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第一部:5-2章:避暑地における休息的アレコレ(後編)
62話:復讐と責務の天秤で
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次の日、騎士団の面々は忙しかった。
生存者を見つけては応急措置を行い、死者を見つけては弔いに向けて防腐処理し、急造で治療用テントエリアを作り、夜に来ると思われる治癒団体を待つ。初めはネルカも手伝うと言い出していたが、本来は重傷であるため強制的にハウス待機へと送り込まれていた。
そんなとき、別荘地に戻って現場指揮を執るデインの元に、一人の男が現れた。その男は騎士から首元に剣を突き付けられており、周囲にいた騎士たちが騒めきだす。
「王子よ、話がしたい。」
その男は、トーハだった。
「貴様! ここまでしておいて、よくも現れたなッ!」
「よすんだアース隊長…話を聞こうじゃないか。」
ピリピリとした空気の中、トーハは首元の刃に気を付けながら両膝を地に着け、そして体を折りたたむとデインに頭を下げる。これはジャナタ王国における最上級の謝罪姿勢である。首を斬り、殺しても構わないということを示す姿勢だ。
「今回の一件は、こちらが全面的に悪かった。」
「ふぅん?」
「我が国…ジャナタ王国がどんな判断をするのか分からないが、影の一族として…貴国に協力しよう。どんな命令でも我々は受ける所存だ。それが代表者として、騙された者として、仕掛けた側としてできる最低限のことだと思っている。」
「どんな命令でも…ねぇ。」
「あぁ、仮に謀反を起こせと言われても、従おう。」
確かに彼らは嵌めらたが故の仕掛けではあるが、それでも騎士を二桁ほど殺し、もっと言えば王族にまで手を出そうとしたのだ。下手したら戦争に繋がってもおかしくないほどの事件だったのだ。
その罪は重い。
許すことなど到底できやしない。
例え、誠意を見せようとも。
「私は非常に腹が立っている。」
そして、誰よりも冷静に見えて、誰よりも怒りを抱え込んでいるのはデインであった。彼は天才ゆえに冷静にであり、若さゆえに感情を抑えられない。
剣を抜いてトーハの顔横の地面に突き刺し、その頬に切り傷を刻む。カタカタと震える手は今にでも振り抜きたいという思いが表れていた。
「そちら側にどんな事情があったとしても、騙されたが故だったとしても…何でもすると言われたとしても…決して許すことはしないだろうね。」
「あぁ、そうだ。俺は殺される未来も覚悟してここに立っている。それだけのことをしでかしたのだからな。」
「今すぐにでも殺してやりたい。」
しかし、言葉態度とは裏腹にデインは剣を持ち上げると、そのまま鞘に仕舞うと溜息を吐いて心を落ち着かせる。そして、近くに置いてあった椅子に座り込むが、その握りしめる右手からは血がポタポタと滴り落ちていた。
「君たちの親戚に感謝することだね。ここで殺さない選択を取ろうじゃないか。あぁそうだ、腹は立つ、しかし、その腹を抑えよう。」
「親戚…アイリーンの娘か…。」
「言っておくが義理じゃない。むしろ、彼女からは『あの国と戦争になったら、影の一族の相手は私に任せて』だなんて言われているぐらいだからね。決して頼まれたわけでも、温情をかけるわけでもない。」
「…? では、なぜだ?」
「私の愛しい人の付き人がね…勝ち負けは必ずしも生死に直結しない…と言われたそうだ。それはきっと…二者の間に生じる勝ち負けよりも、個人の内の中での勝ち負けの方が大事ということなのだろう。その個人の勝ち負けが生死に関わったり、二者の間に生じることもあるかもしれないけれど…その関係性が逆になるとは限らないってことだろうね。」
だからデインは考えたのだ。
自分にとっての勝ち負けとはなんだろうか。
目の前の仇を殺すことか?
仕掛けてきた国に報復することか?
それとも、元凶であるゼノン教を潰すことか?
