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第二章
聖剣 レティシアの場合
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フーエンシュタウフィン大聖堂の鐘が鳴る。冬の空に体の底まで響くような鐘が鳴り響く。朝の冷たい空気を押しのけて、自由都市ショーンブルクの街中に鐘の音が聞こえるだろう。
今日の私は花嫁姿だ。大聖堂前に到着した馬車から降りた私は、長いドレスの裾を侍女たちに整えられ、期待に胸を膨らませて、文字通りに頬を薔薇色に初めて、完璧な姿で父親と共に大聖堂の中に足を踏み入れた。
私はレティシア・コーネリー・モンテヌオーヴォだ。ジークベインリードハルトのモンテヌオーヴォ公爵家の長女だ。昔は皇帝の花嫁になると信じていた。正直に告白すると、つい最近までだ。
大聖堂の中に足を踏み入れた私の目に、祭壇の前にケネス王子が立っているのが見えた。
彼が振り返った。豊かな褐色の髪の隙間からのぞく緑色の瞳を輝かせて、彼が私を見つめている。次の瞬間、彼は天を仰いで涙ぐんだ。
綺麗だよ
彼の口がそう動いたのを私は見て、私は嬉しくて嬉しくて天にも昇りそうなぐらいに体がふわふわしていた。私の横には今朝やっと到着した父がいた。最前列に、涙ぐんだ母が立ってこちらを見ているのが見える。
――私は幸せ者だ。皇后様の計らいで全てを準備してもらって、父と母まで駆けつけてくれた。完璧な挙式だ。ドレスも素晴らしかった。何より、ケネスの胸に飛び込める。生涯添い遂げる誓いを彼とできるなんて、私は信じられないほどの幸せ者だ。
ケネス王子の隣にラファエルが立ち、立会人を務めている。ロザーラは介添え役を務めてくれていた。二人とも既婚だが、この街に未婚の友人がいないケネスと私にとっては、ベストな配役だった。
大聖堂の中を父と歩き進めると、私にはケネスしか見えなくなった。ホットでゴージャスな彼が泣きそうな顔で私を見つめている。私はゆっくりとケネスに近づいた。花嫁衣装を着て二人で並んで立つと、剣が大好きだった自分が料理でもなんでも彼のためならできるような気がしてくるから不思議だ。
震える声で誓いの言葉を互いに繰り返し、ケネス王子は私のヴェールをあげて私にキスをした。祝福の鐘が鳴り響き、こうして私たちは晴れて夫婦になった。
式が終わると、披露宴が用意されていた。大聖堂の広場に大きな天幕が貼られ、花が飾られ、飲み物や食べ物がふんだんに用意されていた。特設披露宴会場だ。式が終わると私たちはそこに移動して、街の人々や騎士たちと食事をした。騎士たちはお酒は飲んでいなかったが、楽しんでいるようだった。両親と皇后はテーブルで笑顔で話し込んでいた。
「愛している」
「愛しているわ、あなた」
私は初めてケネスに『あなた』と言ってみて、赤面して照れた。体が熱い。恥ずかしい。見ると、ケネスも嬉しそうだけれども頬を真っ赤に染めていた。
私たちは、初めての者同士だ。純愛なのだから当たり前だ。午後から出発はするけれども、一口だけ、二人でワインを乾杯していただいた。
私とケネスは、ラファエルとロザーラと一緒に午後には次の都市に向けて出発するつもりだった。数世紀前から諸侯会議が開かれるフルトは、私は初めて訪問することになる。リーデンマルク川沿いの都市だが、一度も訪れたことはなかった。素晴らしい城があると知っていて、私たち4人はその城に手紙が預けられているだろうと予測していた。
ふと気づくと、ラファエルが恋する瞳でロザーラの姿を追っている。でも、もう私の心は痛まない。私の姿を追っている愛しいケネスがいるからだ。私はケネスにぞっこんだった。おそらく、今までラファエルのことを好いていると思っていたけれども、それは恋とは違ったようだ。私の気持ちは友達や兄弟に対するようなものだった。ケネスが現れて初めて、私は恋を知ったのだ。
「ヴィガヴェルガデンガガイザラ……」
私の耳に突然古代語が聞こえてきた。
ハッとして私は振り返った。ケネスはジークベインリードハルトの古代語を知らないので、どうしたの?という目で私を見つめている。私はラファエルとロザーラを探した。さっきまでいたはずの二人の姿が見えない。
「羊毛でしょう、毛皮でしょう、塩ね?あと銀、銅、金、鉄を船で運ぶんだ。そしたら、帰りは、香辛料、絹、革、砂糖、チーズとか絨毯とか、ガラスとかを運んで戻ってくるのさ」
近くで商人が交易の話をしている。私はその男性たちを見つめた。こんな話ができるのは、この辺りではロレード商会だけだ。
