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朝方に君と
しおりを挟むあの不本意な約束から二週間。
仕事の忙しさもいくらかはましになり、慌ただしいだけだった日常がほんの少し落ち着きを取り戻しつつある。
なんだかんだスバルと和解したこともあり、心労もなく日々を過ごせているので、まあよしとするか。……みたいな感じで。
「相川先輩、お疲れ様です」
納期ギリギリの原稿をなんとか納品しひと息ついていたところに、神田日奈子が声をかけてきた。今日もショートカットの濡れたような黒髪が美しい。
「ああ、ありがとう」
「さっきまで鬼気迫る表情をしてましたね。納品お疲れ様です。納期短いのにかなり無茶苦茶な指示でしたもんね、あの原稿」
「ホントだよ。やっと忙しい時期を抜けつつあるのに、まったく嫌んなっちゃうよな」
言いながら椅子にもたれて両腕を広げ、背筋をぐっと伸ばす。長時間縮こまっていた背骨がきしむ音がした。
何か話したいことでもあるのだろうか、神田はいっこうに去る気配を見せない。
「あのう。その後、仲直りできたんですか?お友達と」
「へ?」
「ほら、この前、言ってたじゃないですか」
「……ああ、あれ」
思い出したくもない記憶が蘇り、つい苦虫を噛み潰した顔になる。そういえば神田にまで相談じみた弱音を吐いてしまっていたのだ。あの時の俺はどうしてあんなに心乱されていたのか。スバルどうこう以前に自分がダサい。メンタルが弱すぎる。
「まあ。できたといえばできたかな」
「なんですか?できたといえば、ってぇ」
「いや、別にしなくても良かったんじゃねーかなって今は思ったりして」
「なんですかそれ」
鈴を転がすような可愛らしい声を立てて神田が笑った。その様子を見ていると、自然に肩の力が抜けるのを感じた。
……あー。かわいい。
「でも、丸くおさまったみたいでよかったです。そんな雰囲気を察知したので、出しゃばりだなって思いながらもつい聞いちゃいました」
「え、俺、なんか醸し出してた?」
「いやー、忙しいのもあったと思うし、表面上は全然変わらないですけど、先輩の雰囲気がしばらくとげとげしてたので。今はまあるい感じです」
「ふうん…」
オーラが見える系とかなのだろうか。
神田の予想外の一面に驚きつつ、俺は安堵してもいた。
スバルに振り回されているだけで、本来俺の日常とはこういうものであったはずなのだ。仕事を頑張り、可愛い後輩に癒され、疲れたら時々哀子と飲みに行ったりする、その程度の、ささやかな幸せを繰り返す毎日。
それを取り戻せたような気がする。
……悩みに悩んでいた自分が馬鹿馬鹿しい。
二度とあんなやつに振り回されてたまるものかと思いながら、舞い戻ってきた日常と心の平穏に、少しだけ感謝もする。
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