違う。
仮にそれを実行したとして、それは過程の一つ。
最終的な目指す結果として欲しいものというわけではない。
「私はね、王子なんだよ。それでいて愛しい人がいる。」
守りたいものがある――それがデイン個人の勝ち負けだ。
復讐と責務の天秤――きっとここで心が負ける者が多いのだろう。
だが、デイン天秤は勝つために必要な方へと傾いた。
「復讐は死人を蘇らせるわけでもない。ならば国のため、死んだ者の命を無駄にしないために…私は君たちを…いや、俺はお前らを――」
彼は立ち上がってトーハの元へと歩み寄る。そして、目に怒りを宿しつつ呼吸が少し洗いながらも、爪が食い込んで血だらけになった右手を差し出した。
「――お前らをこき使ってやる。覚悟しておけ。」
その姿を見たトーハは自身の右手をジッと見つめ、しばらくすると目の前の右手と交互に視線を動かす。そして、何を思ったのか自身の首元にある刃を掴むと、同じように血まみれになった右手で握手を交わす。
「あぁ、こき使ってくれ。覚悟しておこう。」
彼に個人の勝ち負けは存在しない。
しかし、二者間の負けは決した。
ならば敗者として出来る限りのことをするだけだ。
― ― ― ― ― ―
後に、ベルガンテ王国とジャナタ王国は同盟を組むこととなる。
表向きは周辺の戦争警戒と技術共有、真の目的はゼノン教対策。
謝意として、ベルガンテ王国にとって有利な貿易条件を添えて。
生存者を見つけては応急措置を行い、死者を見つけては弔いに向けて防腐処理し、急造で治療用テントエリアを作り、夜に来ると思われる治癒団体を待つ。初めはネルカも手伝うと言い出していたが、本来は重傷であるため強制的にハウス待機へと送り込まれていた。
そんなとき、別荘地に戻って現場指揮を執るデインの元に、一人の男が現れた。その男は騎士から首元に剣を突き付けられており、周囲にいた騎士たちが騒めきだす。
「王子よ、話がしたい。」
その男は、トーハだった。
「貴様! ここまでしておいて、よくも現れたなッ!」
「よすんだアース隊長…話を聞こうじゃないか。」
ピリピリとした空気の中、トーハは首元の刃に気を付けながら両膝を地に着け、そして体を折りたたむとデインに頭を下げる。これはジャナタ王国における最上級の謝罪姿勢である。首を斬り、殺しても構わないということを示す姿勢だ。
「今回の一件は、こちらが全面的に悪かった。」
「ふぅん?」
「我が国…ジャナタ王国がどんな判断をするのか分からないが、影の一族として…貴国に協力しよう。どんな命令でも我々は受ける所存だ。それが代表者として、騙された者として、仕掛けた側としてできる最低限のことだと思っている。」
「どんな命令でも…ねぇ。」
「あぁ、仮に謀反を起こせと言われても、従おう。」
確かに彼らは嵌めらたが故の仕掛けではあるが、それでも騎士を二桁ほど殺し、もっと言えば王族にまで手を出そうとしたのだ。下手したら戦争に繋がってもおかしくないほどの事件だったのだ。
その罪は重い。
許すことなど到底できやしない。
例え、誠意を見せようとも。
「私は非常に腹が立っている。」
そして、誰よりも冷静に見えて、誰よりも怒りを抱え込んでいるのはデインであった。彼は天才ゆえに冷静にであり、若さゆえに感情を抑えられない。
剣を抜いてトーハの顔横の地面に突き刺し、その頬に切り傷を刻む。カタカタと震える手は今にでも振り抜きたいという思いが表れていた。
「そちら側にどんな事情があったとしても、騙されたが故だったとしても…何でもすると言われたとしても…決して許すことはしないだろうね。」
「あぁ、そうだ。俺は殺される未来も覚悟してここに立っている。それだけのことをしでかしたのだからな。」
「今すぐにでも殺してやりたい。」
しかし、言葉態度とは裏腹にデインは剣を持ち上げると、そのまま鞘に仕舞うと溜息を吐いて心を落ち着かせる。そして、近くに置いてあった椅子に座り込むが、その握りしめる右手からは血がポタポタと滴り落ちていた。
「君たちの親戚に感謝することだね。ここで殺さない選択を取ろうじゃないか。あぁそうだ、腹は立つ、しかし、その腹を抑えよう。」
「親戚…アイリーンの娘か…。」
「言っておくが義理じゃない。むしろ、彼女からは『あの国と戦争になったら、影の一族の相手は私に任せて』だなんて言われているぐらいだからね。決して頼まれたわけでも、温情をかけるわけでもない。」
「…? では、なぜだ?」
「私の愛しい人の付き人がね…勝ち負けは必ずしも生死に直結しない…と言われたそうだ。それはきっと…二者の間に生じる勝ち負けよりも、個人の内の中での勝ち負けの方が大事ということなのだろう。その個人の勝ち負けが生死に関わったり、二者の間に生じることもあるかもしれないけれど…その関係性が逆になるとは限らないってことだろうね。」
だからデインは考えたのだ。
自分にとっての勝ち負けとはなんだろうか。
目の前の仇を殺すことか?
仕掛けてきた国に報復することか?
それとも、元凶であるゼノン教を潰すことか?
違う。
仮にそれを実行したとして、それは過程の一つ。
最終的な目指す結果として欲しいものというわけではない。
「私はね、王子なんだよ。それでいて愛しい人がいる。」
守りたいものがある――それがデイン個人の勝ち負けだ。
復讐と責務の天秤――きっとここで心が負ける者が多いのだろう。
だが、デイン天秤は勝つために必要な方へと傾いた。
「復讐は死人を蘇らせるわけでもない。ならば国のため、死んだ者の命を無駄にしないために…私は君たちを…いや、俺はお前らを――」
彼は立ち上がってトーハの元へと歩み寄る。そして、目に怒りを宿しつつ呼吸が少し洗いながらも、爪が食い込んで血だらけになった右手を差し出した。
「――お前らをこき使ってやる。覚悟しておけ。」
その姿を見たトーハは自身の右手をジッと見つめ、しばらくすると目の前の右手と交互に視線を動かす。そして、何を思ったのか自身の首元にある刃を掴むと、同じように血まみれになった右手で握手を交わす。
「あぁ、こき使ってくれ。覚悟しておこう。」
彼に個人の勝ち負けは存在しない。
しかし、二者間の負けは決した。
ならば敗者として出来る限りのことをするだけだ。
― ― ― ― ― ―
後に、ベルガンテ王国とジャナタ王国は同盟を組むこととなる。
表向きは周辺の戦争警戒と技術共有、真の目的はゼノン教対策。
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