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第54話 女 7
しおりを挟む突然、黒い雲が空を覆って、雷が鳴り響いた。
大地が揺れ動き、冷たい風が吹き渡って、雹が降り注いだ。
あちこちで悲鳴が上がり、誰もが逃げ惑っていた。
―――お父様、行っちゃ駄目、お母様から離れないで。私たちの側にいて!
怖いからだけじゃない。
お父様とお母様。そして私は一緒にいなければならないんだ。
そうじゃなきゃ、本当に壊れてしまう。
何度も何度も行かないでとお願いしたのに、お父様はたくさんの兵士を連れて王宮から出ていってしまった。
私はお母様と一緒に、王宮の窓からそれを見送るしかなかった。
空がますます暗くなって、王宮もあちこちが崩れ始めて、お父様が向かった先の方で土煙と火の手が上がった。
「ああ、また失われるの? やっと一緒にいられると思ったのに……」
お母様がそう悲鳴を上げる。
―――だから言ったのに!!
お母様より、私の方が泣き叫びたかった。
でも、それを声に出すより先に、轟音が響き目の前が真っ暗になった。
真っ暗になって、真っ白になった。
上も、下も、右も、左も、真っ白だ。
怖くなって、逃げようと思ったのに、手も足も動かない……動かしているのに、動いているような気がしない。
―――お母様! お父様!
力いっぱい叫んだのに、叫んでいるのに……声が聞こえない。
【誰か!!】
【誰か!!】
【誰か!!】
上を見て、下を見て、右を見て、左を見て、叫んでも、叫んでも、誰も答えてくれない。
叫び疲れて動きを止めると、白い壁が押し寄せてくるような気がして、さらに怖くなる。
音もないし、何もない……誰もいないはずなのに、誰かがいるような感じがするし、見えない何かが自分の中に入ってくるような気もする。
【怖い!!】
【怖い!!】
【怖いよっ!!】
そして、気持ち悪い。
恐怖に震える体を縮めて、ぐるぐると周囲を見回せば、少し離れた場所に黒い点があるのを見つけた。
―――あれは何だろう?
遠いのか、近いのかも分からないが、妙に引きつけられる。
―――こんな怖いところにいつまでもいられない。
その黒い点が、なぜか希望に見えた。
―――そうだ、行ってみよう。あそこまでたどり着けば、きっと。
なんの確証もないけれど、ひたすらに黒い点を見据えて、もがいて、もがいて、もがき続けた。
―――きっと、この怖い場所から逃げられるはず。あと、少し。あと、少し。あと少しなの。
【真っ白な世界より、真っ黒な世界の方が】
―――安心するの。
≪だって、隠れる場所があるでしょう?≫
そうじゃないと、すぐに殺されてしまうわ。
【穏やかな世界より、荒々しい世界の方が】
―――楽しいの。
≪だって、毎日って変化するものでしょう?≫
そうじゃないと、面白くないじゃない。
【与えられるより、奪う方が、ずっとずっと】
―――気分がいいわ。
≪だって、それが強さの証明でしょう?≫
そうじゃないと、夢はかなわないのよ。
だって、私たちはいつだって……
―――神を超えるのが、願いなのだから。
もがいて、もがいて、もがいて。
私は、真っ黒な世界に、飛び込んだ。
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