繰り返しのその先は

みなせ

文字の大きさ
54 / 57

第54話 女 7

しおりを挟む



 突然、黒い雲が空を覆って、雷が鳴り響いた。

 大地が揺れ動き、冷たい風が吹き渡って、雹が降り注いだ。

 あちこちで悲鳴が上がり、誰もが逃げ惑っていた。

 ―――お父様、行っちゃ駄目、お母様から離れないで。私たちの側にいて!

 怖いからだけじゃない。

 お父様とお母様。そして私はんだ。

 そうじゃなきゃ、本当に壊れてしまう。

 何度も何度も行かないでとお願いしたのに、お父様はたくさんの兵士を連れて王宮から出ていってしまった。

 私はお母様と一緒に、王宮の窓からそれを見送るしかなかった。

 空がますます暗くなって、王宮もあちこちが崩れ始めて、お父様が向かった先の方で土煙と火の手が上がった。

「ああ、また失われるの? やっと一緒にいられると思ったのに……」

 お母様がそう悲鳴を上げる。

 ―――だから言ったのに!!

 お母様より、私の方が泣き叫びたかった。

 でも、それを声に出すより先に、轟音が響き目の前が真っ暗になった。











 真っ暗になって、真っ白になった。

 上も、下も、右も、左も、真っ白だ。

 怖くなって、逃げようと思ったのに、手も足も動かない……動かしているのに、動いているような気がしない。

 ―――お母様! お父様!

 力いっぱい叫んだのに、叫んでいるのに……声が聞こえない。

   【誰か!!】

   【誰か!!】

   【誰か!!】

 上を見て、下を見て、右を見て、左を見て、叫んでも、叫んでも、誰も答えてくれない。

 叫び疲れて動きを止めると、白い壁が押し寄せてくるような気がして、さらに怖くなる。

 音もないし、何もない……誰もいないはずなのに、誰かがいるような感じがするし、見えない何かが自分の中に入ってくるような気もする。

   【怖い!!】

   【怖い!!】

   【怖いよっ!!】

 そして、気持ち悪い。

 恐怖に震える体を縮めて、ぐるぐると周囲を見回せば、少し離れた場所に黒い点があるのを見つけた。

 ―――あれは何だろう?

 遠いのか、近いのかも分からないが、妙に引きつけられる。

 ―――こんな怖いところにいつまでもいられない。

 その黒い点が、なぜか希望に見えた。

 ―――そうだ、行ってみよう。あそこまでたどり着けば、きっと。

 なんの確証もないけれど、ひたすらに黒い点を見据えて、もがいて、もがいて、もがき続けた。

 ―――きっと、この怖い場所から逃げられるはず。あと、少し。あと、少し。あと少しなの。









【真っ白な世界より、真っ黒な世界の方が】

 ―――安心するの。

 ≪だって、隠れる場所があるでしょう?≫


 そうじゃないと、すぐに殺されてしまうわ。



【穏やかな世界より、荒々しい世界の方が】

 ―――楽しいの。

 ≪だって、毎日って変化するものでしょう?≫


 そうじゃないと、面白くないじゃない。



【与えられるより、奪う方が、ずっとずっと】

 ―――気分がいいわ。

 ≪だって、それが強さの証明でしょう?≫

 そうじゃないと、夢はかなわないのよ。





 だって、私たちはいつだって……


        ―――神を超えるのが、願いなのだから。











 もがいて、もがいて、もがいて。

 私は、真っ黒な世界に、飛び込んだ。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は処刑されました

菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

彼は亡国の令嬢を愛せない

黒猫子猫
恋愛
セシリアの祖国が滅んだ。もはや妻としておく価値もないと、夫から離縁を言い渡されたセシリアは、五年ぶりに祖国の地を踏もうとしている。その先に待つのは、敵国による処刑だ。夫に愛されることも、子を産むことも、祖国で生きることもできなかったセシリアの願いはたった一つ。長年傍に仕えてくれていた人々を守る事だ。その願いは、一人の男の手によって叶えられた。 ただ、男が見返りに求めてきたものは、セシリアの想像をはるかに超えるものだった。 ※同一世界観の関連作がありますが、これのみで読めます。本シリーズ初の長編作品です。 ※ヒーローはスパダリ時々ポンコツです。口も悪いです。 ※新作です。アルファポリス様が先行します。

悪役令嬢、休職致します

碧井 汐桜香
ファンタジー
そのキツい目つきと高飛車な言動から悪役令嬢として中傷されるサーシャ・ツンドール公爵令嬢。王太子殿下の婚約者候補として、他の婚約者候補の妨害をするように父に言われて、実行しているのも一因だろう。 しかし、ある日突然身体が動かなくなり、母のいる領地で療養することに。 作中、主人公が精神を病む描写があります。ご注意ください。 作品内に登場する医療行為や病気、治療などは創作です。作者は医療従事者ではありません。実際の症状や治療に関する判断は、必ず医師など専門家にご相談ください。

いらない子のようなので、出ていきます。さようなら♪

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
 魔力がないと決めつけられ、乳母アズメロウと共に彼女の嫁ぎ先に捨てられたラミュレン。だが乳母の夫は、想像以上の嫌な奴だった。  乳母の息子であるリュミアンもまた、実母のことを知らず、父とその愛人のいる冷たい家庭で生きていた。  そんなに邪魔なら、お望み通りに消えましょう。   (小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています)  

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

私たちの離婚幸福論

桔梗
ファンタジー
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。 しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。 彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。 信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。 だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。 それは救済か、あるいは—— 真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。

処理中です...