎ先の公爵家で、美味しいものを食し、モフモフを愛で、 足技を磨きながら、意外と幸せな日々を楽しむ。 愛人のいる公爵とは、いずれは愛人管理、もしくは離縁が待っている。 できれば離縁は免れたいために、公爵とは友達夫婦を目指していたのだが、 ある日から愛人がいるはずの公爵がなぜか甘くなっていき――。 この公爵の溺愛は止まりません。 最初から勘違いばかりだった、こじれた夫婦が、本当の夫婦になるまで。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

赤貧令嬢の借金返済契約

夏菜しの
恋愛
 大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。  いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。  クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。  王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。  彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。  それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。  赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

処理中です...