王子、侍女となって妃を選ぶ

夏笆(なつは)

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お礼のお話 制服デート 1 〜アルファポリス限定〜

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こんにちは。
たくさんのお気に入り登録や応援、ありがとうございます。
感謝の気持ちを籠めて、お礼のお話をお贈りします。
こちらは、アルファポリス限定となります。
楽しんでいただければ幸いです。



~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・



 

 

 

「はあ。やっと終わったね。ミュリエル、今日もお疲れ様」 

「お疲れ様です、シリル様」 

 ふたりの婚約を正式に発表してから一ヶ月。 

 王太子となったシリルは王太子教育が、そして王太子妃となることが確定しているミュリエルは王太子妃教育が始まった。 

 それと同時にふたりで行う執務も開始され、シリルとミュリエルは忙しくも充実した日々を送っている。 

「毎日忙しい、けど。でも、なんていうか。まだまだ小手調べなんだろうな」 

 決済を済ませた一枚の書類をぺらりとめくり、シリルは苦笑と共にミュリエルを見た。 

「はい、そう思います。これから少しずつ慣らして行って、というところでしょうか」 

 ふたりの所へ来る案件は、急ぎでないものや国の機密、ひとの生死にかかわらないようなものばかり。 

 しかしこの先、その書類が重要機密を帯びたものになって行くこともまた必須だ、とふたりは真顔で頷きあった。 

 

 ああ。 

 真顔のミュリエルも可愛い。 

 ものっそ癒される。 

 

 シリル自ら妖精天使と名付けたミュリエルは近頃益々可愛くなったと評判で、シリルは誇らしかったり心配だったり色々複雑な思いを抱いている。 

 

 ほんとに注目集めているからな。 

 誰かに盗られ・・なんて洒落にならない。 

 

 思いかけ、ぶるぶると頭を振って、シリルはこそりとミュリエルを盗み見る。 

  

 でも最近、可愛いだけじゃない気がするんだよな。 

 

 怒っていても笑っていても可愛いと思うミュリエルだが、この頃はそれだけでなく、なんというか一緒にいるだけで満たされる存在に昇格したようにシリルは思う。 

  

 癒されるし落ち着くし、自然と力が湧いて来るし、一緒にいると頼りになるし、頼られるともっとやる気になる。 

 ミュリエルと一緒なら何でも乗り越えられる、っていうか。 

 つまりは、最高の伴侶だな。 

 

 うんうんと頷いていると、書類を片付けているミュリエルと目が合った。 

「どうかなさいましたか?」 

 不思議そうに首を傾げられ、ミュリエルを絶賛しながら盗み見ていたシリルは気恥ずかしくなってぽりぽりと頬を掻く。 

「えっと。ね、明日はミュリエルもお休みだよね?」 

 それでもこの機に、とシリルはかねてより考えていた案を口にした。 

「はい」 

「何か予定ある?」 

「いえ、特には」 

 言われ、シリルは前のめりになる。 

「出かけたりしないで、一日ゆっくり休みたい?」 

「いえ、そのようなことも・・・何かあるのですか?」 

「うん。それなら僕と、制服デートしよ?」 

 祝、初街デート! 

 制服デート?とまたも首を傾げつつも、出かけることは了承ですと言ったミュリエルににっこりと笑って、シリルは彼女の白く細い指と自分の指を固く絡めて約束を取り付けた。 

  

 

 

「おお!ミュリエル可愛い!」 

 魔法師団の制服を、ローブまでしっかり着込んだミュリエルを見るなり、シリルは駆け寄って両手を強く握った。 

「シリル様も素敵です。本物の騎士様みたい」 

「そう?」 

 頬を染め言うミュリエルに嬉しくなってシリルがその場でくるりと回れば、短めのマントがひらりと揺れる。 

「きっと、近衛の制服もお似合いになりますね」 

 今日シリルが着ているのは、街の警護にもあたる一般の騎士のもの。 

「ミュリエルがそう言うなら、頑張って次は近衛の制服姿を見せてあげる」 

 そう言うとミュリエルが益々瞳を輝かせるのを見て、シリルは顔が引き攣りそうになるのを懸命に堪えた。 

 

 ああ、僕のお調子者! 

