【完結】人前で話せない陰キャな僕がVtuberを始めた結果、クラスにいる国民的美少女のアイドルにガチ恋されてた件

中島健一

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第97話 テーマパーク

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~織原朔真視点~

『謎の日本人ストリーマー 世界を揺るがす』

 ヤホーニュースの記事の見出しを見て、僕はとうとうここにも取り上げられるようになったのかと思った。

 一ノ瀬さんことシロナガックスさんは昨日、フォートトゥナイトのワールドカップで昨年2位を獲ったZEUSというプロゲーマーを倒した。その動画が添付されたツイートは世界中に拡散され、僕のSNSアカウントのタイムラインを盛大に荒らした。

 〉最強スギだろ
 〉マジで次のワールドカップ出てほしい
 〉何で最近配信しないんだろ?
 〉動画見ても何が何だかわからんかった

 しかし、昨日一ノ瀬さんから送られてきた高校生による全国大会の予選内容は世界2位を下したにしては些か良くない結果であった。

 ──注目されないためにわざと順位を落としたんだろうな……

 僕はスマホの画面を見ながらそう思うと、薙鬼流に怒られた。

「ちょっと!せっかくシーに来たんですからスマホばっか見てないで楽しんでくださいよ!!」

 僕は顔を上げて薙鬼流を見た。

「ご、ごめん。でもまぁ、流石に夏休みだから混んでるよな」

 辺りは人で埋め尽くされていた。このテーマパークのメインキャラクターのガールフレンドの可愛らしい耳を着けた制服姿の女子高生やカップル、子供を連れた家族なんかも目についた。

 薙鬼流も女子高生達と同じようにいつものトレードマークのリボンカチューシャではなくネズミの耳を着けて、クマのぬいぐるみを抱えている。なぜ僕らが某テーマパークに、しかも2人で来ているのかと言うと、この前のアーペックス、田中カナタ杯でのお礼だ。

 薙鬼流がいなければ、林間学校中に大会に参加できなかった。大会を見事優勝した後も、僕と一ノ瀬さんは直ぐに宿泊している自分の部屋に戻らなくてはならなかった為、薙鬼流が僕らのPCを梱包して自宅まで送ってくれたのだ。

 そんな彼女の為に僕は何かプレゼントをしようと色々と考えた。単純にお金が一番良いのではないかと思ったが、妹にそれはダメだと言われる。それなら何が良いのかと尋ねると色々と案を出してくれた。コスメにポーチにお菓子、ボディクリームにリップグロス。どれもピンと来なかった為に、chatDDTにも聞いてみた。大体萌と同じ意見だった。

 しかし、薙鬼流はVチューバーだ。自分の欲しいモノを配信で言っている可能性がある。僕は薙鬼流の配信を見漁った結果、ディスティニーシーのペアチケットに決定した。

 大会が終わってからシーの新しいアトラクションに乗りたいとずっと言っていた。しかも丁度ブルーナイツ3期生のマリアさんと2人で行くと言っていたのだ。だから僕がラミンで薙鬼流にもうチケットは買ったのかと訊いたら、まだ買ってないとのことだったので僕が代わりにその代金を支払うと申し出た。

◆ ◆ ◆ ◆

「え!?なんでエド先輩が払うんですか?」

「だから言ってんじゃん?お礼がしたいって」

「でも、ああいうのは自分のお金で行くから良いんですよぉ?」

「え、もう買っちゃったんだけど……」


「ん~もうしょうがないなぁエドせんぱ~い、私と一緒に行きましょうか?」

「やだ」

「ちょいちょいちょい!!行ってくださいよ!!ていうかお礼は、一緒にディスティニーシーに行く!!これしか認めません!!」

◆ ◆ ◆ ◆

 あまりこう言うところには行き慣れてない。というか僕はあまり興味がなかったがお礼はこれしか認めないと言われてしまっては、行く他ない。また配信のネタになるなら良いかとも思ったが、それに関しては薙鬼流には内緒だ。

 よくここのテーマパークに他のVチューバーと行った話が語られる。誰もが行ったことのあるこのテーマパークによって多くの人に共感性を持たせ、話に引き込むことができる。

 それで僕らは今、ここで次にどのアトラクションに乗るかを思案していると言うわけだ。専門アプリによって今どこが空いているとかこのアトラクションは何分待ちであるかとかは把握できるらしい。またお金を2000円程払えば列に並ばなくてもアトラクションに乗れるようだ。それに一昔前にはファストパスっていうモノがあって、それを取得し指定された時間内に行くと優先的にアトラクションに乗れたそうだが、今はもうそのシステムが失くなっていて、今度は列に優先的に並ぶスタンバイパスっていうのもあったがそれも廃止されているようだ。なるほどテーマパークも都度アプデされているというわけか。

