【完結】人前で話せない陰キャな僕がVtuberを始めた結果、クラスにいる国民的美少女のアイドルにガチ恋されてた件

中島健一

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第89話 三者面談

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~織原朔真視点~

 夏休み前に三者面談を行う。既に文系、理系と別れて授業をしてはいるが、テストの結果などを鑑みて、変更することも可能のようだ。しかしそうなれば夏休みは補講が入る。

 三者面談、当日。僕は自分の面談の時間を確認した。生徒達には自分達の時間しか教えられていない。生徒間のプライバシーを守るためでもあるし、現役アイドルの音咲さんの為でもあるし、両親のいない僕の為でもある。

 日本では両親が共働きの割合が68%にまで上る。昔と違って三者面談や家庭訪問などがやりにくくなった時代だと世間は言う。担任の鐘巻かねまき先生は定時の17時までではなく、20時30分まで学校に残って三者面談を行うそうだ。先生の受け持ったクラス全員の面談が終わるまで一週間程そんな日が続く。

 全ての生徒達と隙間なく面談を行うことができればいいのだが、次の面談まで2時間以上あいだが空くこともある。そういう時は僕を入れて調整するそうだ。僕の家庭環境を担任の鐘巻先生は知っていた。高校入学時の書類で両親がいないことを学校側は知っているのだ。義務教育を終えたが、まだ未成年であり、後見人のいない僕にこの学校は国の制度や財団法人や何とか育英会とかで奨学金を借りることを薦めてきたが、戸籍上死亡が認められた母親とは違い、失踪した父親がまだどこかで生きているということで生活保護や奨学金はなかなか認められることはなかった。失踪届けをだして7年間行方が不明なら死亡と認められるのだけれど、そんな期間を待っていたら僕も萌も高校をとっくに卒業していることだろう。

 時間を確認した。

 ──そろそろか……

 僕が教室に着く頃には既に面談を終えていたようで生徒とその親の姿はなく、鐘巻先生がただ待っていた。意図的にバッティングしないように取り計らったのだろう。

「おお~来たか、とりあえず座って」

 僕は促されるままに座った。鐘巻先生は口を開く。

「で、どんな感じ?」

「…何がですか?」

「進路だよ、進路!織原は成績も良いから奨学金借りて大学に進学することもできるだろ?」

「…ん~まずは妹の進学を優先したいです。僕の稼ぎで余裕が出来れば大学も視野に入れるつもりですが、とにかく今は学校とバイトで手一杯で先のことを考える余裕がないですね……」

 Vチューバー活動のことは何となく伏せた。しかし何故だか鐘巻先生は驚きの表情を見せていた。

「…織原、お前いつの間にそんな感じで話せるようになったんだ?いや、良いことなんだけどさ……」

「一対一ならなんとか話せるようになりました。でもまだ一対多数が苦手で……」

「そうか!でも良かったな!」

 僕の成長を噛み締めるように、少し間を置いて鐘巻先生は言った。

「ただ織原、自分のことをないがしろにするのはよくないぞ?」

「…蔑ろ、にはしてないですよ。学校とバイトで手一杯とは言いましたけど、自分のやりたいこともやってて…だからこそこうやって喋れるようになったというか」

「やりたいこと、か……もし、困ったことがあればいつでも──」

 僕は大人や社会を信用していない。いつだって自分達の力で生き抜いてきたからだ。萌を遠ざけようとする大人もいた。僕に正論を振りかざして説教する大人もいた。誰も僕達の気持ちなどわからない。わかるわけがない。

「先生には感謝しています。色々と気遣ってくれて、このまま誰にも迷惑をかけずに卒業できたらって考えています」

 鐘巻先生は、何か言いたげで物悲しい表情となった。僕を壊さないように、そっと両手で包むような言葉を発そうとしている。

 僕は立ち上がった。

「もう、良いですか?」

「お、おう……」

 僕が教室から出ると、音咲さんの取り巻きの1人、松本美優さんとおそらくその母親とばったり会った。

──────────────────────────────────────────────────

~松本美優視点~

「え、うそっ!?」

 ママがスマホを見ながら言った。こういう時は大抵良くないことが起きる。

「どうしよう美優、今日オープンから入ってるバイトの子が来れなくなったって」

 ほらね。私はストローを吸ってグラスに入ったアイスティーを空にしてから言った。

「じゃあ今日の三者面談は私1人で行くよ。ママは仕事で来れなくなったって言えば良いっしょ?」

「それじゃダメよ!あ~どうしましょう…先生に連絡を入れて時間を早めてもらえないかしら……」

 ママはそういって、学校の電話番号を調べてから電話をした。

「もしもしぃ~?」

 よそいきの高い声でママは喋った。

「はい。お世話になっておりますぅ~」

 私はドリンクバーに赴き、新しい飲み物を入れた。

 ──ママに負担をかけたくないのに……

 私は何杯目か忘れてしまったアイスティーを持って、席に戻った。するとママはスマホを耳から離して言った。

「時間変更はできないけど、もしかしたら前の人が予定よりも早く面談を終えて、その余った時間に面談できるかもしれないって!なんか生徒同士がバッティングしないように時間を多めに空けてるみたい!」