 この一般の騎士の隊服だって、実力も無いのに着せる訳にはいかない、とか言われて、平均の実力が身に付いた、ってなってやっと着せてもらえたのに。 

 近衛の実力って一体いかほど・・・ああ、でも頑張るよ! 

 ミュリエル。 

 そのきらきらには敵わない。 

 

 両手を胸の前で組み、きらきらと瞳を輝かせるミュリエルに胸張って答えたシリルは、内心で訓練の厳しさに腰が引けそうになりながらもそう決意した。 

 

 

 

 

 

「賑わっていますね」 

「そうだね。はぐれないように手を繋いでおこうか」 

「はい」 

 そう言って、シリルがやや下心ありで手を差し出せば、ミュリエルが素直にその手を取る。 

 

 やわらかっ。 

 

 エスコートすることは多々あれど、こんな風にしっかり手を繋いで歩く、しかも街中をふたりきり・・・とはいかず、護衛が後ろにいるけれど、とにかく街中を手繋ぎで歩くのは初めてのことだとシリルは嬉しくなってしまう。 

「シリル様、剣術も頑張っていらっしゃるのですね」 

 一方、ミュリエルは握った手からシリルの努力を知ったらしくそんなことを言って来た。 

 

 気づいてくれる嬉しさ、って染みる。 

 努力した甲斐あった。 

 

 褒められるために努力した訳ではないが、こうして気づいてくれるのは嬉しい、とシリルはによによしかけ、街中であることを思い出して表情筋を引き締めた。 

「ところでシリル様。これは一体、何に使うのでしょう?」 

 言いつつミュリエルが示したのは、自身が身に着けているローブに付いた幾つもの布でできたわっか。 

「ああ。いざ出動、って時はそこに魔道具を装着するらしい」 

「魔道具を。それで、ポケットもたくさんあるのですね」 

 納得した、と頷くミュリエルは新米魔法師のようでとても可愛い。 

「ね、ミュリエル。今日は、僕のことシイって呼ぼうか。僕はミュリエルのことミュリュウって呼ぶから」 

「え?」 

「だってほら、名前からばれちゃうかもでしょ?」 

「ああ、そうですね・・ですが」 

 今日はお忍びなのだから、と尤もらしく言うシリルに頷いたミュリエルが、それでもシイ様というのは何故、と聞こうとしたところでシリルに緊張が奔った。 

「ミュリュウ、ごめん。ちょっと待ってて」 

 そう言うとシリルは人込みをするりと抜け、ひとりの紳士へと近づいていた少年の肩を抱いた。 

「ジャック!ここに居たのか。探したぞ」 

 親し気に名を呼び、その肩を抱いたまま自然な流れで紳士からも人込みからも抜けたシリルが、ミュリエルへと目配せしたのを受けてミュリエルも合流、そのままひと気の無い場所まで移動した。 

「・・・騎士団に連れて行くんじゃねえのかよ?」 

 やせぎすで、何とか服と言えるようなぼろぼろの布を纏っている少年は、未だ十歳前と見える容貌に似つかわしくない鋭い瞳でシリルを見遣る。 

「連れて行かれるような事をしようとした自覚はあるんだな」 

「ある・・・あ、でも誤解すんなよ!?いつもは他人のもんに手を付けたりなんかしない。今日はたまたま、すげえ腹減ってて。パンの匂いに釣られちまっただけだ」 

 懸命に言うその瞳は真剣で、嘘を言っているようには見えない。 

「親は?」 

「いねえ。俺が六つの時、捨てられた」 

 何でも無い事のように言った少年の言葉に、ミュリエルがぴくりと反応した。 

「憐れんでくれなくていいぜ?元々母親しかいなかったけど、お前さえいなければ、ってのが口癖でさ。いつ捨てられるかとびくびくしてたけど、六つまで育ててくれたんだ。御の字だぜ」 

