【完結】人前で話せない陰キャな僕がVtuberを始めた結果、クラスにいる国民的美少女のアイドルにガチ恋されてた件

中島健一

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第93話 決め付け

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~松本美優視点~

 夏休みに入った。私はバイトをたくさん入れることにした。毎日のようにテレビに出てくる華多莉を見ていると自分も働かなきゃって思える。また、自分の遊ぶお金や高校を卒業した後の専門学校の学費だって今のうちに貯めておかなければならない。それにバイトをしていると他のことを考えなくてすむ。

 ──織原朔真……

 黒のデニムに前掛け、清潔感のある白いシャツのバイト着に着替えた私はまたしても不意に織原のことを考えてしまった。

 三者面談の時に私は子供のような癇癪を起こして、織原に怒りをぶつけてしまった。あのときのことを思い出すと、顔から火が出るように熱くなる。自分の情けなさと織原に謝らなければならないこの罪悪感が私を襲い、自分が惨めになっていく。

「松本さん、松本さん!ちょっと早いけど入ってくれる!?」

「あ、はい!」

 まだ私のシフトよりも早いけどお店が忙しくなったようだ。私はバックヤードから店内に出た。おっと、色々考えすぎてタイムカードを押すのを忘れていた。夏休みともなると多くの人が昼夜問わずこのファミレスに訪れる。この忙しさが私の脳内を満たし、あの日の出来事を束の間忘れさせてくれる。そしてこの忙しさによって自分のバイトのスキルがどんどんと伸びていくのがわかる。どんなことでも成長できることは嬉しいものだ。

 ──よし、今日も働いて稼ぐぞ!!

「5番テーブルリセットしてくれる?」

 入って早々に5番テーブルに残された食器類を片付けてほしいと先輩の北見きたみさんに言われた。私は急いでトレンチに、重ねたグラス、食べ終わった食器をのせて運び、その後ダスターでテーブルを拭いた。

「5番リセット終わりました!」

「先頭のお客様をそこにご案内して!」

 私は店内出入り口付近にある、お客様がセルフ記入する入店名簿に目を通して、一番上にある名前を読み上げようとした。本来ならタッチパネルでお客様が操作をして入手する番号を機械が読み上げてくれるのだが、この日はその機械が壊れていた。

「え~、2名様でお待ちのオリハ──」

 ──織原!!?

 私は出入り口付近に待っている織原朔真と一ノ瀬愛美を見た。彼等はまだ私に気が付いていない。

 咄嗟にレジに隠れると、先輩の北見さんが来て言った。

「え!?松本さんなんでここに!?もうお客様案内しちゃうよ?」

 私は囁くように言った。

「お願いします」

 北見さんは首を傾げながら織原達を5番テーブルに案内した。

 ──ど、どうしよう……

 私は塹壕より前線の様子を見ようとする兵士のようにレジカウンターから5番テーブルを覗き見た。私の同級生2人は談笑しながらタッチパネルを操作して、オーダーを考えている。

 ──こ、これはチャンスだ!夏休みに入って以来、私は織原に謝りたいと思っていた。

 しかし私は教室で織原に悪態をついてきたことや、林間学校で詰め寄ったこと、三者面談で怒鳴ったことを思い出す。

 あれだけ嫌われるようなことを彼にしてきたのだ。織原は私のことを嫌っているだろう。そう思うと、恐くてなかなか一歩が踏み出せない。

「──ません、あのぉ~、すみません」

 私は自分に話しかけて来るお客様にようやく気が付いた。

「あ、失礼しました!」

「お会計お願いしたいんですけど、あの急いでるんで早くしてもらっても良いですか?」

「も、申し訳ありません」

 私はレジを操作して会計を済まそうとしたが──

「あれ?割引になってなくないですか?」

「た、大変申し訳ありません!こちらの金額でお願いします」

「はぁ、しっかりやってよ……」

「申し訳ありませんでした」

 計3回は謝った。

 ──従業員になってる私なら簡単に謝れるのに、本当の私になって織原に謝るのがこんなにも勇気が必要なんて……

 私はキッチンから出来上がった料理を受け取ろうと歩きながら、遠くから織原と一ノ瀬の様子をうかがった。既に注文をし終えたのか2人は何やら真剣な話をしているようだ。しかしその時、ガンと無機質な物質にぶつかった。

「きゃっ!!」

 私がぶつかったのは、ネコ型配膳ロボットだ。そして運の悪いことにそのロボットが運んでいたワイングラスが私とぶつかった衝撃で床に落ちて割れる。

 甲高い音が店内の喋り声をかき消した。

「失礼しましたぁ!」
「失礼しました!!」

 私含めて他の従業員が静寂とお客様の不安をその一言で拭った。私はすぐに割れたグラスをかき集めようとすると、北見さんが言った。

「ダメ!」

 手で破片を拾おうとした私を制止させようとするが私は止まらなかった。

「いッ!!」

 破片に触れた人差し指に鋭い痛みが走り、反射的に指先を引っ込める。

「後は私がやっておくから、洗い場で傷洗っておいで?」

「はぃ……」

 洗い場に入った私は、蛇口をひねって、傷口を洗いながら泣きそうになった。

 ──うまくいかないことばっかり……

 すべて自分でまいた種だ。だからこそ泣きたくなってくる。

 ──傷口を洗いながら泣きそうになるなんて、一体いつ以来だ?