「そこまでして来なくて良いよ」

「だからダメよ!あなたの大事な進路なんだから」

「私は──」

 私は私よりもママの方が大事なのに。

「じゃあお会計して、学校に向かいましょう?」

 そう言って、私達は学校を目指した。

 そして指定された時間よりもかなり早く教室の前に着いた私達とほぼ同時に織原朔真が教室から出てきた。

 コイツの親がどんな奴か、私は少し興味があった。私は織原から視線をずらして、教室内を見渡すと中には担任の鐘巻しかいなかった。

「は?お前1人で面談したのかよ?」

 私の言葉使いをママが注意する。

「コラ!そんな汚い言い方しちゃ──」

「ママは黙ってて!」

 私は教室に入り鐘巻に詰め寄る。

「三者面談なのに生徒1人でも良いのかよ?」

 鐘巻は困ったような表情をする。

「織原は、その……」

 鐘巻は廊下にいる織原に視線をずらす。私も少し遅れて織原を見た。織原は鐘巻に軽く頷くと廊下を歩きだした。

「おい、帰んなよ!」

 織原を引き留めてどうしようかとも考えたが私の腹の底から沸き上がる怒りが先行した。

「アイツは特別だから良いの?は?差別?先生がそんなんでいいの?」

 鐘巻に怒りをぶつけた。

「美優!止めなさい!!」

 教室に入ってきたママに私は言った。

「ママは、女手一つで私を育ててくれた!!」

 ママは足を止める。次に私は鐘巻に向かって口を開く。

「そんなママの負担になるようなことはしたくないの……今日だって仕事の合間を縫って来てくれて……」

 何故だか涙が溢れ落ちる。怒りを通り越したんだと思う。

「なのに、織原は1人で良いなんておかしい!!」

 不平不満はたくさんある。しかしこんなことで爆発してしまった自分に私は少し驚いていた。華多莉と織原の関係。アイツのおどおどした態度。黙っていればなんでも解決すると言ったようなあまっちょろい考え。黙って両親の離婚を受け入れてしまった自分を思い出してつい苛立ってしまう。私はダメで何故か特別視されてる織原に私の怒りの蓄積がピークに達したのだ。

 ママが鐘巻に向かって言った。

「す、すみません先生。時間よりも早く来てしまって……その、急に仕事が入ってしまって、予定より面談を早めてもらえませんか?」

「え、えぇ…どうぞ……」

 鐘巻は席に座るように促した。

「ほら、美優も座りなさい」

 私は座らなかった。代わりにふるふると震えながら、おさまらない怒りを巡らせていた。すると、鐘巻が口を開く。

「あのなぁ、これは織原のプライバシーというか、アイツも言われて嫌だと思うから、これから言うことは誰にも言わないでもらいたいんだが……」

 私はキッ、と鐘巻を睨んだ。涙で濡れた瞳でできる唯一の抵抗だ。瞬きをしたらその涙が零れそうだった。鐘巻は私の睨み付けから目を逸らして今度は、ママの方を見た。

「は、はい……」

 ママは他言しないと戸惑いながらも頷く。一体何を言われるのか、この時の私は全く予想していなかった。だから最初、鐘巻が何を言っているのか理解ができなかった。

「アイツに、織原には両親がいないんですよ」

 その言葉は教室内をゆらゆらと漂う。私はそれをうるんだ瞳で見つめていた。いつまでも眺めることしか出来なかった。ママはというと口元に手を当てて驚いていたんだと思う。鐘巻は続けて言った。

「中学生の時に母親が亡くなって、その後すぐに父親が失踪したみたいなんですよ。親戚もいなければ後見人もいない。アイツは妹さんと2人でバイトしながら生計を立てていて……」

 私はやめれば良いのに、何かしら言い返さないと自分がみじめになっていく気がした為に口を開いた。

「…だ、だったらそう言えば…良いのに……」

「アイツさ、中学の時にそんな経験したもんだから声が出なくなったらしいんだ。今は一対一ならなんとか喋れるらしいけど…やっぱりまだまだ面と向かって自分の考えを述べるのが難しいみたいなんだ。俺も最近までそれを知らなくてさ、授業中とかつい当てちまって、悪いことしたとは思ってる」

 その後、三者面談が始まった。しかし何を話したのか私は全く記憶していなかった。
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