私との婚約は政略ですから、恋人とどうぞ仲良くしてください

稲垣桜

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29. 転落する瞬間

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 ※途中から視点が変わります。



 ◇ ◇ ◇




 危機的状況では、周りがスローモーションに見えるというのは本当なのね。
 私の目に映っている風景が、ゆっくりゆっくりとコマ送りのように見えている。

 あ…落ちる!


「リズ!!!」


 ……ルカ…様?


 テラスの木製の柵が壊れていたのか、私はその柵と一緒にテラスの真下にある張り出した庇に体を打ちつけ、その下の池へと勢いよく落ちた。

 ドン!ドボン!という音がして、私の身体は痛みとともに深い水の中へと沈んでいって、水面がどんどんと離れていくのが見えた。



 私…死んじゃうのかしら?





 ああ…
 ルカ様と一緒に出掛けたかったな…



 ルカ様にエスコートされて舞踏会に行って踊りたかったな…



 そういえば、私、ルカ様に何も伝えてない…



 私の気持ち…



 私は…




 揺らめく水面が一瞬陰り、私の視界は真っ暗になった。





 ◇ ◇ ◇





 ルカはエリザベスが二階のテラスにいる姿を見かけて、外階段からテラスに上がろうとしていた。
 リリアンナが休んでいるし、ハッキリと一方的な強迫ともとれる歪な関係の解消を公にしたのだ。
 そして残り僅かの学園生活をエリザベスと過ごそうと決めていたルカは、この日エリザベスを探していた。

 伯爵家を訪ねて全てを話し、もう一度エリザベスとの信頼関係を取り戻したいと切に願い、そしてリリアンナとの嘘で飾られた関係をすべて公表して、ようやくエリザベスとの仲をやり直す一歩を踏み出し始めようとしていた。


 そしてこの日。

 教室へ行くとエリザベスが不在で、どこにいるのかとあちらこちらを探しているうちに、二階のテラスで自分と同じ学年の生徒達と一緒にいるエリザベスを見つけた。

 彼女達がリリアンナの取り巻きの令嬢達だと気が付いたルカは、エリザベスが何か言われているのだろうとすぐにテラスへと急いだが、次の瞬間、令嬢に押されたエリザベスがテラスの柵を突き破って真下の庇に身体をぶつけて池へと落ちていくのを目の当たりにした。


「リズ!!!」


 ルカはエリザベスが池に落ちるのを目の前で見て、全身が凍りつくような不安に支配されたが、すぐに彼女を追うように池へ飛び込んだ。

 池に沈むエリザベスを見失わないよう視界の悪い池の奥に目を凝らし、沈んでいく彼女に手を伸ばした。

 



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