 僕は、テーマパークのアプリの地図を見て自分の今いる場所を確認する。

「あ~ヤバイな……」

 僕がそう呟きながら目を擦ると薙鬼流が訊いてきた。

「何がです?」

「地図見てるとさ、無意識に次の安地を予測しちゃうんだよね」

「なんですかそれ!?」

「他にもさ、ここにジップラインありそうだからこの海は横断できそうだな、とか」

「そんなのないですよ!!」

「この印なに?ケアパケ?」

「そろそろ怒りますよ?」

 僕は冗談だと言って謝った。頬を膨らます薙鬼流を宥めていると、人だかりが押し寄せてくるのが見える。

「なんだろう、あれ?」

 いつの間にか元の頬に戻った薙鬼流が疑問を呈すると、続けて言った。

「ファンカストかな?」

 清掃員等に扮したパフォーマーがパントマイムをしたり落ち葉や水を使って地面に絵を描いたりしてゲスト──お客さん──を楽しませることだ。一時期流行り病のせいで、このテーマパークのコンセプトと関係のないパフォーマンスは排除されたこともあったが、今では復活しているようだ。

 しかしそれにしては人が多すぎるような気もする。

「それよりも先輩、ちょっと私トイレに行ってきます」

 僕は了承した。

──────────────────────────────────────────────────

~薙鬼流ひなみ視点~

 え?ちょっと待って!?格好良すぎない!?

 私はエド先輩と夢の国、ディスティニーシーに来ていた。そして現在パーク内にあるトイレに私はいる。

 便器には腰を下ろさずに個室の壁に両手をついて悶えていた。

 ──いや?いつも格好良いよ!?でもやっぱりあの大会以降雰囲気が一段と大人っぽくなったというか、制服を着てたら高校生なんだなって思うけど、私服!私服の時は、なんというか気軽に抱き付けないよ……

 そう、パーク内に来てからというものの私はエド先輩に抱き付いていないのだ。

 ──せっかく2人きりのチャンスなのに……

 抱き付こう、ここから出たら走って抱き付こう。私はそう決めた。いや待てよ、ちょっとイメージトレーニングをしよう。

 人混みをかき分けて私を待つエド先輩に抱き付き……

 私服のエド先輩に抱き付こうと想像したら顔が紅潮した。

 ──あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 私は熱くなった顔面をトイレの壁にガンガンと打ち付ける。

 ──ダ、ダメだぁぁぁぁ!!!

 意識しちゃう。私は理解した。変わったのはエド先輩だけじゃない。私のエド先輩に対する想いも変わったのだ。

 ──日に日に大きくなっていくよ……

 それはそうだ。どん底の私を救ってくれたのだ。ホレないわけがない。私は便器に腰をおろして頭を抱えた。

 ──ダメ。早く出ないと……うんこだと勘違いされる……

 私は個室から出て、洗面台で手を洗い、トイレ出口付近の鏡で最終チェックを行った。

 ──うん!大丈夫!!可愛い!!

 そしてエド先輩の元へと走る。

──────────────────────────────────────────────────

~織原朔真視点~

 薙鬼流が小走りでトイレに向かう背中を見送ると、人だかりがこちらに向かって迫ってきているのを確認した。人だかりの中央に高く掲げられたガンマイクと片方の肩に背負うゴツいカメラを持った人とそれよりはいくらか小さなカメラを持った人、そしてその被写体となる3人の姿が見えてきた。

 ──うわぁ、あれ?この前音咲さんの忘れ物を届けた時にいた俳優兼アイドルの……確か有名男性アイドル事務所の田山彰介たやましょうすけだっけ?あとは…芸人ウィリアム×ウィリアムの沢村と……ぇ……

 僕は残る1人の顔を見て、心臓が止まりかけた。下を向く僕に隣にいたお姉さんが訊いてきた。

「あれって椎名町45のかたりんですか?」

 急に尋ねてきたお姉さんを僕は見た。

 白いジャンパースカートに清涼感のある淡いブルーのブラウス。頭に黒いリボンを着けた不思議の国のア○スのような格好をしたお姉さんだ。長い金髪をサイドテールにして、何にでも興味を抱き、押さえきれない好奇心を目に浮かべているのが印象的だった。

 僕は頷くとお姉さんは言った。

「かたりんって本当に可愛いよねぇ」

「そ、そうですね……」

 僕は思う。

 ──え?なんで急に話し掛けてきたの?ここってそういうの頻繁に起きる感じ?

