私との婚約は政略ですから、恋人とどうぞ仲良くしてください

稲垣桜

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30. 救助

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 視点が変わります。  


 ◇ ◇ ◇



 池に飛び込んで沈んでいくエリザベスの手を掴み、ようやく水面へと引き上げた時、池の浅いところに教師の姿も見えた。どうやら見ていた生徒が呼びに行ったようだ。
 ルカは腕に抱えたエリザベスを大人に託すことなく岸まで運んだ。


「リズ!!リズ!!目を開けろ!リズ!!」


 息のしていないエリザベスを腕に抱き、その恐怖から何をしたらいいのかパニックになっていたルカに、教師が喝を入れた。


「しっかりしろ!水を吐かせて、気道の確保だ!」

「はいっ!」


 見ていた生徒が呼びに行ってくれた保険医もきて、エリザベスの容態を確認していると、彼女がゴボッと水を吐いた。そしてうっすらと目を開けか細い声で何かを言って、そのまままた目を閉じた。


「リズ!!」

「運ぶぞ!」

「「はい!」」


 ルカはエリザベスを抱き上げて、教師の先導で医療室へと向かった。
 この学園では剣術の授業もある為、医療の資格のあるものが保険医として勤めていることもあり、近くの病院へ運ぶよりも適切な治療を受けられる。
 そのこともあり、彼女を医療室へと運び込んだ。

 ルカはエリザベスを抱えながら彼女の身体の冷たいことに、また恐怖を感じて何度もエリザベスに声をかけた。


「リズ、もう着くから」

「リズ、大丈夫か?」

「リズ、しっかり!」


 付き添う教師でさえ、こういう状況でなければ微笑ましく思うその姿を視界に入れ、先を急いだ。



「春先とはいえこのままでは体が冷える。服を脱がせて毛布で包むんだ!」


 ルカは何も考えず、自分でやるべきだという主張をするように彼女を腕から降ろして、その制服のボタンに手を伸ばすと、後ろから襟を掴まれ後ろに引き倒された。


「なっ…!」

「お前、バカか?令嬢の服を脱がすなどもってのほかだ!婚約者であってもダメだろう!」


 そう叱責された瞬間、どこからか現れた看護助手の女性がカーテンをシャッと引いて、エリザベスの世話をし始めた。ルカはそこでようやく自分が何をしようとしたのかに気が付いた。


「…はい」

「しかし、よく助けたな。よくやった」

「先生…リズは…エリザベスは大丈夫ですよね?このまま何てことはないですよね?」

「水を吐いたからな。少し様子を見る必要はあるが、大丈夫だろう。お前もそれに着替えろ」


 看護助手の女性が持ってきたと思われる予備の制服が机の上に置かれていて、ルカはそれに着替えた。
 カーテンの向こう側の着擦れの音を耳にして、慌ただしく動く人の姿を目の端に捉えつつ、その中にエリザベスの声がないかと意識を向けた。


「それで?お前は見たんだろう?何があった?」


 教師からの言葉で、ルカはエリザベスのあの落ちる瞬間を思い出し目をギュッと閉じた。

 あいつらは許すものか!
 





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