 そこまで育ててくれたから、何とかひとりで生きてこられたと笑う少年に暗いかげは無い。 

「では、今日は腹が減っていた、というのは?」 

「ああ。いつもはどぶ浚いとか使い走りして日銭稼ぐんだけど、熱出しちまってここ何日か動けなかったんだ。それで、旨そうな匂いに釣られちまったってわけ」 

 止めてくれて感謝する、と子供らしからぬ態度で頭を下げた少年が、窺うようにシリルを見る。 

「なんだ?」 

「いや、騎士様をこんな近くで見んの初めてだからさ。やっぱ格好いいな、って。これでも俺、十五になったら傭兵になるのが夢なんだ。騎士様は絶対無理だけど、傭兵なら学が無くても平民でも十五になったらなれる、っていうから」 

「なれるなら騎士がいいのか?」 

「そんなん、思うのも烏滸がましいって。でもさ、誰かを護れるってすげえと思うから。俺でもなれそうな傭兵になって、強くなりたいんだ」 

 そう言ってシリルを見る少年の瞳は希望に満ちている。 

「そう、か。なあ、傭兵じゃなくて兵士になる気は無いのか?」 

 考えるように言ったシリルの腕を、少年はばんっと叩いた。 

「何言ってんだよ、にいちゃん。なる気が無い、んじゃなくて、なれねえんだよ。俺は平民つっても底辺なんだぜ?兵士になるには訓練校に行かねえとならねえ。そんな金ねえって」 

 からからと笑う少年に、シリルは真面目は目を向けた。 

「労働を対価とする制度がある、と言ったら?」 

 ここ、ラングゥエ王国で騎士になるには爵位が必要となるが、兵士となるに身分は関係ない。 

 ただ、少年が言ったように訓練校に通う必要があり、そこを卒業しなければ兵士とはなれない。 

「労働を対価?でも俺、未だ十にもなってねえけど大丈夫なの?」 

 この年齢では訓練校に入学できないのでは、と言う少年にシリルは頷いた。 

「ああ。確かに訓練校には未だ入れない。ただ、この度兵士幼年学校というものが開設された。出来て間もない制度だが、そこの学費はそれぞれの年に見合った労働で払うことが可能になっている。衣食住の保障もあるし、兵士としての戦闘技術だけではなく、実際に作戦を実行する際の動きなども学べるようになっている。もちろん年齢があがって実力が伴えば、そのまま兵士訓練校へ入学できる。希望すれば、対価は同じく労働だ」 

「え・・・あ・・それって」 

 突然降ってわいた情報に混乱する少年を微笑ましく見ていたミュリエルが、不意に眉を顰め少年へと近づいた。 

「お、お嬢様!?」 

「少し、失礼しますね」 

 そして、その腕をそっと取られた少年は更に混乱を極めた様子でミュリエルを見る。 

「お、俺汚いから!その!」 

 焦って手を離そうとする少年の、その二の腕を見てシリルもまた顔を顰めた。 

「怪我をしているじゃないか」 

「こ、これは!腹減ってふらふらしてたから、あちこちぶっついたり、こけたりしたから・・・!大したことねえから、ほんとに!」 

「こういった怪我を放置するのはよくありません。薬は持っていませんが、洗うだけはしましょうね」 

 遠慮する少年に優しく笑いかけ、ミュリエルは魔法で水を出すと丁寧に少年の傷口を洗っていく。 

「すげえ。魔法師様」 

 魔法を扱うミュリエルに尊敬の眼差しを向ける少年を見、シリルは誇らしい気持ちになった。 

 

 やっぱりミュリエルは妖精天使だな。 

 

 などと思っていると、傷口を洗い終わったミュリエルがハンカチを取り出す。 

「え!?も、もう充分だって!」 

 その美しいハンカチで自分の患部を包もうとしていると気づいた少年が叫ぶも、ミュリエルの動きは止まらない。 

「傷口は放置しない方がいいですよ。さ、優しくしますから安心して」 

「そんな心配はしてねえよ!だってそれ、あんたのハンカチだろ!?」 

「ええ、そうですよ。わたくしの物ですし、大きいですから傷口も優しく包めますから大丈夫ですよ」 

 自分の物だし、大きいから大丈夫だ、と笑うミュリエルに、少年は、そういう意味じゃねえ!と叫ぶも通じることは無く。 

「さ、出来ました」 

 ミュリエルのハンカチは、少年の腕にきれいに巻かれた。 

「あ、ありがと・・・女神か」 

 

