繰り返しのその先は

みなせ

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第55話 女 8

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 黒い点の中は、真っ黒で、真っ暗だった。

 振り返れば、真っ暗な中に、白い点があった。

 光が漏れているような感じではなく、ただあるだけ。


 ―――あちら側には、もう戻りたくない。


 そう思って、それから離れる為に闇の中を進む。

 目が慣れれば何か見えるようになるのかと思ったけど、いつまでたっても辺りは全く見えないまま。

 それでも。

 何も見えないからこそ、安心できた。だから、どこまでも進み続けられた。

「お前は、何?」

 どのくらい進んだだろう。ふいに少女の声がした。

 見上げれば、人の形をした白い影があった。

 目も口も鼻も耳も髪の毛もない。

「どこから来たの? どうしてここにいるの?」

 矢継ぎ早に質問をして、腕を伸ばしてくる。


 ―――逃げなくては!


 でも、どこへ?

 逡巡して影に背を向けたところで、そのまま手のひらにすくい上げられた。

「ああ、あの穴から来たのね」

 影が歩き出すと、否応なくあの白い点が見えた。

 あんなに逃げたはずなのに、白い点は最初に見た時と同じ場所にある。


 ―――嫌だ、嫌だっ! そっちには行きたくないのっ!


 手から逃れようと暴れると、影は足を止めた。


 ―――お願いだから、そっちには行かないで。


 願いを込めて影を見上げると、真っ白な頭の目の位置に空いた二つの闇が、私をのぞき込んでいた。

 艶々したその目の表面に、私が映り込む。

 間違いなく私がいる位置に、ほんのりと光る丸い球があった。


 ―――ひっ!


 驚いて体が跳ねると、影の目の中の球も跳ねる。

「嫌なの? でも、貴方を探しているみたい」

 私の動揺など少しも気にせず、影は視線を白い点の方へ向けた。

「……ほら、あんなに手を伸ばして」

 そう言われれば、衝撃よりもそちらが気になる。影の視線を追いかけると、白い点が大きな手の形になって、おいでおいでをしていた。

 いや、私を掴もうと手を伸ばしているのだろう。


 ―――ひっ!


 またも飛び上がる。そのまま手から逃れようとしたが、影はしっかりと私を握りこんだ。

「行きたくないのね?」

 うなずく。

「そう。でも、あれは何かしら?」

 ―――私だって知らない。

「あちら側は白い世界なのね」

 ―――そうよ。とても怖い世界なの。

 聞こえているのか、いないのか分からない。影はしばらく白い点の方を見つめた後、ふふふと笑った。





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