花嫁の私が見つめていると知ると、彼らはワインの入ったコップを手に挨拶をしてくれた。でも、私の中の何かが彼らはロレード商会の者ではないと告げていた。直感だ。
――さっきの言葉は、彼らが話した可能性があるのでは?『今日、決行する』という言葉だったわ。
私はさりげなくワインのグラスを持ったまま、ラファエルとロザーラを探した。ケネスも何かを悟ったのか、私の後ろからついてきている。
私はうちの公爵家の騎士の背中をさりげなく触った。騎士がさっと目を走らせて、私の目を見つめた。私は微笑むふりをしながら、素早く視線を先ほどの商人に向けて送った。
私の体を隠れ蓑にして、私の背後を見つめた騎士は私が合図をした人物が誰かを悟ったようだ。小さくうなずいた。
私は急いで必死にロザーラとラファエルの姿を探した。つい、先ほどまでいたはずの二人姿が見えない。おかしい。今までも何度かロザーラはそれが罠ではないかと伝えたことがあった。
――罠?何が罠なのだろう?この場合に罠が仕掛けられているとしたらなんだろう?
――皇后様の姿は?
私はハッとして周りを見渡した。皇后の姿も見えない。さっきまで両親と話し込んでいたはずの皇后の姿も見えなくなった。私の両親は呑気にお酒を飲んでいる。
ジークベインリードハルトを名乗る者の姿だけ消えている。私は覚悟を決めた。私の結婚式の披露宴だが、私たち4人は毒消し草を全員が服用していた。
私がロザーラとラファエルのテーブルに目を凝らした。誰もいない彼らのテーブルの上に、何かが載っている。王冠?あれは王冠だ。誰もいない料理とお酒だけが並べられたテーブルの真ん中に、王冠が乗っている。
なぜ王冠!?
私は駆け寄ろうとして、立ち止まった。テーブルに置かれた王冠には宝石が見当たらないようだ。7つ埋まっているはずの宝石が見当たらない。
――『死の王冠』?そっくりな王冠が2つあって、私たちが持っていたのは『生の王冠』の方だったはずだわ。
一度だけ、ロザーラが『死の王冠』のことを話すのを私は聞いた。背筋が寒くなった。オレンジ色のカレンデュラが置いてある。カレンデュラの花言葉は、「別れの悲しみ」「寂しさ」「悲嘆」「失望」だ。
私は何かを見逃したようだ。さっきの商人を私はどこかで見たことがある。私は考え込んだ。
――あれは、ヴァイマルの街の大聖堂を訪れた時に、私に向かって何かを投げつけようとした男性だわ!
私は振り返ってケネスの顔を見た。ケネスはじっと商人を見つめていた。やはり、ケネスも気付いたようだ。
『死の王冠』を手にしたのは、ラファエルと次の皇帝を争う者だ。それは――
皇太子!
私は必死で周りに目を凝らした。商人のふりをしている男が、一瞬だけある方角に目をやった。私はウェディングドレスの裾をたくし上げて、走り始めた。式が終わった後に靴を走りやすい靴に変えておいてよかった。
通りをウェディング姿で走った。花嫁と花婿のテーブルの下に隠しておいた、聖イーブル女子修道院で見つかった聖剣を布から取り出して、手に持った。『死の王冠』は罠だ。同じく聖剣も罠のようなものだ。罠には罠を――
ケネスが私のすぐそばに来て、一緒に走ってくれた。皇帝の騎士が私たちの後ろに続く。私の実家の騎士も続いた。ラファエルの騎士も続いた。なぜ、誰にも気づかずに姿を消すことができたのか。それは、おそらく皇后だ。皇后は皇太子に騙されていたのかもしれない。
広場の端にある小さな通りに入った。すぐ目の前に筋骨隆々の男がいた。私は急所を蹴り上げて、持っていた聖剣で彼と戦った。ウェディングドレスが揺れ動く。聖剣で彼を倒したあとにケネスを見ると、ケネスも別の男と戦っていた。
私は前に前にと進んだ。皇帝の騎士たちも戦ってくれていた。
私が目にした先に、地面に崩れ落ちたラファエルと敵に抵抗しているロザーラの姿があった。私は叫んだ。
そして、聖剣をまっすぐに投げた。聖剣はロザーラを襲おうとしていた男に当たるはずが、男が交わし、ロザーラに当たった。男がこちらを振り向いた。ジークベインリードハルトの皇太子だった。ラファエルの叔父だ。
私の投げた聖剣はロザーラの胸を刺し、私は悲鳴をあげて、彼女の元に駆けつけた。あたりが灰色になり、雪が降り始める景色の中で、私は雪の上に横たわるロザーラのストロベリーブロンドの髪を見つめた。あたりは真っ白な銀世界で、雪は後から後から降ってくる。気づくと、金髪の髪を短く刈り込んだ男性が立っていて、すぐ隣にロザーラが立っていた。男性とロザーラは何かを話し合っているようだが、私には二人が話していることが聞こえない。
雪の上にもロザーラが力無く横たわっていて、すぐその近くにもう一人のロザーラがいて、金髪の男性と何かを話しているのだ。私は後ずさった。意味がわからない。
――何なのかしらこれは?