 子供の頃、公園で転んでは膝や肘をよく擦りむいていた。そんな時はママが私を優しく抱いて起き上がらせてくれて、擦りむいたところも私を後ろから抱きながら、水で洗ってくれた。傷に水が染みて泣きそうになる私を頑張れって言ってくれて励ましてくれた。

 今だって、喧嘩もするけど私のことを愛してくれてるママ。三者面談も私の進路のことは負担でもなんでもないと言ってくれた。

 だけど、織原にはそんなママもいなければパパもいない。

 私にはママのいない生活なんて想像もできない。きっと辛くて、堪えきれないような悲しみが毎日のように襲ってくるのだろう。 

 私は蛇口を締めて、キッチンから飛び出し、織原のいる5番テーブルに向かった。

 謝りたい。それは自分のためなのかもしれない。織原はそんな私をうざったく思うだろう。だけど「ごめん」そう言いたかった。

 5番テーブルには織原しかいなかった。一ノ瀬は席を外している。胸を張りながら堂々と5番テーブルの前に立つ私に織原は私が誰なのかわかっていない様子だった。

 言葉が出てこない。

 ──あぁ、そうか……もしかしたら織原が喋れなくなった感覚ってこんな感じなのかもしれない。

 私が言葉を選んでいると織原がようやく私に気が付いたようで、私の名前を口ずさむ。

「ま、松本さ──」

「ごめん!!」

 私は頭を下げた。思ったよりも大きな声が出てしまった。私は頭を下げたまま織原の顔を見れないでいた。そして視点を床にしたまま続けて言う。

「わ、私何も織原のこと知らなくて、勝手にこういう人だって決め付けて酷いこと言ってた。織原は私のこと許さなくて良いから、だけどただ謝りたくて…今までのこと……」

──────────────────────────────────────────────────

~織原朔真視点~

 一ノ瀬さんが御手洗いに言ってる最中に、店員さんが物凄い形相で僕のいるテーブルにやって来た。

 ──え?僕なんかした?

 ここ、ファミリーレストランのゴストに入店してから今までのことをこの一瞬でおさらいする。

 ──いや、何もしてないはず……じゃあどうしてこの店員さんは、こんな形相で……

 この時、ようやくこの店員さんが誰なのかに気が付いた。

「ま、松本さ──」 

「ごめん!!」

 音咲さんの取り巻きである松本美優さんが物凄い速度、額でかわらを割るような勢いで頭を下げた。ゴストではこの角度と速度で謝罪をしなければならないようなマニュアルがあるのかと錯覚したがそうではないと直ぐに悟った。

「わ、私何も織原のこと知らなくて、勝手にこういう人だって決め付けて酷いこと言ってた。織原は私のこと許さなくて良いから、だけどただ謝りたくて…今までのこと……」 

 僕の家庭環境を鐘巻先生は松本さんに喋ったと言っていた。僕のことを知って謝罪したいと思ったのだろう。そんなことしなくても良いのにと思ったが、三者面談で彼女の母親想いの面を僕は知り、彼女なりの誠意を示したいと思ったのだろう。僕は謝罪を受け入れ、「気にしてないよ」そう言おうと思った。しかし、端から見れば店員と客が揉め事を起こしているように見えるこの状況を、多くの人が見守り始めた。

 僕は多くの視線に、冷や汗と動悸が発動する。喉がつまる。苦しい。しかし松本さんの為にも応えなきゃと僕は思った。人に謝罪をするのはなかなかに勇気のいることだ。喧嘩や悪いことをしたなと思ったその時、その場で謝罪ができれば良いのだが、そのタイミングを逃せば、ずっと謝れないままになってしまう。現に僕は妹の萌にあの時のことを謝れないでいる。

「き、気にして…ないよ……」

 それを聞いた松本さんは顔を上げた。

「本当に!?」

 松本さんはようやく顔を上げたことにより、お客さんの殆どは何事もないように談笑に戻ったのがわかった。

 自然と動悸がおさまると僕は返事をする。

「うん。大丈夫だから」

「じゃあ、私のこと嫌い?」

「なんで、そんなことを……?」

「織原のことを勝手に決め付けてたから、今度はちゃんと聞いて確かめたいの!」

「き、嫌いじゃないけど──」

「けどってどういうこと?正直に言って!私のことどう思ってるの?」

 どうしてそんなことまで答える必要があるのか疑問に思ったが、僕は正直に答えた。

「友達想いで、お母さん想いの女の子?」

 松本さんは「え」と言って目を見開いたかと思うと、口を開く。

「…な、なんでそんなこと言うんだよ!!バカ野郎~!!」

 そう言って背を向けてキッチンの方へ走り去って行った。

 一体彼女は何を思ったのか僕にはわからない。かといって彼女のように尋ねる勇気を僕は持ち合わせていなかった。ちょうどその時、一ノ瀬さんが帰ってきて僕に言った。

「トイレ混んでて遅くなっちゃった」

 僕の対面のソファに身体を滑らせて座ると一ノ瀬さんは続けて言った。

「私、eスポーツの大会に出ようと思うの」
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