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第九章 変わりゆくヘタレの世界
第二十九話 ナビ風魔導レーダー
しおりを挟む魔力を帯びた料理の件から一週間後、今はクリスとシルヴィア、マリアとエカテリーナを魔導ハイAに乗せてエルフ国へ向かっている。
料理の検証に関しては爺さんたち魔導士協会に任せてある。
結果が出るまでは朝の弁当販売は魔力を持たない職員たちが作った物に切り替えた。
家ではいつも通りに俺とクレアの作った料理を出してるがな。急に止めて体に影響が出ても困るし。
「しかしよくこんなに早く謁見の許可が出たな。普通は国王ってこんな簡単に会えないんだろ? ラインブルクでの叙爵式でもやたらと時間かかってたし」
「基本的にエルフ国王は暇ですからね」
「せやでセンセ! アポイントメント無しに直接行っても謁見出来ましたよ! 多分ビビッて返答が遅れたんだと思いますわ」
「なんでビビってるんだよ……」
「だんだんファルケンブルクの伐採してる区画が近づいてきてたからですかね?」
「むしろ怒れよ、侵犯してるのはこっちなんだから」
「一応ファルケンブルク的には勝手な伐採を謝罪したいのと、今後の友好関係を結びたいという旨を父からエルフ国の高官に伝えてもらいましたけどね」
「ちゃんと伝わってるのかなそれ」
「多分大丈夫だと思います。それにエルフ国は精霊魔法の使い手は多いですが、国民の数が少ないので戦力的にはへなちょこですしね。国軍の規模も小さいので、竜種の天竜相手になんとかってところでしょうか」
「いやいや十分すぎる戦力だろそれ。それに戦争する気なんかこれっぽっちも無いからな」
「お兄様! 大丈夫です! 何があってもわたくしがお兄様をお守りいたしますから!」
鎧を纏って一期一振を佩いているシルが大声で自己主張を始める。
というか鎧が当たって本革シートが破けちゃうだろ……。
「そんな事態にはならないだろうし、そもそも喧嘩しに行くわけじゃないんだからその恰好はやめてほしいんだが」
「ファルケンブルク伯爵領領主自ら他国へ親善に向かうのです。護衛がつくのは当たり前ではないですか!」
「物騒なのは勘弁してもらいたいんだが。あとシートが破れそうだから背もたれから体を離してくれ」
「旦那様、シルヴィアの気持ちも察してあげてくださいな」
「どうせお前がシルに武装しろとそそのかしたんだろ。威圧してあわよくばエルフ国が屈するかもとか考えてそうだし」
「あら、そんなことはありませんわ。むしろシルに怯えて向こうから先制攻撃でもして貰えればこちらの良いように今後の交渉の主導権を握れますもの」
「お前、実の妹をなんだと思ってるんだ」
「少々の攻撃魔法が当たってもシルヴィアなら大丈夫ですわ。わたくしが鍛え上げましたもの」
「そうですよお兄様! わたくしが盾になってお兄様をお守りいたしますからね!」
後部座席に座るシルが急に立ち上がり、俺を守るとアピールしてくる。
もちろん狭い車内なので立ち上がりきれず車内のあちこちに体をぶつけている。
やめて暴れないで。シートとか内張りがヤバいから。
「シルわかったから。ありがとうな、頼りにしてる。ただ走行中にシートベルトを外すな危ないから」
「えへへ! わかりました!」
アホだけど素直なところは可愛いんだよな。まるで犬だな。サクラよりよっぽど犬っぽい。
俺から頼りにされていると言われたからか、んふーふふふーとご機嫌なシルが少し大人しくなった。
それにしてもエルフ国への親善の贈り物として荷車一杯分の肉やら肉に合うソース、あとは米と魔導炊飯器百台とそれらを一年分動かせる魔石を持ってきたが、随分と食い物に偏ってるんだが大丈夫だろうか?