 そうだろうそうだろう。 

 ミュリエルは見た目だけじゃなく、中身も妖精天使だからな。 

 

 少年の呟きに得意になって頷いていたシリルは、少年がぼうっとなってミュリエルを見つめているのに気づき苦笑した。 

 

 ああ、そんなに見惚れて。 

 まあ、ミュリエルは妖精天使で女神だからな、仕方ない・・・が、おい! 

 見過ぎだろう! 

 

 少年の視線が何となく面白くなくなったシリルは、わざとらしく少年の気を逸らすために口を開く。 

「こほん。ああ、それで。兵士幼年学校の件はどうする?」 

「あ・・・ほんとに行けんなら、行きたい」 

 人生に希望を見出したような少年に、シリルは少し厳しい目になった。 

「兵士として必要な事を学びながら労働もする。簡単ではないと思うぞ?」 

「うん。あのさ、俺、読み書き出来ねえんだけど、それは平気?」 

「基礎学力も学べる。そこは心配ない」 

 シリルの言葉に、少年は力強く頷く。 

「なら、行きたい。俺、働くの苦じゃねえし。ちゃんと作戦のこととか把握できる兵士になれんならなりたい。傭兵になれる年まで、どぶ浚いだけしてるよりずっといい」 

「分かった」 

 その決意を受け、シリルは護衛のひとりに目で合図を送った。 

「はっ」 

 呼ばれ、一歩前に出たのは、街での護衛の任に就く兵士のひとり。 

 騎士の護衛と共に、より街に詳しい兵士も護衛に加わっているのだが、気づいていなかったらしい少年は目を白黒させている。 

「この少年を兵士幼年学校まで連れて行って欲しい」 

「畏まりました」 

 胸に手を当て答える兵士が、少年へと目を向ける。 

「そうだ。お前、名前は?」 

 兵士幼年学校へ預けるにも名を覚えておかねば、とシリルが尋ねれば少年がにやっと笑った。 

「ジャック」 

「え?本当にそうなのか」 

 先ほど自分が適当に呼んだ名と同じだったことで驚くシリルに、少年が問うような目を向ける。 

「本当に、っていうか名前無いから、それ貰う。なんか、嬉しかったし・・・駄目か?」 

 名前を呼ばれるのなど初めてだった、とはにかむ様子は年相応で、シリルは何だか微笑ましい気持ちになる。 

「いいや、駄目じゃない。頑張れよ、ジャック」 

 ぽん、と肩を叩くシリルをジャックは不安そうな目で見上げた。 

「なあ、また会える?」 

「ああ。きちんとやっているか様子を見に行ってやる」 

 にやりとした笑みを返せば、ジャックが嬉しそうに笑い、何処か照れた様子でミュリエルを上目で見る。 

「めが・・お嬢様も?」 

「ええ。また会いましょうね。あ、腕に傷があるの。治療してあげて」 

 ミュリエルが兵士に言えば、兵士が畏まって了承する、その耳が赤いとシリルは鋭く気づいた。 

 

 なんだあいつ。 

 ミュリエルに声かけられて赤くなりやがって。 

 

 などと多少の不服がありつつも、シリルはそれを顔に出すことはせず。 

 兵士と共に去って行くジャックを、ミュリエルと並んで見送った。 

 その姿は凛々しく、女神のようなお嬢様と並んだ姿は一生忘れない、と振り向き手を振ったジャックはその姿を脳裏に刻んだ、のだが。 

「とっても素敵で、格好よかったです。シイ様」
 
 ミュリエルに、こそっと内緒話をするように言われ、シリルは敢え無く撃沈した。 

 
 ぐはっ。
 

 

 
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