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第33話 彼女のその後 4
しおりを挟む「私には、優しい世界じゃなかった」
自然とそう口からこぼれた。
「本当に? 本当に少しも優しくなかった?」
男が悲しそうな顔をするから、私はもう一度考える。
短くて、長い人生だった。
一生懸命になれたのは、王子を好きだった……好きになったからだ。
好きになって、だから、頑張った。頑張れた。
王子の為に頑張ることが楽しかった。
だって、王子もそれに応えてくれたから。
「私には、優しい世界じゃなかった?」
出てきた言葉は疑問形だった。
父も、母も、兄も、みんな、私の周りの人たちは、私の願いを、努力する私を支えてくれた。
王子に会う前も、会った後も。
「優しかったかも、しれない」
あの女が現れるまでは。
「そうか」
満足そうに男が頷く。
「そうだろうね。良かった。思い出してくれて」
「思い出す?」
「あの魂に奪われた君の気持ちだ」
「奪われた気持ち?」
「あの魂は彼を気に入って、君の立場を欲した」
「立場なんて、あの女はすぐ手に入れていたと思うけど」
「それは、場所だろ。ただ彼の隣にいるだけなら、誰でもできる。俺が言ってる立場は、彼と君の関係性だ」
意味がさっぱり分からない。
私と彼は、王子と侯爵令嬢。親たちが決めた婚約者だ。
心は、分からない。
私は王子を好きだったけれど、王子の気持ちは……分からない。
「君たちは俺がこの世界を創るとき初めに生まれたものだった。お互い寄りそいあって、決して離れず、お互いを求めあい守りあいながら生まれてきた。
君たちは俺でも引き離せない運命の糸でつながっていて、世界はそこから始められる。
だから、俺は君たちを愛し子として、この世界の根幹とした。
誰も苦しまないように。悲しまないように、傷つかぬように、飢えぬように。
何度生まれ変わっても、世界が君たちを幸せにして、その幸せが世界を幸せにするようにこの世界を整えた。
それは、この世界が終わるまで、続くはずだった」
と、忌々し気に息を吐いた。
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