繰り返しのその先は

みなせ

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第56話 女 9

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「聖女様がおっしゃっていたの。

 神がいらっしゃる場所は汚れなき真白な世界だと。

 正しく生きて心が綺麗なままなら、死んだ後、神様のいらっしゃる白界に行くことが出来るのですって。

 あんなに真っ白なんだもの、あちら側は神様のいらっしゃる場所なのかしらね。

 あそこがもし神様がいらっしゃる場所で、貴方があそこから来たなら、貴方は神様が、憐れな私を助けるために、貴方を遣わしたのかしら?」

 影は歌うようにそう言って、肩をすくめた。

「……違うわね。私はもう真っ黒だもの。きっと神様がいる場所には行けないわ。分かってる。大丈夫よ」

 私をギュッと握りしめ、影はため息をつく。

「なら、貴方は何故ここに来たの?」

 ――――あそこにいるのが嫌だったから。

 そう伝えたくとも、私は丸い球でしかないから、声は出ない。

「ここよりあちら側のほうが、ずっといい場所のような気がするわ」

 ――――そんなことない。

 首を振っているつもりでも、首がないから、体が震えるだけだ。

「あちら側は嫌なのね」

 嫌だということは伝わるようだ。

「こんなに美しい色だもの、悪いことをして、逃げてきたわけでもないでしょう?」

 逃げてきたのは合っている。悪いことをしたのはああっちの方だ。

「ものすごく強く貴方を呼んでいる……なんとなくだけど、早く戻った方がいいわ。ここはもうずっと真っ黒で、どんなに祈っても願ってもきっと白くはならないから。こんなにきれいな貴方がいるべき場所じゃないと思う」

 綺麗とか関係ない。私はあちら側には行きたくない。暗い方が落ち着くの。
 私はその手から逃れようと、思い切り体を動かした。

「どうしてそんなにあちらが嫌なのかしら。あちらの方が絶対いいはずなのに」

 影は真っ黒な瞳で私を見つめて、点の方を見て、フフフと笑った。

「一人で行くのが怖いなら、私も一緒に行ってあげる」

 ―――何を言っているの。そんなことやめて。

 一生懸命暴れる。けれど、影の手が緩むことはない。

 影がゆっくりと歩き出す。

「私、病気なの。もういつ死んでもおかしくないんですって。

 お父さんとお母さんが一生懸命私を助けようとしてくれているけど、具合はどんどん悪くなってる。

 だから、今度はいつ具合が悪くなるのか、いつ本当に死んじゃうのかとか考えると、ものすごく不安で、もう終わりにしたいって、思うときがあるの。

 こんなこと言ったら、一生懸命なお父さんたちにも悪いし、皆が悲しい顔をするでしょ。

 だから、我慢してた。

 そしたら、真っ白だった世界が、ある時から真っ黒になって、聖女様に私がとても良くない状態になっているって言われてしまったの。

 聖女様は病気やけがを治したり、心を穏やかにしてくれるはずなのに、私の病気も治せなかったし、心も理解してくれなかった。

 それどころかこのままじゃ神様も助けてくれないなんて言うの」

 ―――やめて、駄目よ。そっちへ行ったら駄目っ!!

「貴方と一緒なら、また真っ白な世界に行けるかもしれない。そんな気がするの」

 影は楽しそうにどんどん進んでいく。

 もうすぐ白い手が届く場所まで近づいて私を掲げ持った。

「きっと大丈夫よ」

 ―――大丈夫じゃないっ!!!!

 真っ白な手が私に伸びる。

 私は目を閉じて、悲鳴を上げた。




 ―――いやああああああっ!!!!




 その瞬間、バリンッと、何かが割れる音がした。



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