「なんかテレビの撮影みたいだね。呟いてる人めっちゃいるよ。写真も載っけてるし。ほらっ」

 僕にその画像を見せつけてくる。会話を続ける技術がない僕はお姉さんの画面をただ見るしかなかった。

「あ、本当だ……」

 僕は控え目にリアクションをとった。

「さっきの子は彼女さんですか?」

 お姉さんは訊いてきた。

 ──え!?めっちゃグイグイくる……

 僕はそう思いつつも違うと頭をふった。

「学校の後輩です」

「え~!?本当にぃ!?でもここに2人で来てるってことは狙ってたりしてるんじゃないの?」

 お姉さんのデカすぎるリアクションにお姉さんの連れの人が僕に注目してきた。

「どうしたのミカ?」

 お姉さんのタイプとは少し違うボーイッシュなお姉さんが僕らの輪に入ってきた。上下アディダスのジャージに胸元のあいた白い半袖のTシャツを中に着込んでいる。

 始めに話し掛けてきたお姉さん──ミカと呼ばれた──が言った。

「いや、最近の高校生について知りたくてね。どこから来たの?」

 コミュ障の僕に、次々と話題を提供してくるお姉さん達。どこから来たのかの質問に答えると次は出身はどこなのかとか、どのアトラクションに乗ったとか、何のテレビ番組の収録なのかとかを調べたり、よくそんなに話題が出てくるなと感心していた。その会話の中で発覚したのは、収録に来た音咲さんと田山彰介は新しく公開される映画の出演者らしく、その宣伝も兼ねてこのテーマパークを回っているみたいだ。僕はその時、話題を探そうと周囲を無意識にキョロキョロとしたが、次の瞬間、収録中の音咲さんと目があった気がした。

「ぅっ……」

 咄嗟に目をそらした僕にミカという名前のお姉さんが尋ねてきた。

「ん、どうしたの?」

「い、いえ、何でもないです。お気遣いありがとうございます」

「あ!かたりん見てたんでしょ?」

 お姉さんはそう言って、音咲さん達に向かって手を振り始めた。

 ──何してくれてんだよ!!?

 お姉さんは無邪気に背伸びしながら手を振った。僕の周囲にいる人達が、わぁーと色めき立つ。僕は恐る恐る音咲さんの方を見た。

「あ……」

 鋭い眼光から驚愕するような表情。音咲さんと完全に目があった。

「ホラ、こっち見てる!!」

 お姉さんはそう言って、僕の手を掴んで手を振り始めた。僕は力の抜けたぬいぐるみのように腕をブンブンと左右に振らされる。

 すると、音咲さんが地面に躓いた。

 転びそうになるところをイケメンの田山彰介が音咲さんを抱きかかえるようにして支える。

 その光景を見た僕は、得も言われぬ感覚に襲われる。焦燥感にも似たその感覚は僕を僕から引き剥がすようだった。その反対に周囲の人々はどよめいた。

「きゃぁぁぁぁ!!」
「きゃ~~!!」
「わぁぁぁぁぁ!!」

 音咲さんは恥ずかしがるように、何度も田山彰介に頭を下げて礼をしていた。

 僕は音咲さん達から目を反らした。

 イケメンが美女を、音咲さんを支える。何とも画になる瞬間だった。その瞬間が目をそらしてからも頭から離れない。

 そんな時、ミカと呼ばれたお姉さんが僕に訊いた。

「あのぉ、一つお伺いしてもいいですか?」

 僕は少しでも音咲さんを支える田山彰介の映像から離れる為に、お姉さんの問いかけに答える。

「いいですよ?」

「エドヴァルドさんですよね?」

「ん?」

 僕は固まってしまった。

「ご、ごめんなさい!そんなにわかりやすく固まらなくってもいいじゃないですか!!あの、私もVチューバーやってるんです」

 Vチューバーの部分だけをお姉さんは小声で言った。そして続ける。

「実はエドヴァルドさんとは全く知らない関係でもないんですよ」

「え?」

 さっきから「ん?」とか「え?」しか出てこない。

「鷲見の企画でエドヴァルドさんの声を聞いたことがあるんです」

 鷲見さんの企画で僕の声を聞いた?よくよくお姉さんの声を聞くと、とある人物が──と言っても2次元のキャラクターなのだが──浮かび上がる。

「もしかして……」

「そうです!天久カミカでぇっす☆」

「ええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 僕の叫び声は近くにあるジェットコースター型のアトラクションの叫び声と重なり誰も僕には注目しなかった。
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