ラファエルの姿もケネスの姿も、皇太子の姿も騎士たちの姿も見えない。この銀世界には、ロザーラと金髪の男性と、私しかいないようだ。でも、私はロザーラが見えているのに、ロザーラの目には私は映っておらず、私はここにはいないことになっているようだ。
その瞬間だ。ロザーラが紙に手をかざすと、一気に吹き飛ばされた。私もロザーラもだ。
――何なの?
私はハッとして目を開けると、ショーンブルクの宿屋のベッドに横たわっていた。
「ロザーラ!ファラエル!」
私が叫ぶと、ケネスが隣の部屋から転がるように駆けつけてくれた。
「何かあったのか?レティシア」
ケネスはすぐにやってきてくれて気遣ってくれた。私はケネスに抱きしめられてほっとしたのと同時に、今の夢は普通の夢ではないと悟っていた。
「今日は結婚式でしょう。レティシアのご両親もやってくると聞いているから、とても楽しみだよ」
私はケネスの言葉に驚いた。結婚式は先ほどやったはずだ。
――もしかして時間が戻っているの?私はこの先の時間を一度経験しているわ。ロザーラとラファエルが倒れた。今日も同じことが起きるはずだわ。阻止せねばならないわ!
※すみません。明日続きを載せます。
今日の私は花嫁姿だ。大聖堂前に到着した馬車から降りた私は、長いドレスの裾を侍女たちに整えられ、期待に胸を膨らませて、文字通りに頬を薔薇色に初めて、完璧な姿で父親と共に大聖堂の中に足を踏み入れた。
私はレティシア・コーネリー・モンテヌオーヴォだ。ジークベインリードハルトのモンテヌオーヴォ公爵家の長女だ。昔は皇帝の花嫁になると信じていた。正直に告白すると、つい最近までだ。
大聖堂の中に足を踏み入れた私の目に、祭壇の前にケネス王子が立っているのが見えた。
彼が振り返った。豊かな褐色の髪の隙間からのぞく緑色の瞳を輝かせて、彼が私を見つめている。次の瞬間、彼は天を仰いで涙ぐんだ。
綺麗だよ
彼の口がそう動いたのを私は見て、私は嬉しくて嬉しくて天にも昇りそうなぐらいに体がふわふわしていた。私の横には今朝やっと到着した父がいた。最前列に、涙ぐんだ母が立ってこちらを見ているのが見える。
――私は幸せ者だ。皇后様の計らいで全てを準備してもらって、父と母まで駆けつけてくれた。完璧な挙式だ。ドレスも素晴らしかった。何より、ケネスの胸に飛び込める。生涯添い遂げる誓いを彼とできるなんて、私は信じられないほどの幸せ者だ。
ケネス王子の隣にラファエルが立ち、立会人を務めている。ロザーラは介添え役を務めてくれていた。二人とも既婚だが、この街に未婚の友人がいないケネスと私にとっては、ベストな配役だった。
大聖堂の中を父と歩き進めると、私にはケネスしか見えなくなった。ホットでゴージャスな彼が泣きそうな顔で私を見つめている。私はゆっくりとケネスに近づいた。花嫁衣装を着て二人で並んで立つと、剣が大好きだった自分が料理でもなんでも彼のためならできるような気がしてくるから不思議だ。
震える声で誓いの言葉を互いに繰り返し、ケネス王子は私のヴェールをあげて私にキスをした。祝福の鐘が鳴り響き、こうして私たちは晴れて夫婦になった。
式が終わると、披露宴が用意されていた。大聖堂の広場に大きな天幕が貼られ、花が飾られ、飲み物や食べ物がふんだんに用意されていた。特設披露宴会場だ。式が終わると私たちはそこに移動して、街の人々や騎士たちと食事をした。騎士たちはお酒は飲んでいなかったが、楽しんでいるようだった。両親と皇后はテーブルで笑顔で話し込んでいた。