もちろんマジックボックスに収納済みなので肉が傷んだりするようなことは無い。
マリア、エカテリーナとクリス、アイリーンで品目を調整したようだが、やたらと不安だ。
「大丈夫ですわよ旦那様」
「俺の考えを読むな」
「常に慎重な旦那様ですもの、それくらいわかりますわ」
「ヘタレと言わないところが流石にクリスだな。軍事関連だと平気で俺をヘタレ呼ばわりするが」
<ピコーン 音声案内を開始します>
南門を出て一時間ほど街道を南下したところで、ナビ風レーダーから魔物発見という意味の音声案内がされた。
「旦那様」
「また魔物か。しかしいつまでこのズレた音声案内のままにしておくんだよ。早く直せよ」
「探査」
クリスが即座に探査魔法を使う。そのあいだに俺は魔導ハイAを停車させ、ナビ風パネルのボタンを操作して魔導砲と魔導高角砲をスタンバイさせる。
なんだかんだ武装がついてて楽っちゃ楽なんだよな。
魔導ハイAのボディ内に格納されていた魔導砲と魔導高角砲が砲身を伸ばし始めると同時に、レーダーが自動的に目標に対して照準を定め始める。
「どうだクリス」
「旦那様、飛竜一匹ですわ」
<ピコーン 二十キロ先 目的地周辺です>
レーダーが目標までの距離を音声案内してくれる。二十キロ先か。便利だけどこれ何匹かは教えてくれないんだよな。輝点の数は複数見えるけど重なってる場合もあるし。音声案内と一緒に修正してもらわないと。
というかその修正以前に、このピコーンって電子音じゃなくてどこかのお姉さんがピコーンって言ってるのがシュール過ぎるんだが。なんでわざわざこんな音まで収録してるんだ。
「お兄様! わたくしが!」
「いや、今回は魔導砲でやるぞシル。魔力は温存しておけ。空竜や天竜だったらメギドフレアを使うしかなかったがな」
「わかりました!」
<ピコーン 目的地に到着しました>
ロックオン完了の意味の音声案内がされたのでハンドルに備え付けられた魔導砲発射ボタンを押す。
仰角いっぱいに上空に向けた魔導砲の砲身から赤光の帯が放たれる。
ポンとごく小さな音がすると同時に
<ピコーン 音声案内を終了します>
ナビから目標撃墜の音声案内がされる。というかこれ早く書き替えよう。緊張感が皆無だ。
「センセ! すごいですね魔導砲って!」
「伯爵閣下、素晴らしいです! 音も殆どなく飛竜を一撃で殲滅するとは!」
絶賛してくるエルフ姉妹の目が輝いている。多分商売になるかもと思っているんだろうな。
「さて飛竜をどうするか」
「マリアさん、飛竜の死骸は手土産になりますか?」
「もちろんです! 飛竜の肉は珍味ですし、素材は工芸品の材料になりますしね!」
「伯爵閣下、竜種や亜竜種はエルフの集落を探して襲ってくる天敵ですからね、討伐だけでもありがたいことです。亜竜種の飛竜なら数人で仕留められますが、竜種、特に天竜は数少ない国軍全てを動員してやっとというところですから」
「なあ、竜種や亜竜種ってエルフの集落を探して襲う習性があるのか?」
「魔素の集まる場所を目指して行動する習性がありますからね。必然的に魔素を集めて行使するエルフ族は竜種を呼び寄せやすい存在ともいえます」
「クリス……」
「これは……」
「なあマリア、三年くらい前に王都にいたりしたか?」
「いましたね! 盗賊のアジトがあるという噂を聞いたので、襲って旅費と研究費に充てようと探索してました! 見つけた時にはもうすでに討伐された直後のようでしたが」
「あの時シャルを襲った地竜って……」
「……エルフ国の周辺は常に危険に脅かされるでしょうね」
「常に危険に脅かされるのってうちの町だよな」
「今まで南部大森林はほとんど手付かずでしたからね。まさか南部大森林が竜種を呼び込む危険地域だったとは思いませんでした。申し訳ございません」
「伯爵閣下、回収はエルフ国の人間に任せてください」
「わかった。そのままエルフ国に贈呈するって形にすればいいしな」
撃墜した飛竜はそのまま放置して魔導ハイAを再び走らせる。
「センセ! そろそろですよ!」
三十分ほど街道を南下したところでマリアが急に声をあげる。
言われてすぐに魔導ハイAを停車させたが、街道の両脇は深い森のままだ。
「伯爵閣下、今結界を解除しますね」
「トーマでいいんだぞエカテリーナ。エルフ国の国民に敬称を使われると色々問題が出るかもしれんからな」
「わかりました、トーマさん。あの国王ならそんなことは気にしないで良いのですけれどね」
「自分の国の国王に陛下って敬称を使えよ……」
俺の言葉を無視してエカテリーナは両手を胸の前で組み、瞑想を始める。
そのまま数秒ほど待っていると、右手の森に道幅数メートルの小道が現れた。
精霊魔法で迷彩してるのか。
「トーマさん、魔導駆動車に乗ったままお進みください。この魔導駆動車の速度ですと五分ほどでエルフ国の入り口に到着します」
「ああ」
しかしやたらと俺の周辺で竜種が沸くと思ったら原因がエルフだったとはな。
色々頭が痛いなこれは。
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