王子、侍女となって妃を選ぶ

夏笆(なつは)

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「母上、ただいま参りました」 

 ここ、ラングゥエ王国唯一の王子であるシリルは、母である王妃に呼び出され、その自室の扉を潜った。 

「いらっしゃい、シリル。今日の政務は、きちんと熟したのかしら?」 

 いきなりの言葉に、セシルは、ぐぅっと息を呑む。 

 きちんと政務を熟すどころか、午前の早い時間に執務室から逃走後雲隠れし、昼食を呑気に庭園で食べてからの昼寝、と過ごして今、午後のお茶の時間となっている。 

 しかし、母がそのことを知らないと思うほど、シリルはお気楽では無かった。 

  

 これは、ばれている。 

  

 それは、確信持って言える。 

 ではなぜ、このような物言いをするのか。 

 ずばり、シリルに説教するためである。 

 そう気づいたシリルは、殊勝な様子で俯いた。 

 姑息にも、そうして反省している姿を見せ、なるべく早く説教を終わらせる作戦に出たのである。 

「申し訳ありません、母上。政務は」 

「側近に任せきりで、自分は遊び惚けていたのよね」 

 優雅に扇を扱い、ほほ、と母王妃は上品な笑みを浮かべた。 

「最近の貴方の行動は、目に余ります。政務は側近に丸ごと任せて何もしようとしない、それなのに、王子の名で茶会を開くことや、女性に品物を贈るのには余念が無い」 

 ほう、とため息を吐かれ、シリルは母である王妃を見つめる。 

「お言葉ですが、アリスは僕の婚約者候補です。贈り物をするに、何の不都合も無いと思いますが?」 

 文句を言われる筋合いは無いとシリルは胸を張った。 

「お前の婚約者候補は、後ふたりいるでしょう。それなのに、ひとりにばかりかまけて。今から贔屓などするから、ハッカー伯爵の態度の大きくなったこと」 

 怖気が奔る、と言わぬばかりに、王妃は自分の両腕を擦ってみせた。 

「ハッカー伯爵は、アリスの父君です。それなりの権力を持って、何が悪いのですか」 

「お前は、ハッカー伯爵令嬢を妃に選ぶつもりなの?」 

「アリスは、可愛いですから」 

「可愛さで王妃は務まりませんよ。同じように、自己顕示欲が強いばかりのハッカー伯爵に、政の中枢も務まりません。今のお前が王となってハッカー伯爵令嬢が王妃となれば、側近が影の王と王妃となるのでしょうね。そのうえ、能無しの外戚が権威ばかりをひけらかしたがる、無能の王家となるのでしょう」 

 どんなに王妃が嫌味を言っても、シリルに響くことは無い。 

 現王に、子どもは自分ひとりしかいない。 

 未だ王太子となってはいないが、自分しか世継ぎはいないのだとシリルは知っている。 

「はあ。では、お前が妃を選びなさい」 

 シリルがむっすりと黙りこくっていると、王妃がため息を吐いてそう言った。 

「いいのですか!?」 

 シリルは、政務が嫌いだ。 

 政務が、というより働くのが嫌いだ。 

 そして、三人の妃候補のなかで、尤も自分と意識を同じくするのは伯爵家の娘であるアリスであるとシリルは知っている。 

 アリスとならば、煩いことも言われずに側近任せの人生を歩ける。 

 いやむしろ、何に気遣うことなくふたりで遊び暮らして行ける。 

 シリルは、そう小躍りしようとして。 

「明日から、三人が王子妃の最終選考の為、王城に滞在します。そこで、お前が自分で彼女達の本質を見つめ、未来の王妃を選ぶといいわ」 

 立ち上がった王妃にそう言われた。 

「はい。ですが、私の気持ちはもう」 

 決まっている、と言いかけたシリルに最後まで言葉を発せさせず、王妃はシリルに魔法をかけた。 

 自分の息子でもある彼に、一切の迷いも躊躇も無く。 

「自分の姿を、見てごらんなさい」 

「なっ」 

 そして示された鏡の前に立ち、シリルは絶句した。 

 そこには、赤い髪に茶色の瞳を持つ、ひとりの少女が映っている。 

 と思った次の瞬間には金髪碧眼の少女となり、次には黒髪で黒く細めの瞳の少女に。 

 質の悪いことに、シリルが動くと鏡の中の少女も同じように動く。 

「その姿で、王城の侍女として妃候補の令嬢達と十日ずつ過ごし、そうして彼女達の本質を見るといいわ。赤い髪はハッカー伯爵令嬢の所へ行くとき、金色の髪はアップルトン侯爵令嬢の所へ行くとき、そして黒い髪はドリューウェット公爵令嬢の所へ行くときよ」 

 頑張ってね、と微笑み言う王妃はどこか楽しそうで。 

 シリルは、そんな母の声を聞きながら呆然と鏡の前に立ち尽くしていた。 

 
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