「愛している」
「愛しているわ、あなた」
私は初めてケネスに『あなた』と言ってみて、赤面して照れた。体が熱い。恥ずかしい。見ると、ケネスも嬉しそうだけれども頬を真っ赤に染めていた。
私たちは、初めての者同士だ。純愛なのだから当たり前だ。午後から出発はするけれども、一口だけ、二人でワインを乾杯していただいた。
私とケネスは、ラファエルとロザーラと一緒に午後には次の都市に向けて出発するつもりだった。数世紀前から諸侯会議が開かれるフルトは、私は初めて訪問することになる。リーデンマルク川沿いの都市だが、一度も訪れたことはなかった。素晴らしい城があると知っていて、私たち4人はその城に手紙が預けられているだろうと予測していた。
ふと気づくと、ラファエルが恋する瞳でロザーラの姿を追っている。でも、もう私の心は痛まない。私の姿を追っている愛しいケネスがいるからだ。私はケネスにぞっこんだった。おそらく、今までラファエルのことを好いていると思っていたけれども、それは恋とは違ったようだ。私の気持ちは友達や兄弟に対するようなものだった。ケネスが現れて初めて、私は恋を知ったのだ。
「ヴィガヴェルガデンガガイザラ……」
私の耳に突然古代語が聞こえてきた。
ハッとして私は振り返った。ケネスはジークベインリードハルトの古代語を知らないので、どうしたの?という目で私を見つめている。私はラファエルとロザーラを探した。さっきまでいたはずの二人の姿が見えない。
「羊毛でしょう、毛皮でしょう、塩ね?あと銀、銅、金、鉄を船で運ぶんだ。そしたら、帰りは、香辛料、絹、革、砂糖、チーズとか絨毯とか、ガラスとかを運んで戻ってくるのさ」
近くで商人が交易の話をしている。私はその男性たちを見つめた。こんな話ができるのは、この辺りではロレード商会だけだ。
花嫁の私が見つめていると知ると、彼らはワインの入ったコップを手に挨拶をしてくれた。でも、私の中の何かが彼らはロレード商会の者ではないと告げていた。直感だ。
――さっきの言葉は、彼らが話した可能性があるのでは?『今日、決行する』という言葉だったわ。
私はさりげなくワインのグラスを持ったまま、ラファエルとロザーラを探した。ケネスも何かを悟ったのか、私の後ろからついてきている。
私はうちの公爵家の騎士の背中をさりげなく触った。騎士がさっと目を走らせて、私の目を見つめた。私は微笑むふりをしながら、素早く視線を先ほどの商人に向けて送った。
私の体を隠れ蓑にして、私の背後を見つめた騎士は私が合図をした人物が誰かを悟ったようだ。小さくうなずいた。
私は急いで必死にロザーラとラファエルの姿を探した。つい、先ほどまでいたはずの二人姿が見えない。おかしい。今までも何度かロザーラはそれが罠ではないかと伝えたことがあった。
――罠?何が罠なのだろう?この場合に罠が仕掛けられているとしたらなんだろう?
――皇后様の姿は?
私はハッとして周りを見渡した。皇后の姿も見えない。さっきまで両親と話し込んでいたはずの皇后の姿も見えなくなった。私の両親は呑気にお酒を飲んでいる。
ジークベインリードハルトを名乗る者の姿だけ消えている。私は覚悟を決めた。私の結婚式の披露宴だが、私たち4人は毒消し草を全員が服用していた。
私がロザーラとラファエルのテーブルに目を凝らした。誰もいない彼らのテーブルの上に、何かが載っている。王冠?あれは王冠だ。誰もいない料理とお酒だけが並べられたテーブルの真ん中に、王冠が乗っている。
なぜ王冠!?
