【完結】人前で話せない陰キャな僕がVtuberを始めた結果、クラスにいる国民的美少女のアイドルにガチ恋されてた件

中島健一

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第87話 忘れ物 part2

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~織原朔真視点~

 僕は板橋区の撮影スタジオに到着した。23区内にこんな撮影場所があるのかと驚いた。そこはコンビニの様相を呈しているスタジオで、大通りに面していた。スタジオ内にどうやって入ろうか思案していると、中から見たことのある女性の俳優さんが出てきた。

 ──確か、元宝塚の結月理央ゆづきりお?だったかな?

 彼女は一緒に出てきたスタッフ?それともマネージャーに言った。

「華多莉ちゃんって本当に凄いよね。気も利くし、礼儀正しいし演技も上手いし」

「彼女は絶対日本を代表するアイドルになりますよ」

「まだ17とかだよね?それなのにもう次の現場でしょ?」

「はい。黒木監督の映画に出演するみたいですね」

「あ~、私も頑張らなきゃだなぁ」

 僕は彼女達の会話からまたもニアミス、音咲さんとすれ違いになったことを悟る。しかし彼女のことを褒めている会話を聞いて僕は少しだけ誇らしく思った。そしてそのタイミングを見計らったかのように白州さんから連絡が入ってくる。

『次の目的地は福島県塔のへつりです』

 ──福島県!!?

 なんだか、ゲームに参加させられているような感覚に陥った。僕はその撮影スタジオをあとにして、朝からずっと一緒にいるタクシーの運転手に次の行き先を知らせる。

 タクシーの運転手は僕が目的地を告げると、テンションを上げた。運転手のテンションが走行距離や時間に応じて上昇する料金メーターと比例してどんどん高くなっていく。

 日が沈み、夕焼けが僕の横っ面を照らす。移動しているだけなのに僕は疲労感を覚えた。音咲さんは移動だけではなく、勿論仕事もこなしているのだ。彼女の仕事がどれ程大変なのかを思い知る。その仕事だけじゃなく、学校にも行っているんだ。そりゃ授業中眠ってしまうのも頷けるし、部屋も汚くなるか。色んな現場を通して彼女の影を見た。スタッフさんや共演者、同じアイドルグループのメンバーにとても慕われていたのを見て、僕はなんだか自分のことのように嬉しかった。

 僕は袋に入った小箱を見る。

 これを届けることが僕の仕事だ。

──────────────────────────────────────────────────

~音咲華多莉視点~

 MVとバラエティの再現VTRの撮影はなんとか終わった。どちらも私がメインではなかった為、あれをそこまで必要としなかった。それでもあれがあるのとないのとではいつもと調子が違う。

 それに現在、福島県の塔のへつり。その付近の川辺で撮影を始めようとしている。

 夕日が沈み紫がかった空の中、撮影を行う。限られた時間でしか撮影ができない。私含めた演者さん達のスケジュールや天候等を鑑みると、この日しか撮影ができないのだ。

 そんなプレッシャーのかかる中、アレがないときっと私は良い演技ができない。

 陽も傾き始めたのを機に、カメラ位置を固定し、私達も配置に付く。空の色を黒木監督は窺いながら、まだもう少し時間がかかると言った。

 主演の田山さんが私の隣で溢す。

「緊張してきたぁ~」

 そう言って両手を擦り合わせる。少しだけ肌寒くなってきた。気温によるものでもあるが、アレがない心許なさによる寒気のような気がしてきた。私も自分の肩を抱くようなポーズをとると、マネージャーの加賀美が私にコートをかけに来てくれた。その時、小箱を渡される。

 私の体温が上昇した気がした。

 私は小箱を開け、中からエドヴァルド様のロザリオを取り出し、そして祈りを捧げるように握り締めた。

──────────────────────────────────────────────────

~織原朔真視点~

 川辺の大きめの石に腰掛ける音咲さんは、たくさんのカメラと大人達に囲まれながらエドヴァルドのロザリオを手にして祈りを捧げるようなポーズをした。

「これが彼女のルーティーンなの」

 隣でマネージャーの加賀美英子さんが教えてくれた。ルーティーン。ラグビー元日本代表の五郎丸さんが取り上げられてからよく耳にするようになった。

 精神を落ち着かせる為の儀式。僕がララさんのコメントを見て、やる気を出すそれと同じだった。あれだけテレビで有名な人達と一緒に肩を並べて仕事をしている音咲さんが僕扮するエドヴァルドを支えにしている。

 それが誇らしく、嬉しかった。

 僕らはお互いを必要としている。

 ──それがエドヴァルドでなく僕になれば……

「ありがとう。間に合ってよかった」

 音咲さんからコートとロザリオの入った小箱を受け取った加賀美さんが僕のところへ来てそう言った。

 僕は加賀美さんに訊いた。

「あれって前までスマホに付いてたヤツですよね?」

「よく知ってるわね。いつだったかスマホを落とした時にあのロザリオが傷付いちゃったみたいで、それを気にして小箱に容れるようになったの」

 僕がへぇ~、と嬉しさを誤魔化していると加賀美さんは続けて言った。

「撮影が終わるまで、待ってくれれば送っていくけど」

 僕はその申し出を断った。

「これからまだ仕事があるんで……」

「そう……」

 紫色の空が、僕らの頭上を覆うと、監督らしき人が言った。

「よぉ~~し、本番いっくよ~~」

 僕はその言葉を聞きながら現場を離れた。

 ──さぁ、配信しよう……

 今日はルブタンさん、新界さん、神楽坂さんとのコラボ配信だ。音咲さんの1日のスケジュールをなぞるようにして辿った僕は、彼女の偉大さを知った。そして僕も彼女が誇れるような僕になりたいと思った。
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