【完結】人前で話せない陰キャな僕がVtuberを始めた結果、クラスにいる国民的美少女のアイドルにガチ恋されてた件

中島健一

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第124話 回り回って

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~一ノ瀬愛美視点~

 鐘巻かねまき先生と織原君に確認が取れた。

 多くの人が私のことを知りたがっていた。シロナガックスなのかどうか、はっきりとさせないと憶測が憶測をよんであらぬ疑いや噂話によってトラブルに巻き込まれる恐れがあった。既にシロナガックスの偽者が現れたり、シロナガックスをかたった詐欺被害などもあり、私がシロナガックスだったといよいよ名言しなくてはならなくなった。

 しかし私がシロナガックスであると公表してしまうと、林間学校中に田中カナタ杯に参加したことを咎められる可能性があった為、全国高校eスポーツ選手権大会では自分の正体を濁すような表現をしたのだ。

 ──まさかたった3マッチしただけでここまでバレるとは思わなかったな……

 学校側は昨今、部活動の大会等によって修学旅行や林間学校に参加できなくなる生徒がいることを心苦しく思っていたようだ。今までは大会に出ることの方が名誉であると思っていたらしいが、流行り病によって修学旅行や林間学校そのものが中止になってしまい、生徒達の悲しみに暮れる姿を見てきたのもあって、リモートで参加できる大会があれば、修学旅行中や林間学校中でも参加しても良いという方針をとるとの事だ。

 しかし、それは前もって先生に知らせることが必要不可欠だ。鐘巻先生に私がシロナガックスだと告げた際は、絶句していた。勿論その前に織原君に私の正体を明かしても良いかの許可を取った。私が林間学校中に田中カナタ杯に参加できたなら織原君も参加できると、華多莉ちゃんに疑いをかけられる可能性があるからだ。

 織原君は現在、歌配信で大注目されている。勿論私もリアタイしていた。学校が始まればカラオケに誘いたい。そしてリアルに投げ銭をしたい。そんな願望を抱きつつ、私は織原君に尋ねると、一ノ瀬さんの好きなようにして良いとのことだった。というか織原君はこうなることをわかっていたみたいで、私は自分の認識の甘さを痛感させられた。

 鐘巻先生に学校へ来てくれと言われて、織原君のことには触れないで報告しに行った。そこには校長先生もいて、学校に黙って林間学校の部屋を抜け出し、大会に参加したことの重大さを思い知る。

 鐘巻先生と校長先生には何度も頭を下げて説明をした。今回は私が優勝したこともあり、世界的にも名のあるプレイヤーであることから退学等の罰則は逆に学校側のイメージダウンに繋がるとのことで、厳重注意のみとなり、今後在学中、MANAMIとして活動するのならば学校側に逐一どのような活動をするのか、どんな仕事を受けるのか報告することとなった。

 無論、このことはお母さんにも伝わり、頭を抱える仕草をするも、意外とあっさり次からは気を付けるのよ、とその一言でおわる。そしてそんなことで退学になるなら私が弁護するからと言われた。なるほど、お母さんが弁護士だから学校側もあまり強い態度が取れなかったのかと私は思い到る。お母さんに感謝を告げると、歌配信から一夜明けて初めての配信となる織原君の配信を点ける。

 モノクロのモデルルームのような清潔な部屋を背景に、オレンジ色の髪をセンターからかきあげて、挑発的な目を向ける織原君ことエドヴァルドさんの配信が始まった。

『え~、ちょっと緊急で撮ってるんですけどもぉ……』

 〉こんヴァルド!
 〉こんヴァルド!!
 〉某ユーチューバーと同じ入りすなw

『皆さん、ありがたいことにですね、色々なことが重なりまして、え~盛大にバズり散らかしております』

 〉歌聴いたよぉ~!
 〉歌めっちゃ良かった!
 〉また歌枠とって!

『歌聴いた?ありがとうございます。え~色んなですね、報告をしたいんですけど、まだ言えないこともあって、ん~何から話そうかな?』

 なんだろう?と私は期待で胸を弾ませる。

『正直ですね、色んな取材やらオファーやらが来てるんですけどそんな中で、迷ってるのがテレビ出演なんですよねぇ……』

 〉出よう!
 〉前に逃げるんだろ!?
 〉シロナガックスは前へ進んだぞ!?

『いやわかるんだけど、話が急過ぎるんだよね。俺からしたらいきなり宝くじがあたって、あれもやりましょう、これもやりましょうって知らない大人がたくさん寄ってきてるみたいでさ、わかるでしょ?慎重になるの』

 〉それは確かに怖い
 〉エドのペースでやって
 〉色んな人にエドのこと知ってほしいけど知ってほしくない自分もいる

 私もeスポーツの高校生大会を終えて、たくさんの大人達に声をかけられた。雑誌やネットニュース等の取材、テレビ出演のオファーもあった。しかし華多莉ちゃんの出る番組、高校生大会に関わった番組にしか出演しなかった。CZカップに向けて集中させてほしかったからだ。

『とりあえずいきなり慣れないこと始めないで、ゆっくり配信を続けながらそういうオファーを徐々に受けてみようと思ってます。折角バズったのにちょっと勿体無いけど、それで普段の配信活動が出来なくなったら本末転倒だし、皆になかなか会えなくなるのも嫌だからさ、先ずは普通に配信するわ。って前もこんなこと言ってたような……』

 〉エドのそういうとこ好き    
 〉愛されてるな俺ら
 〉ありがとうございます

『てなわけで、今日はいつものような配信をしたいと思います。初見さんも多いけど俺はこんな感じです。良かったらチャンネル登録宜しくお願いします』

 そう言って、ポーカー大会の練習配信をしている彼をいつものように視聴した。

──────────────────────────────────────────────────

~音咲華多莉視点~

 推しの歌に励まされて、翌日目を覚まし、仕事に行った。嫌なことがあった筈なのになんだか調子が良い。そんな推しの歌枠が海外の人気アーティストによってバズったと聞いたのは仕事の休憩中のことだった。

