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第53話 女 6
しおりを挟むお父様はこの国の王様で、お母様は王妃様。
その二人の間に生まれた私は、王女様だった。
お父様も、お母様も、私が幸せなことが嬉しいと言っては、いつも私に幸せかって聞いた。
幸せが何かまだ良く分からなかったけれど、私が、
「幸せだよ」
って笑うと、お父様とお母様が嬉しそうに笑うから、私も嬉しくなって、聞かれるたびに何度も、
「幸せだよ」
って答えていた。
ある日、なんとなくお父様とお母様に、
「お父様、お母様も、幸せ?」
って聞いたことがあった。
そしたら、お父様とお母様は私を強く抱きしめて、
「幸せだよ」
って、お父様とお母様の昔話をしてくれた。
お父様とお母様は、ずっと、ずっとお互いを求めていて、出会えば必ず愛し合っていたけど、いつもたくさんの障害があって、ずっと一緒にいることはできなかった。
お父様はお母様と一緒にいるために物凄く頑張ったそうだ。
何度も何度も出会っては別れて、また出会っては別れて。
お父様は、別れるたびにお母様を想って泣きわめいた。
でもどんなに泣いても、喚いても、お母様とは一緒にいることは出来なくて、とうとう絶望してお母様と一緒にいられないなら、こんな世界もうどうでもいいて思ったそうだ。
そしたら急に世界が変わって、お父様とお母様はずっと一緒にいられるようになり、今まで敵だったはずのたくさんの人がお父様とお母様を祝福してくれて、その結果私が生まれた。
だから、私はお父様とお母様の幸せの象徴で、私が幸せなことが何より嬉しいのだそうだ。
私にはちょっと難しかったけれど、お父様もお母様も優しいし、私をとっても大切にしてくれる。
皆もそうだ。私が幸せって言って、お父様とお母様が嬉しそうにすれば、それを見て皆も嬉しそうになる。
きっと、それが幸せなんだって、私は思うようになった。
私が幸せだと、お父様とお母様が嬉しい。
お父様とお母様が幸せだと、私も嬉しい。
でも、皆が幸せって思うのは、お父様とお母様が幸せそうにしている時だ。
そう感じたのは、お父様の昔話を聞いてしばらくたってからだった。
お父様は王様で、お母様は王妃様。
この国を良くしようとしている、皆にとって一番大事な人たち。
私より大事に決まっている。
私はそれを、多分生まれる前からちゃんと知っていた。
お父様とお母様が私を見ていてくれるから、皆が私を見ていなくても少しも気にならなかった。
けれど、いつからだろう。
皆が≪私≫を見るようになった。
お父様とお母様の、幸せではなく、≪私≫の幸せを。
≪私≫の姿に賛美の声を上げ、溢れるばかりの贈り物が届けられる。
私が受けるべき恩恵でないものが、すべて≪私≫に向かってくるのだ。
そんなものはいらない、それを行うべき相手はお父様とお母様だと言っても、誰も聞いてくれない。
本当の幸せは分からなくとも、この世界の大事なものを知っている私にとって、それはとても怖いことだった。
だから、私は皆に背を向けた。
私の為にと言うすべてを拒絶し、皆が私に構うほど強く反抗した。
お父様も、お母様も、皆も、私の態度に困惑し、混乱したのだろう。
秩序を失った世界は、あっけなく崩壊した。
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