3 / 190
第一部:1章:学園生活のパートナー
3話:最初の出会い
しおりを挟む
ネルカはそのまま森で暮らすという選択肢も許されていた。
しかし、彼女は前々から森からは出たいとは考えていたし、引っ越しが億劫というだけで後回しにしていただけなので問題はなかった。ただ、田舎者だからという理由で王都だけはやめておこうとは思っていた。
それでも学園入学のため王都に来たのは――すべきだと思ったから。
彼女自身としては神様がいるなどとは思ってはいないが、いた方が精神的に都合が良いので神様という言葉を使うことがある。そして、彼女は『努力は個人の決定権、偶然は神様の采配』という信条を持っている。
――あの日、貴族を助けたのも
――それが叔父の友人だったことも
――従兄が探しに来て、それを魔物から救出したのも
――そして、学園に入学することになったのも
これらの全ての偶然は神様からの贈り物だと判断した。
だからこそ彼女は王都に出ることを決意した。
「き、緊張してきたわね…。」
そんな決意は学園の校門までたどり着くと揺らぐこととなった。
予定より早く着いたネルカであったが、入学式ということもあって人がとにかく多い。彼女は近くの集落の子供たちとは遊ぶ仲だったし、稀に集落にくる行商人とも話をしていたり、買い物のため町に出ることもあったのでコミュニケーション能力が低いわけではない。だが所詮は田舎であり人が集まることがあってもたかが知れている。
眼に悪いきらびやかな衣装の人たち。
ツンと鼻を刺激する香水が混ざりあった臭い。
人に酔ってしまい少しばかり頭がクラクラした彼女は校舎内に入らず、脇逸れた場所に設置されたベンチへと向かった。近くで木の影ができているのはこのベンチだけであり、ドカッと座り込むと目じりを押さえる。
登録をすれば寮内管理を目的とした従者を連れてくることができるのだが、独り暮らし歴が長い彼女にとっては窮屈だと判断した。そのため門をくぐると彼女一人になるわけだが、こういう時に介抱してくれる人がほしかったと早々に後悔する。
「もう、ほんと…人が多いなぁ。」
「えぇ、その気持ちよく分ります。間抜け面ばかりで嫌になりますよ。」
彼女個人の独り言のはずだったのに、不意に返事が返ってきてギョッとしてしまう。思わず声のした右側を見ると、そこには黒髪を後ろで括った細眼の男が立っていた。ネルカはその男から『戦う者』の空気を感じたが、純粋な強さはそこまでだが手段を選ばない――そういうことができる部類であることを察した。
彼はそのまま当然とでも言うように彼女の横に座り込む。
「あの…いえ、私はそこまで言ってないんですが…。」
「謙遜など結構ですよ。父譲りの私の心眼からすれば、あなたは恐らくこっち側の人間ですので。えぇ、そうですとも、認めた人間以外は虫同然でしょう?」
「は、はぁ?」
何とも言えない表情をするネルカだったが、目の前の男はその反応に不服なようで眉を顰める。まるで『自分と同類なはずなのに捻くれていないのが不思議』と言わんばかりの表情である。
「おや? あなたは…。」
男は何かに気付いたのか細い眼を少しだけ見開くと、ジロジロとネルカを観察していた。服装からして同学年、その容姿から推測される家名、そして自身の記憶から彼女に該当する人物を探しだす。そして、相手が誰なのか合点がいくと、ポンッと手を叩いて表情を和らげる。
「もしやコールマン家の姪――いや、今は義娘でしたかな?」
「あの…私のことをご存知なのかしら?」
「これは失敬、申し遅れました。私はエルスター・マクラン、以後お見知りおきを。」
「マクラン…なるほどね。」
マクランという名にネルカは聞き覚えがあった、確か養父であるアデルの上司であり宰相の立場だったはず。なるほど父親から話を聞いていたのだろうか。最初はそのことを知らずにネルカに近づいたようだったので、失礼な態度については試したというより彼の性格だろうけども。
「親同士が部下上司の関係ですが、ここの学園は主役は私たち。堅苦しいことは無しでお願いしたいものです。よろしいですか…ネルカ嬢?」
「分かったわ、マクラン様。」
返事に対し満足そうにうなずくと、彼は誰かを探すように周囲を見渡す。
そして、遠くにある人混みを確認すると明らかに嫌な顔をした。
「休憩する間もないのか…もう少し話をしたかったのですが…まぁ、同じ教室ですし話す機会はまだあるでしょう。これにて失礼します。」
休憩し始めたばかりだと言うのに、立ち上がった彼は遠くの人混みまで歩き出す。
その歩みは明らかに重く、見ただけで分かる憂鬱さ加減だった。
ネルカはその人混みをよく見るがどうやら女性ばかりで、その中心には銀髪の男が一人立っているようだった。この国で銀髪なのは王族だけのはずなので、なるほどあれがデイン殿下なのだろう。ネルカはそこまで人の美形についてこだわる性格ではないが、そんな彼女ですら美しいと思ってしまったほどだった。彼が着ているのは学園支給の制服ではあるが、彼ほどの者であれば他と違って見えてしまうのが不思議である。
「ふぅん…マクラン様も苦労人みたいね。」
チラッと横目で見るとそこには女性の群れを解散させているエルスターの姿があった。話す機会はあると言っていたが、彼自身はめんどくさそうだし殿下周りはやっかみを受けそうなので、とりあえず関わりたくないとネルカは思った。
しかし、彼女は前々から森からは出たいとは考えていたし、引っ越しが億劫というだけで後回しにしていただけなので問題はなかった。ただ、田舎者だからという理由で王都だけはやめておこうとは思っていた。
それでも学園入学のため王都に来たのは――すべきだと思ったから。
