繰り返しのその先は

みなせ

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第57話 女 10

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 バリンッと大きな音がして、地面が揺れたのか、風が吹いたのか、そのどちらもだったのか。

 白い影がバランスを崩して、私はその手から投げ出された。


 ―――世界が……壊れている?


 開かれた視界に、黒い空間に蜘蛛の巣のようなひびと、そこから漏れる白い光が目に入る。

 そして、バランスを崩しながらも私の方を向いている影と、黒い壁を壊すようにしてさらに伸びてくる大きな白い手が。

 白い手は、私を追いかけるように、腕を伸ばして、ぐいんと大きく空をかく。

 そのたびに黒い空間は欠片になって、白い光の中に散らばる。

 運が良いことに、私が飛ばされた方向は、白い手とは反対だった。

 と、私を見ていた影が、少し迷った素振りを見せてから、手に向かって動いた。

 一歩、また一歩。

 強い向かい風の中を進むようにして、ゆっくりと白い手に近づく。


 ―――何をしているのだろう? それに近づいてはダメよ。


 そう思えども漂う以外、私にはなす術もない。

 このまま遠ざかりたいと、ひたすら願い、影を眺める。

 ずいぶん長い時間をかけて、影はとうとう白い手にたどり着いた。

 そして、その前に立ちふさがった。

 高く持ち上げられた白い手が、影に向かって振り下ろされる。


 ―――ああ、ダメよ!!!


 そう思った瞬間、



 バリンッ!!!!



 さっきよりずっと大きな音が響いた。

 白い手によって弾き飛ばされた影が、見えない壁に叩きつけられ、まるで陶器のように割れた……その音。


 ―――ああっ!


 私は悲鳴を上げた。

 白い手が、さらに大きく空をかく。


 カツン。

 ずいぶん軽い音がして、私の体(?)が地面(?)に落ちる。

 視界の端で、粉々に砕けた影から真っ黒な煙が立ち上り、黒い欠片と一緒に渦を巻いて私の方に向かってくるのが見えた。


 ――!!!!


 ザクザクと欠片が突き刺さり、煙が視界を奪った。

 痛みはない。けれど、何かが自分の中に入ってくる。

 苦しみ、悲しみ、怒り、切なさ、不安、恐怖、羨望……ありとあらゆる負の感情。



 そして、最後に、虚無。



 それはとても懐かしい、感情だった。

 ずっとずっと体の奥の方にあって、忘れていた、失くしていた、気持ち。

 思い出せそうで、思い出せなかった。

 私に必要だったもの。



 【大丈夫。私は――貴方、貴方は……私。】



 私は、自分の中に入ってきたすべてを、飲み込んだ。



 ―――欲しいものは、奪うの。

 ―――それが、不安を消す最大の特効薬。



 目の前の煙が消えると、世界は灰色になっていた。

 影も、白い手も、もうどこにもない。


 ほっとして、そのせいか、意識が薄れる。

 でも、もう知っていた。





 そう、これが、本当の≪私≫だと。








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感想 2

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みんなの感想(2件)

こばち
2025.10.21 こばち

頑張って最後まで読んだけど、意味不明でした。
さっぱり???

2025.10.21 みなせ

こばち様

頑張って最後まで読んでいただき、
ありがとうございました。

なるべく理解していただけるよう、
この先頑張りたいと思います。

感想ありがとうございました。

解除
こばち
2025.10.21 こばち

お友達がすでに複数形ですので(達=複数を示す。友達は友たち、なので複数の友の事).日本語が崩壊してると思います。
話し言葉であれば気にならないのでしょうが…

2025.10.21 みなせ

こばち様

友人たち、が正しいとは思いますが、
作中の「女」の思考の中での認識表現ということで、
お友達”たち”にしています。

ちゃんとした日本語表現は難しいです……。
ご指摘ありがとうございました。

また何かありましたらよろしくお願いします。

解除

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