繰り返しのその先は

みなせ

文字の大きさ
53 / 57

第53話 女 6

しおりを挟む


 お父様はこの国の王様で、お母様は王妃様。
 その二人の間に生まれた私は、王女様だった。

 お父様も、お母様も、私が幸せなことが嬉しいと言っては、いつも私に幸せかって聞いた。

 幸せが何かまだ良く分からなかったけれど、私が、

「幸せだよ」

 って笑うと、お父様とお母様が嬉しそうに笑うから、私も嬉しくなって、聞かれるたびに何度も、

「幸せだよ」

 って答えていた。

 ある日、なんとなくお父様とお母様に、

「お父様、お母様も、幸せ?」

 って聞いたことがあった。
 そしたら、お父様とお母様は私を強く抱きしめて、

「幸せだよ」

 って、お父様とお母様の昔話をしてくれた。







 お父様とお母様は、ずっと、ずっとお互いを求めていて、出会えば必ず愛し合っていたけど、いつもたくさんの障害があって、ずっと一緒にいることはできなかった。

 お父様はお母様と一緒にいるために物凄く頑張ったそうだ。

 何度も何度も出会っては別れて、また出会っては別れて。

 お父様は、別れるたびにお母様を想って泣きわめいた。

 でもどんなに泣いても、喚いても、お母様とは一緒にいることは出来なくて、とうとう絶望してお母様と一緒にいられないなら、こんな世界もうどうでもいいて思ったそうだ。

 そしたら急に世界が変わって、お父様とお母様はずっと一緒にいられるようになり、今まで敵だったはずのたくさんの人がお父様とお母様を祝福してくれて、その結果私が生まれた。

 だから、私はお父様とお母様の幸せの象徴で、私が幸せなことが何より嬉しいのだそうだ。

 私にはちょっと難しかったけれど、お父様もお母様も優しいし、私をとっても大切にしてくれる。

 皆もそうだ。私が幸せって言って、お父様とお母様が嬉しそうにすれば、それを見て皆も嬉しそうになる。

 きっと、それが幸せなんだって、私は思うようになった。






 私が幸せだと、お父様とお母様が嬉しい。

 お父様とお母様が幸せだと、私も嬉しい。

 でも、皆が幸せって思うのは、お父様とお母様が幸せそうにしている時だ。

 そう感じたのは、お父様の昔話を聞いてしばらくたってからだった。

 お父様は王様で、お母様は王妃様。

 この国を良くしようとしている、皆にとって一番大事な人たち。

 私より大事に決まっている。

 私はそれを、多分ちゃんと知っていた。

 お父様とお母様が私を見ていてくれるから、皆が私を見ていなくても少しも気にならなかった。

 けれど、いつからだろう。

 皆が≪私≫を見るようになった。

 お父様とお母様の、幸せではなく、≪私≫の幸せを。

 ≪私≫の姿に賛美の声を上げ、溢れるばかりの贈り物が届けられる。

 私が受けるべき恩恵でないものが、すべて≪私≫に向かってくるのだ。

 そんなものはいらない、それを行うべき相手はお父様とお母様だと言っても、誰も聞いてくれない。

 本当の幸せは分からなくとも、この世界の大事なものを知っている私にとって、それはとても怖いことだった。

 だから、私は皆に背を向けた。

 私の為にと言うすべてを拒絶し、皆が私に構うほど強く反抗した。

 お父様も、お母様も、皆も、私の態度に困惑し、混乱したのだろう。





 秩序を失った世界は、あっけなく崩壊した。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は処刑されました

菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

彼は亡国の令嬢を愛せない

黒猫子猫
恋愛
セシリアの祖国が滅んだ。もはや妻としておく価値もないと、夫から離縁を言い渡されたセシリアは、五年ぶりに祖国の地を踏もうとしている。その先に待つのは、敵国による処刑だ。夫に愛されることも、子を産むことも、祖国で生きることもできなかったセシリアの願いはたった一つ。長年傍に仕えてくれていた人々を守る事だ。その願いは、一人の男の手によって叶えられた。 ただ、男が見返りに求めてきたものは、セシリアの想像をはるかに超えるものだった。 ※同一世界観の関連作がありますが、これのみで読めます。本シリーズ初の長編作品です。 ※ヒーローはスパダリ時々ポンコツです。口も悪いです。 ※新作です。アルファポリス様が先行します。

悪役令嬢、休職致します

碧井 汐桜香
ファンタジー
そのキツい目つきと高飛車な言動から悪役令嬢として中傷されるサーシャ・ツンドール公爵令嬢。王太子殿下の婚約者候補として、他の婚約者候補の妨害をするように父に言われて、実行しているのも一因だろう。 しかし、ある日突然身体が動かなくなり、母のいる領地で療養することに。 作中、主人公が精神を病む描写があります。ご注意ください。 作品内に登場する医療行為や病気、治療などは創作です。作者は医療従事者ではありません。実際の症状や治療に関する判断は、必ず医師など専門家にご相談ください。

いらない子のようなので、出ていきます。さようなら♪

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
 魔力がないと決めつけられ、乳母アズメロウと共に彼女の嫁ぎ先に捨てられたラミュレン。だが乳母の夫は、想像以上の嫌な奴だった。  乳母の息子であるリュミアンもまた、実母のことを知らず、父とその愛人のいる冷たい家庭で生きていた。  そんなに邪魔なら、お望み通りに消えましょう。   (小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています)  

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

私たちの離婚幸福論

桔梗
ファンタジー
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。 しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。 彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。 信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。 だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。 それは救済か、あるいは—— 真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。

処理中です...