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第18話 母親
しおりを挟む娘が生まれた。
私が姉と慕うこの国の正妃が産んだ第三王子と、同じ年の娘だ。
側妃二人と共に、子供同士が結婚すれば親戚になれるわねと、笑い話をしたものだ。
そして、半年前に生まれた正妃の子は、男子だった。
すぐにとは言わないが、いつか機会があったら、二人を会わせてみたかった。
―――もし、第三王子と娘がお互いを好きになれば……
夫はこの国の筆頭侯爵で、宰相でもある。
尊敬する正妃と親戚にもなれるし、強い後ろ盾にもなるだろう。
そんな夢を見ていた。
それは馬鹿な母親の夢で、娘が生まれる前から夫にそんな打診が来ているなど知らなかった。
聞いて驚いたが、少し嬉しかった。
娘が正妃のような、素敵な王妃になるならば、どんなに素敵だろうと。
正妃を見ていると、苦労もあるのは分かるが、誰からも愛される存在だ。
娘もきっとそうなるだろうと、また夢を見た。
王子妃教育を受けながら娘は十二歳になり、とうとう第三王子に紹介される日が明日になった。
良く笑う娘が酷く緊張している。
そう思った。
思ったのに、私は良い言葉をかけられなかった。
――――おかしいわ。
まだ顔合わせの話は伝えていない。
新しいドレスに、アクセサリー。靴も扇子も、何もかも娘に一番合うものを取りそろえた。
いつもなら飛び上がるように喜ぶ娘が、その装いをみて深いため息をついた。
十二歳とは思えない、重苦しいため息を。
きっと疲れたのだろうと、その肩を抱き頬を寄せると、娘は涙を落とした。
「どうしたの?」
不思議に思って尋ねると、娘は黙って首を振った。
「よく分からない」
私は、娘が落ち着くまで、ただその背を撫で続けた。
今考えれば、あれは緊張ではない……何かに怯えていた。
昨日までとは違ううつろな目と、やる気のない動きだった。
娘が急に大人になってしまったような……
妙な不安が心に浮かんだ。
嫌な予感がした。
とてつもなく、嫌な感じが。
そして、それは顔合わせの日の朝、現実になった。
娘が……死んでしまった。
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