私は駆け寄ろうとして、立ち止まった。テーブルに置かれた王冠には宝石が見当たらないようだ。7つ埋まっているはずの宝石が見当たらない。
――『死の王冠』?そっくりな王冠が2つあって、私たちが持っていたのは『生の王冠』の方だったはずだわ。
一度だけ、ロザーラが『死の王冠』のことを話すのを私は聞いた。背筋が寒くなった。オレンジ色のカレンデュラが置いてある。カレンデュラの花言葉は、「別れの悲しみ」「寂しさ」「悲嘆」「失望」だ。
私は何かを見逃したようだ。さっきの商人を私はどこかで見たことがある。私は考え込んだ。
――あれは、ヴァイマルの街の大聖堂を訪れた時に、私に向かって何かを投げつけようとした男性だわ!
私は振り返ってケネスの顔を見た。ケネスはじっと商人を見つめていた。やはり、ケネスも気付いたようだ。
『死の王冠』を手にしたのは、ラファエルと次の皇帝を争う者だ。それは――
皇太子!
私は必死で周りに目を凝らした。商人のふりをしている男が、一瞬だけある方角に目をやった。私はウェディングドレスの裾をたくし上げて、走り始めた。式が終わった後に靴を走りやすい靴に変えておいてよかった。
通りをウェディング姿で走った。花嫁と花婿のテーブルの下に隠しておいた、聖イーブル女子修道院で見つかった聖剣を布から取り出して、手に持った。『死の王冠』は罠だ。同じく聖剣も罠のようなものだ。罠には罠を――
ケネスが私のすぐそばに来て、一緒に走ってくれた。皇帝の騎士が私たちの後ろに続く。私の実家の騎士も続いた。ラファエルの騎士も続いた。なぜ、誰にも気づかずに姿を消すことができたのか。それは、おそらく皇后だ。皇后は皇太子に騙されていたのかもしれない。
広場の端にある小さな通りに入った。すぐ目の前に筋骨隆々の男がいた。私は急所を蹴り上げて、持っていた聖剣で彼と戦った。ウェディングドレスが揺れ動く。聖剣で彼を倒したあとにケネスを見ると、ケネスも別の男と戦っていた。
私は前に前にと進んだ。皇帝の騎士たちも戦ってくれていた。
私が目にした先に、地面に崩れ落ちたラファエルと敵に抵抗しているロザーラの姿があった。私は叫んだ。
そして、聖剣をまっすぐに投げた。聖剣はロザーラを襲おうとしていた男に当たるはずが、男が交わし、ロザーラに当たった。男がこちらを振り向いた。ジークベインリードハルトの皇太子だった。ラファエルの叔父だ。
私の投げた聖剣はロザーラの胸を刺し、私は悲鳴をあげて、彼女の元に駆けつけた。あたりが灰色になり、雪が降り始める景色の中で、私は雪の上に横たわるロザーラのストロベリーブロンドの髪を見つめた。あたりは真っ白な銀世界で、雪は後から後から降ってくる。気づくと、金髪の髪を短く刈り込んだ男性が立っていて、すぐ隣にロザーラが立っていた。男性とロザーラは何かを話し合っているようだが、私には二人が話していることが聞こえない。
雪の上にもロザーラが力無く横たわっていて、すぐその近くにもう一人のロザーラがいて、金髪の男性と何かを話しているのだ。私は後ずさった。意味がわからない。
――何なのかしらこれは?
ラファエルの姿もケネスの姿も、皇太子の姿も騎士たちの姿も見えない。この銀世界には、ロザーラと金髪の男性と、私しかいないようだ。でも、私はロザーラが見えているのに、ロザーラの目には私は映っておらず、私はここにはいないことになっているようだ。
その瞬間だ。ロザーラが紙に手をかざすと、一気に吹き飛ばされた。私もロザーラもだ。
――何なの?
私はハッとして目を開けると、ショーンブルクの宿屋のベッドに横たわっていた。
「ロザーラ!ファラエル!」
私が叫ぶと、ケネスが隣の部屋から転がるように駆けつけてくれた。
「何かあったのか?レティシア」
ケネスはすぐにやってきてくれて気遣ってくれた。私はケネスに抱きしめられてほっとしたのと同時に、今の夢は普通の夢ではないと悟っていた。
「今日は結婚式でしょう。レティシアのご両親もやってくると聞いているから、とても楽しみだよ」
私はケネスの言葉に驚いた。結婚式は先ほどやったはずだ。
――もしかして時間が戻っているの?私はこの先の時間を一度経験しているわ。ロザーラとラファエルが倒れた。今日も同じことが起きるはずだわ。阻止せねばならないわ!
※すみません。明日続きを載せます。
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