 椎名町45のリーダーであるのぞみさんが教えてくれたのだ。ねぇねぇと肩を叩かれて、エドヴァルド様の歌っている誰かが切り抜いたであろうショート動画を見せ付けてきた。

 希さんは興奮気味にエドヴァルド様の動画がバズっているとの報告をしてくれた後「凄く歌上手いねこの人」と言ってきて、続けて「華多莉ちゃんが前言ってた人だよね?」と尋ねてきた。私は「はい」と返事をして、自分の先見の明に酔いしれるも、すぐにその酔いがおさまる。もっと多くのリスナーや共感してくれる人を増やそうとエドヴァルド様の布教活動をしている反面、エドヴァルド様を皆が知ってしまったことによる損失感と私が先に見つけたのにという嫉妬と独占欲が込み上げる。古参ファンにあるあるのジレンマが私を襲ったのだ。

 のぞみさんが、メンバーの皆が、道行く人達が覗き込むスマホの画面にはエドヴァルド様の歌っている動画やゲーム実況をしている動画が写る。

 そして仕事を終えた私は現在、いつものホテルの部屋でエドヴァルド様の配信をリアタイしていた。

 バズっていても、それに乗じていつもとは違うことなんかをせずにまずは応援してくれているファンに向けていつも通りの配信を心掛けると言ってくれた。

 お父さんに認められたい、そんな自己中心的な理由でアイドルをやっている私と、ファンに対する扱いの差を見せ付けられた気がした。

 昨日の歌枠もそうだ。落ち込んでいるエドヴァルド様の友達だけではなく、同じように落ち込んでいるファンや偶々《たまたま》配信を見ている同じような経験をしたことのある人に向かって歌っていた。

 ──私もそんな風に活動したいな…… 

 もしエドヴァルド様とお話ができるなら、エドヴァルド様は何故配信をしているのか聞いてみたいと思った。

 ──いや、私は知っている。

 それがきっかけで私はエドヴァルド様のことを好きになったんだから。

◆ ◆ ◆ ◆

 折角、椎名町45として活動しているのに私の人気は全くなかった。アイドル活動もテレビの収録も何をして良いのか、どこまでやって良いのかわからなかった。ドラマや映画の仕事なんて全くない。しかしテレビを点けると同じ椎名町のメンバーが活躍している。私にもファンがいる筈なのだが、ネットでエゴサをしても私の悪口すら出てこない。完全な幽霊メンバーだ。そんな中折角、脇役で映画に出れたのにお父さんからは邪険にされた。

 自暴自棄に陥ったその時、ベッドにうずくまりながらたまたま動画投稿サイトを覗くと、ライブ配信中のVチューバーがいた。

 ──Vチューバーって最近よく出てくるよね……何が良いんだろう?

 マインドクラフトというゲームを実況配信しているようだ。私は何気なく同時視聴者数を見た。

 エドヴァルド・ブレイン 0人が視聴中 

 私は鼻で笑った。どの世界も一緒である。何かをしても誰も見てはくれはしない。しかしこのVチューバーよりも私の方がマシだ。椎名町45というアイドルグループに入れたのだから。

 しかし私は誰も見ていない配信をやるそのメンタル、精神性が気になった。誰も見ていないのだからやるだけ無駄ではないか?もっと時間帯を考えて戦略的にやるべきだとも思った。そしてどのようなことを配信しているのか気になっていった。

 気が付くと私はそのVチューバーの配信をタップして視聴者数を0から1へと増やした。

『視聴者0人だからなぁ、喋る必要なんてないんだけど、まぁアーカイブに残るし、なんか話さなきゃなぁ……』 

 印象的な低く響く声が聞こえる。

『おっ!いらっしゃいませぇ~』

 1人の視聴者である私にそのVチューバーが話し掛ける。自分に対して声をかけてきたことに私は一瞬ドキッとしてしまった。そして私は自分の想いをコメントする。

 〉視聴者が0人なのに配信する必要ありますか?

 Vチューバーは私のコメントを読み上げた。

『…辛辣なこと言うねぇ…そうだなぁ……確かに視聴者は0人ってなってるけど、俺が見てるから、実質1人なんだよね』

 何を言っているのかよくわからなかった。

『あとはそうだなぁ、俺は社会不適合者なわけで、人間のクズなんだわ、死ぬ勇気もなければ何か大きなことをする行動力もない。楽しいことなんて1つもなかった。だけどこのVチューバー活動だけは楽しいって思えてるわけよ、そんな楽しいことをやる。やり続ける。君の言う通り生産性や、やる必要なんてないかもしれない、やり続けることでマイナスを食うことだってあると思う。けど、それでもやり続けることができれば自分はただの社会不適合者ではないって言える気がすんだわ。まぁ結局エゴイズムというか自分の為にやってる感はあるよね』

 それが例え無駄なことであったとしても、やり続けることで自分はやったんだと、自分を誇れる。そう言われた気がした。

『その自分の為にやっていたことが、回り回って人の為になれば良いんだけどね。それが最終目標かな?その為にも、チャンネル登録宜しくお願いします!!』

 そこから私は彼のとりこになった。

◆ ◆ ◆ ◆

『は!?クイーンズ?無理じゃん!!オワタ……』

 エドヴァルド様はポーカー大会に向けて練習配信をしている。彼の配信している理由を思い出した私は彼に更なる尊敬の念を抱きながら、来週行われる椎名町45のライブに向けて早めの就寝を取ることにした。
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