繰り返しのその先は

みなせ

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第3話 彼女の人生 3

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 二度目の目覚めは、流石に夢だとは思わなかった。




 私は家族に、侍女たちに、友人たちに、ありとあらゆる人に私の不思議を尋ねてみた。
 こんなことがあるのかと。
 ある者は笑い、ある者は首を傾げ、ある者は眉をひそめた。
 そうして尋ねた結果は、心配されただけだった。
 いや、私はおかしくなったのだと噂され、それを覆すために無駄な努力をしなければならなかった。

 それでも、同じ人生を三度目だ。
 私はなるべく夢とは違う行動を心がけた。
 まずは、婚約者と仲良くするべく、努力をした。
 政略結婚だけど私は彼を好きだったし、あの女が現れるまでは、それなりに仲が良かったのだから苦労はない。
 あと一歩踏み込むだけだ。



 上手くいっている、はずだった。



 女が現れるまでの時間、たくさん話をし、笑いあい、いろんな事を一緒にした。
 私は前よりも王子の事を知っていた。
 前よりもずっといろいろな意味で近づいていた。
 女が現れても大丈夫、そう思っていたのに……
 どんな因果か、やっぱり私は悪女と呼ばれて死んだ。

 そして、また、目覚めた。
 あぁ、またと思った四度目は、なぜ、この日に戻ってしまうのかと考えた。
 どんなに考えても、分かるわけがない。

 誰に聞いても答えはなく、神に祈っても声は聞こえない。
 分からないまま、それでも私は王子の隣に立つために、頑張った。
 頑張って、頑張って。
 死んで、目覚めてまた頑張って。
 四度目、五度目……何度も何十度も、数えきれないくらい、私は頑張っていた。
 王子との関係や、思い出はいつも違うのに、学園に入って、あの女が出てしまえばその後はいつも同じ。
 私は私の知らぬ場所で悪女になって、あのパーティーで断罪される。
 そして一週間後には死んでしまう。

 もうとっくの昔に、諦めてもいいくらいなのに。
 私はどうしても彼の隣に立ちたかった。
 だって、私は彼が好きだ。
 どんなに心が傷ついていても、何度死んでしまっても、それでも王子が好きだから、折れる心を叱咤して歯を食いしばって頑張った。

 その気持ちが変わったのは、一体何度目の目覚めだったのか。
 もう繰り返しを数えるのをやめた何度目かの朝、王子を好きだと言う気持ちを酷く重く感じた。
 王子の事がなければ、繰り返しの人生は思っているよりずっと楽しかった。
 行った事がない場所へ行けるし、新しい事もたくさん覚えた。
 変わった人、嫌な人、王子より素敵なんじゃないかと思える人とか、たくさんの出会いもあった。
 だから諦める、とまでは行かないけれど、今までのような一途な気持ちではなくなっていたのだと思う。

 そんな時とても気の合った人に、私は私の話をした。

 誰も信じやしないと分かっていたから、そんな物語を読んだ事があると面白おかしくごまかして。
 その人は、興味深げに私の話を聞いて、こう言った。

――――その悪女は何故そんなにも婚約者にこだわるのだろう?
――――それは、悪女が婚約者を好きだから……

 私の答えにその人は笑った。

――――好きだから……か。話を聞くと、その婚約者の運命の相手は浮気相手なのだろう。なら、悪女がどんなに頑張ったって婚約者は悪女を見ないのではないかな? ……自分が幸せになりたいために、婚約者の気持ちを踏みにじるなら、悪女はいつまでたっても幸せになれないのではないかな?

【本当に婚約者を好きだというなら、婚約者の幸せを願うと思わないかい】

 目が覚めた気分だった。

 ずっと自分が彼を幸せにすると思っていたけれど、彼の運命が浮気相手なら、確かに私は邪魔ものの悪女だろう。

【もう好きになってもらわなくていい】

 そう思ったら急に全身が軽くなった。
 その時はもう終わりに近づいていたから、次の人生は彼が幸せになるような生き方を……と、いつもよりおおらかな気持ちで死ねた。

 死んで、目覚めて。

 それからの繰り返しは、彼の幸せを考えて、彼となるべく距離をとるようにした。
 早めに婚約解消を願い出たり、留学したり、
 本気で悪役をやってみたり、
 断罪の日まで一度も会わない事もあった。
 とにかく、彼から離れるために、自分で考えられるありとあらゆる方法を試した。

 何度も、何十度も。
 好きになってもらおうと頑張った時と同じくらい、繰り返した。

 なのに、それも駄目だった。
 何度やっても、やっぱり私は彼に“捨てられて”死んでしまう。
 進んでも、戻っても、逃げても、戦っても、いつも私はあの舞台へ引っ張り出された。

 それはまるで呪いのようだった。
 繰り返して、繰り返して……とうとう
 いや、やっと限界が来た。

 いつもと同じように、あの日の朝に目を覚まし、窓から降り注ぐ光に絶望した。
 もう生きるのも、死ぬのも、
 誰かの幸せを願うのも、考えるのも、







 もうたくさんだった。








 もう、なにもしたくなかった。






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