「俺にしがみつくのはやめろ」と言われて恋が覚めたので、しがみつかずにリリースします。相容れないとほざくあなたは、今、私に捨てられましたわ

西野歌夏

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1 あなた裏切ったわね

破廉恥な姉 アリス・ブレンジャーSide(1)

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私はブレンジャー子爵家の次女のアリス・ブレンジャー。17歳。超一流の貴族の令嬢が通う由緒正しき学校、聖ケスナータリマーガレット第一女子学院に通っている。

スケベで破廉恥な姉が、何かとんでもないゲームをしているのを私は知っていた。だが、姉がこそこそと何をしているのかは分かっていなかった。

ヨーロッパ最高の花嫁学校である聖ケスナータリマーガレット第一女子学院で、ぶっちぎりの優等生を私は自負していた。私の好敵手はフローラ・ガトバン伯爵令嬢だ。2人でトップの座を競い合っていて、彼女の婚約者のクリスとやらをいけすかないとずっと私は思っていた。

クリス・オズボーンは驕り高ぶって人を見下す態度を平気で取る裏の顔を隠している。どちらかというと、自己中心的でわがままな私の姉、エミリー・ブレンジャーのような人間性を持つ女性が、クリス・オズボーンにはとてもお似合いだ。

オズボーン公爵家は傾くだろう。嫡男のクリスがとんでもないワルだから。私は姉を知りすぎたおかげで、ああいう倫理観に欠けた人に敏感だった。クリスがガトバン伯爵家と婚約の契約を交わしながら、伯爵家のメイドに手を出しているのは知っていた。

――この学院で私の知らないことはないのよ。

フローラ嬢はクリスにぞっこんだったため、私は事実を言いそびれていた。
――騙されていると何度フローラ嬢に忠告しようかと思ったことか!

――彼女を傷つけたくないあまりに、忠告するのを先延ばしにしてしまっていたわ……。

昨夕の騒ぎのせいで、私は寝不足だった。もっと早くにフローラ嬢に忠告すべきだったと後悔して眠れなくなったのだ。今朝の聖ケスナータリマーガレット第一女子学院は昨日の騒ぎのことで持ちきりだった。

「聞いた?」
「何を?」
「昨日の騒ぎのことよ」
「アルベルト王太子がいらしていたわよね……?」
「きゃー、何かスキャンダル?」
「それがね……」

カナリアのようにレディたちが豪華な談話室で話している声に、私も耳をダンボにして聞いていた。
 
デビュタントにとって、デビュー・シーズンが近づくと、家を上げての大騒動となる。寮から実家に戻るまでもなく、エイトレンスの首都であるテールは華やかな余韻を纏い始める。聖ケスナータリマーガレット第一女子学院内でも春の花が咲き始めるにつれて、ウキウキしたような、それでいて期待を超える出会いを求めるレディたちのお喋りで、通常よりも一層の華やかさが増す。
 
そんな中、昨夕は聖ケスナータリマーガレット第一女子学院内でとんでもない騒ぎがあったのだ。私の寝不足の原因となった騒ぎだ。

王家の馬車やアルベルト王太子付きの護衛の者たちが、敷地内の教会付近に大勢いた。捕えられた不届者がいたと聞くが、オズボーン公爵家の嫡男であるクリスだと聞いて驚愕した。

だが、かねてから私が危惧していたことが、もっと大胆に世間に広がったということだが。

――婚約者のフローラ嬢のメイドと破廉恥な行為に耽っているところを、アルベルト王太子に見つけられて咎められたですって?

「信じられないわ!」
「本当に!」

――えぇ、私も信じられないわ……。
――そのスキャンダルにアルベルト王太子が白馬の王子として登場することが信じられないわ……。

ヨーロッパ中から花嫁修行として貴族や超名人の令嬢が入学するこの学院の寮には、執事、ハウスキーパー、レディーズメイド以外に、令嬢たちが実家から連れてきたメイドも数多く住んでいる。フローラ嬢が連れてきたメイドは2人で、確かソフィアという胸も大きく器量良しの若い娘と、シャーロットという痩せっぽちで純朴そうな娘の2人だったはずだ。

――話が本当ならば、やらかしたのは……どう考えても、ソフィアの方でしょう。実際にクリスと胸の大きなメイドが抱き合っているのを見たことがあったし……。

「あの胸の大きな綺麗なメイド?」
「そうよ!」
「うわっ、最悪ね」
「クリス・オズボーン氏はなぜかひっとらえられて、牢に入れられたようよ」
「なぜ?メイドとの浮気は犯罪とは言えないわ」
「醜聞だけれど、逮捕されるようなことかは分からないわ」

――浮気以外にも、きっと彼は犯罪行為に手を染めたのよ。ずっとあの男はフローラ嬢には相応しくないと私は思っていたのよ。

かしましいぐらいに話に興じているレディたちも、ひとたび社交シーズンが開幕すると、午後10時までに軽食を済ませて、明け方近くまでパーティに明け暮れるといった生活を、一生分の気力を込めてこなす。時にはナイトクラブにも行く。

社交シーズンを駆け抜けるのは大変だ。将来の夫を探すことはとても重要なことだと思われているから。私の今年のデビューも、母から並々ならぬ期待をかけられていた。

だが、そんなレディたちの格好の話のネタになったのが、今回の騒動だ。今年の社交シーズン中、この話題で持ちきりになるなのは間違いないだろう。

昨年、ナルシストな姉が騒動を起こしたことは誰にも知られていない。騒ぎの張本人は秘匿されているのだ。

ヨーロッパ中でレディたちの憧れの的であるアルベルト王太子を姉が誘惑して、アルベルト王太子が婚約破棄される騒ぎの原因を起こしたのは姉だ。

騒動後、騒動に巻き込まれるのを避けて、姉は豪華客船で旅に出ていた。一体どこからそのお金が出たのか知りたいぐらいだ。

――父からのお金ではないことは確かね。

私も昨年のスキャンダルの衝撃を覚えている。
1867年6月23日の新聞の挿絵は、特別だった。あのブランドン公爵令嬢の特徴あるワイン色の髪が、よりにもよってザックリードハルトの金髪碧眼の若き青年、貴族令嬢の間でアルベルト王太子より素晴らしい美貌と囁かれる青年皇太子と共に紙面を賑わせていた衝撃を、私は覚えている。

私の憧れの人はアルベルト王太子でもなく、隣国ザックリードハルトの皇太子だったから。

アルベルト王太子は私の姉に手玉に取られて、それが婚約者であるブランドン公爵令嬢にバレてあっけなくフラれた。

「フローラ嬢はアルベルト様に抱き抱えられて馬車に乗ったの?」
「きゃーっ」

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