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第30話 神の世界 8
しおりを挟む愛し子が泣いている。
たくさんの愛を捕まえ、たくさんの愛に傅かれているというのに、愛し子が泣いている。
あの子が幸せになることだけが、私の望みだというのに、何故あの子はいつも泣いているのか。
何度繰り返させても、あの子の望むものは何故かあの子の手には届かない。
届きそうなところで、いつも取り上げられてしまう。
ようやくあの子に立ち向かう大きな祝福を持つものが一人消えたというのに、そのせいなのかもう一人の祝福を持つ者……あの子が望む少年はさらに遠くへ行ってしまった。
もう私が与えられる恩恵も、祝福もない。
私に出来る事は、ここからただ見守るだけ。
どうか、あの子に幸せを。
誰か、あの子にあの子の望むものを与えてほしい。
そう瞳を閉じて、祈るために空を仰ぐ。
「誰も与えられないよ」
真白な空間に、声が響いた。
あの子がいなくなってから、この世界は色を無くしてしまった。
あるのは私の意識だけで、何もかもが失われたはずなのに、何故声が聞こえるのだろう。
「まだそんな風に思っているのか。ここがこうなったのは、あの子のせいじゃない。お前自身のせいだろう」
――――誰だ
「誰って、俺の事も忘れちまったのか」
――――忘れる? 私が?
「あぁ、俺はお前の友達でお隣さんだろう」
――――友達
「そうだ。お前の世界が壊れたのはお前があの子にかまい過ぎたからだ。あんな幼い魂を責め立てれば癇癪をおこすのは当たり前だろう。だから逃げられたんだ」
声は大きなため息をついた。
「あの子が落ちたのは俺の世界だ。あんたの力が強すぎて、今の今まで手をつけられなかった。おかげで俺の大事な子供たちにあんなに悲しい思いをさせてしまったじゃないか」
――――何を言っている? あの世界は私の……
「お前の世界じゃないから、あの子を取り戻せなかっただろう? お前の世界はお前があの子にかまけている間に滅びたんだ」
――――滅びた? 私の世界が?
「そうだよ。滅びたんだ。唯一残ったのがあの子だった。大事に大事に育てていれば、新しい世界になったかもしれないのに……お前があまりにいろいろ押しつけるから、嫌がって逃げたんだ。俺の世界に」
――――そんなはずはない、私はあの子を大事にしていた。誰よりも、何よりも。
「大事にしてたのは分かる。あの子の持ってる加護も恩恵も祝福も満杯だ。俺の世界を惑わすほどに…でもお前の与えた恩恵は、お前にそっくりで我儘で独りよがりだ。お前の世界がそうだったように、あの子の中も同じ。自分の幸せのために、人の幸せを無理矢理奪う事しか考えていない」
――――そんな、筈は、ない。
「ふん、まだそんなことを言うんだな。お前の大事なあの子のせいで、俺の大事な愛し子たちが受けるべき幸せが奪われ、魂が疲弊してしまった。本当にあの子の幸せを願うなら、もう力を回収しろ。お前の力があるせいで、俺の力が陰ってしまう」
――――あの世界は私の世界だ。
「お前の世界なら、何故お前の力が及ばない!」
――――!!!!!!!
「お前の世界は滅びたんだ!」
――――うわーーーーーーーーーっ!!!!
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