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第九章 変わりゆくヘタレの世界
第十九話 セグA
しおりを挟む「兄ちゃん、もう卵ないのか?」
「ちょっとまて、クレアに解毒してもらってからな」
すき焼きはガキんちょどもに大好評だ。数人が春菊は苦いから苦手とかいうのが出たくらいだ。春菊の美味さがわからないなんてやっぱり子どもだな。
と言っても確かにファルケンブルク産の春菊は葉の大きさも小ぶりで少し香りと苦みが強いから仕方が無いのかも。
ただ肉や野菜を溶いた生卵に付けて食べるスタイルは子供たちにとっては楽しいらしく、予想以上に生卵を消費している。
解毒魔法をかけちゃえば問題なく生食できるんだが、できればいちいち解毒魔法を使わなくても生食できるように生産して流通させられないかな?
「お兄ちゃんすき焼きって美味しいね!」
「いっぱい食えよ。お代わりもあるぞ」
「うん! ミコトちゃんもエマちゃんも気に入ったみたいだよ!」
言われてミコトとエマを見ると、ふたりとも上手に箸を使いこなして卵液に牛肉を浸してから器用に食べている。
ああ、なるほど、前に魔導遊園地のレストランで貰った小さなボウルに卵液を入れて食べているのか。そりゃお気に入りになるだろうな。
「兄さま、この籠に入った卵の解毒が終わりました」
「ありがとうなクレア。一号、持って行っていいぞ」
「おう! ありがとうな兄ちゃん、クレア!」
一号が籠から卵をふたつ取り出して自分の席に戻る。二個も食うのか?
「兄さま、解毒魔法を使わないで食べる方法があるのですか?」
「そうだな、健康な親鶏にしっかり管理された鶏舎、新鮮なうちに輸送できる流通網があれば何とかなるかもな。もちろん定期的な検査とか解毒は必要だろうけど」
「美味しいし売れそうな気がしますね」
「卵の生食が受け入れられればな」
ガキんちょ連中には普通に受け入れられてるしTKGも普通に食ってるけど、一般に受け入れられるかと言うと怪しいだろうな……。
米や味噌、醤油はなんとか売れ始めてきたって程度だし、生卵はハードルが高すぎると思う。
「シメにうどんを入れるからなー」
「「「おおーー!」」」
シメのうどんすきを堪能した後、食休みもとらずに急かしてくるマリアに連れられて魔導ハイAを置いてある駐車場まで向かう。
「食後のお茶の一杯くらい飲ませろよマリア」
「でもセンセ! はよ見たいんや!」
「わーったわーった」
マリアとクリスを連れて玄関を出てると、家のすぐ脇にある作ったばかりのガレージに向かう。
ガレージの壁に備え付けられたボタンを押すと、ガラガラとシャッターが自動的に巻き上げられていく。無駄機能過ぎる。
「おおー!」
少しずつシャッターが上がり、魔導ハイAの漆黒のボディが徐々に姿を現していく。
「魔導駆動車にはいくつかのバリエーションが存在するが、これは二年ほど前に一番最初に作られた試作車両だ」
「えらいかっこええですね!」
「俺のいた世界でも人気車種だったしな」
「そういえばここの領主さまは<転移者>という話でしたね。センセは<転移>してきたんですね」
「そういやその話はしてなかったか。しかしエルフ国にも<転移者>の話は伝わってるんだな」
「国には過去<転移者>と会ったことがあるって人もいたと思いますよ」
「まあ千年近く生きてるならそういうこともあるかもな」
「閣下、失礼いたします」
マリアが魔導ハイAを興味深く観察していると、アイリーンがガレージに入ってくる。
「どうしたアイリーン」
「マリア殿から預かっていた魔導具をお持ちしたのです。その……ファルケンブルクの町に侵入したと申告されましたので、危険が無いか調査しておりました」
「不法侵入かよ……」
「いやいやセンセ! 入門税が払えないからやむなく! ちゃんと面接の時に申告しましたし!」
「ちゃんと門番に話してれば無料だったんだぞ」
「知らなかったんで!」
「求賢令の公布と同時に受験者は無料にしたんだが、周知期間がなかったし仕方ないか」
「そうそう! 流石センセ!」
「で? 侵入に使った魔導具って?」
「こちらです」
アイリーンが目配せすると、メイドさんふたりがかりで運んでた、どこかで見たような乗り物をガレージの前に置く。
人ひとりが乗れる丸い台座に、T字の長い取っ手のようなものが備え付けられている。取っ手の高さは一メートル三十センチくらいか。
まるでタイヤの無いセグ〇ェイのようなデザインだ。
「あ、返してもらって良いんですか?」
「特に危険はありませんでしたから」
助手席下に設置されている魔導エンジンを見ていたマリアが、置かれたセ〇ウェイのもとに歩いてくる。
というかなんで助手席の下にエンジンがあるってわかったんだこいつ。しかも助手席を下げてエンジンルームを開けてるし。
「というかこれどうやって使うんだ? なんとなくわかるけど」
「この足場に乗ってハンドルを握ると、私が集めた魔素を使って浮遊するんです」
「おお、空飛ぶアイテムか!」
「と言っても乗った人間が集めた魔素を使うので、乗り手の能力次第で稼働時間が決まるんですよね。私だと十分で息切れしてしまいます」
「なるほど、それで魔素を蓄積する技術を研究してるのか」
「魔素はすぐに霧散してしまいますしね」
「これ魔力では動かないのか?」
「難しいですね。でもそれも研究中です」
もしこれが魔力で動くようになったらとんでもないことになりそうだな。しかし空を飛ぶ乗り物か。研究資金がどれくらい必要なのかはわからんが期待してしまうな。
「名称とか決めてあるのか?」
「これは最終的な完成品の一部機能だけを持たせたパーツのようなものなんです。ですので『セグメントA』略して『セグA』と呼称しています」
「あかん」
「なんであかんのですかセンセ!」
「普通に『セグメントA』で良いだろ。なんで略すんだ」
「普通は長い名称って略しますよね?」
「駄目駄目!」
「魔素を蓄積できるようになって長時間稼働が可能になったセグAが完成すれば、セグAを四方に取り付けた空中浮遊砲座など色々発展するんですよ!」
「それは良いけど略称は駄目だ!」
「空中浮遊砲座は良いのですね旦那様!」
なぜか別の単語に反応するクリスと、その横に立っていたアイリーンも目を輝かせ始める。
そういやこいつら過激派だった。
結局この一件で、マリアの技術開発のための研究費用として多額の予算が割り当てられることになるのだった。
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