彼女自身としては神様がいるなどとは思ってはいないが、いた方が精神的に都合が良いので神様という言葉を使うことがある。そして、彼女は『努力は個人の決定権、偶然は神様の采配』という信条を持っている。
――あの日、貴族を助けたのも
――それが叔父の友人だったことも
――従兄が探しに来て、それを魔物から救出したのも
――そして、学園に入学することになったのも
これらの全ての偶然は神様からの贈り物だと判断した。
だからこそ彼女は王都に出ることを決意した。
「き、緊張してきたわね…。」
そんな決意は学園の校門までたどり着くと揺らぐこととなった。
予定より早く着いたネルカであったが、入学式ということもあって人がとにかく多い。彼女は近くの集落の子供たちとは遊ぶ仲だったし、稀に集落にくる行商人とも話をしていたり、買い物のため町に出ることもあったのでコミュニケーション能力が低いわけではない。だが所詮は田舎であり人が集まることがあってもたかが知れている。
眼に悪いきらびやかな衣装の人たち。
ツンと鼻を刺激する香水が混ざりあった臭い。
人に酔ってしまい少しばかり頭がクラクラした彼女は校舎内に入らず、脇逸れた場所に設置されたベンチへと向かった。近くで木の影ができているのはこのベンチだけであり、ドカッと座り込むと目じりを押さえる。
登録をすれば寮内管理を目的とした従者を連れてくることができるのだが、独り暮らし歴が長い彼女にとっては窮屈だと判断した。そのため門をくぐると彼女一人になるわけだが、こういう時に介抱してくれる人がほしかったと早々に後悔する。
「もう、ほんと…人が多いなぁ。」
「えぇ、その気持ちよく分ります。間抜け面ばかりで嫌になりますよ。」
彼女個人の独り言のはずだったのに、不意に返事が返ってきてギョッとしてしまう。思わず声のした右側を見ると、そこには黒髪を後ろで括った細眼の男が立っていた。ネルカはその男から『戦う者』の空気を感じたが、純粋な強さはそこまでだが手段を選ばない――そういうことができる部類であることを察した。
彼はそのまま当然とでも言うように彼女の横に座り込む。
「あの…いえ、私はそこまで言ってないんですが…。」
「謙遜など結構ですよ。父譲りの私の心眼からすれば、あなたは恐らくこっち側の人間ですので。えぇ、そうですとも、認めた人間以外は虫同然でしょう?」
「は、はぁ?」
何とも言えない表情をするネルカだったが、目の前の男はその反応に不服なようで眉を顰める。まるで『自分と同類なはずなのに捻くれていないのが不思議』と言わんばかりの表情である。
「おや? あなたは…。」
男は何かに気付いたのか細い眼を少しだけ見開くと、ジロジロとネルカを観察していた。服装からして同学年、その容姿から推測される家名、そして自身の記憶から彼女に該当する人物を探しだす。そして、相手が誰なのか合点がいくと、ポンッと手を叩いて表情を和らげる。
「もしやコールマン家の姪――いや、今は義娘でしたかな?」
「あの…私のことをご存知なのかしら?」
「これは失敬、申し遅れました。私はエルスター・マクラン、以後お見知りおきを。」
「マクラン…なるほどね。」
マクランという名にネルカは聞き覚えがあった、確か養父であるアデルの上司であり宰相の立場だったはず。なるほど父親から話を聞いていたのだろうか。最初はそのことを知らずにネルカに近づいたようだったので、失礼な態度については試したというより彼の性格だろうけども。
「親同士が部下上司の関係ですが、ここの学園は主役は私たち。堅苦しいことは無しでお願いしたいものです。よろしいですか…ネルカ嬢?」
「分かったわ、マクラン様。」
返事に対し満足そうにうなずくと、彼は誰かを探すように周囲を見渡す。
そして、遠くにある人混みを確認すると明らかに嫌な顔をした。
「休憩する間もないのか…もう少し話をしたかったのですが…まぁ、同じ教室ですし話す機会はまだあるでしょう。これにて失礼します。」
休憩し始めたばかりだと言うのに、立ち上がった彼は遠くの人混みまで歩き出す。
その歩みは明らかに重く、見ただけで分かる憂鬱さ加減だった。
ネルカはその人混みをよく見るがどうやら女性ばかりで、その中心には銀髪の男が一人立っているようだった。この国で銀髪なのは王族だけのはずなので、なるほどあれがデイン殿下なのだろう。ネルカはそこまで人の美形についてこだわる性格ではないが、そんな彼女ですら美しいと思ってしまったほどだった。彼が着ているのは学園支給の制服ではあるが、彼ほどの者であれば他と違って見えてしまうのが不思議である。
「ふぅん…マクラン様も苦労人みたいね。」
チラッと横目で見るとそこには女性の群れを解散させているエルスターの姿があった。話す機会はあると言っていたが、彼自身はめんどくさそうだし殿下周りはやっかみを受けそうなので、とりあえず関わりたくないとネルカは思った。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ
鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。
それが約50年前。
聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。
英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。
俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。
でも…英雄は5人もいらないな。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる