133 / 185
第133話 勝敗の行方
しおりを挟む
~田中カナタ視点~
「ま、まさかの全員オールインによるショーダウン!!バカゲームと化してしまったぁぁぁ!!!」
詩音が横で独りごちる。
「俺もあの場でオールインしたかったな……」
パウラ 霧声 カミカ
♣️Q ♥️K ♦️A
♠️6 ♦️9 ♣️8
♣️A ♠️7 ♦️10
エドヴァルド 積飛
♦️J ♣️9
♥️7 ♦️8
「カミカさんが強い!次にエド君か!?獏もストレートのチャンスだ!!」
向こうの卓では悲鳴と期待の声で埋め尽くされていた。
『きゃぁぁぁ!!!』
『こい!!こい!!』
『来てぇぇぇぇ!!』
『ひぃぃぃぃぃ!!』
『あぁぁぁぁぁ!!』
〉うぉぉぉぉぉ!!
〉ひぇっ!!
〉熱すぎる!!
パウラ 霧声 カミカ
♣️Q ♥️K ♦️A
♠️6 ♦️9 ♣️8
♣️A ♠️7 ♦️10 ♦️Q
エドヴァルド 積飛
♦️J ♣️9
♥️7 ♦️8
「パウラちゃんがヒットした!!最後のカードは!!?勝敗の行方はどうなる!!?」
パウラ 霧声 カミカ
♣️Q ♥️K ♦️A
♠️6 ♦️9 ♣️8
♣️A ♠️7 ♦️10 ♦️Q ♥️Q
エドヴァルド 積飛
♦️J ♣️9
♥️7 ♦️8
『ぐわぁぁぁぁ!!』
『いやぁぁぁぁ!!』
『おぉぉぉぉぉ!!』
『あぁぁぁぁぁ!!』
『わぁ~~~~!!』
「か、勝ったのはQのスリーカード!パウラ・クレイだぁぁぁ!!!Aブロックを制したのは豪運天使!パウラ・クレイ!!!!」
〉わぁぁぁぁぁぁ!!!
〉激熱
〉さすが豪運天使……
〉うぉぉぉぉぉぉ!!!
──────────────────────────────────────────────────
~霧声麻未視点~
負けた。またパウラに負けた。いつもは苦々しい悔しさが私を襲うのだが、今回はそうではない。
負けたけど楽しかった。こんな感覚は初めてだった。
パウラは運だけの女だ。私は彼女のその大いなる運によって負けたのだ。しかし私も運が良いのかもしれない。この大会に出れたことや『ブルーナイツ』に入れたこと、それだけで一生分の運を使い果たしたのかもしれない。だけど、運が良いというのは自分が行動した結果ついてくるものだと今日のポーカー大会で思い知った。賭け続けることや弱い手でも勝負すること。何もせずにチャンスを伺っているだけじゃ運なんかついてこない。
私は今まで焦っていたのかもしれない。少額で勝負に参加しては降りたり、長期的に何かに賭け続けることはしていなかった。そのせいで勝手に敵を作るし、余裕もないし、良い結果なんて残せるわけもなかった。
反省をしていると、グループチャット内に司会の田中カナタさんと神楽坂君が加わった。
「あ、あ、あ~。皆さん聞こえますでしょうか?」
「聞こえます」
「聞こえるよ」
「聞こえてます!」
「え~皆さん、最後のオールイン合戦には痺れました。しかしこのAブロックを制したのはパウラ・クレイさんです!!おめでとうございます!!」
「おめでと~!!」
「おめでとうございます!!」
「おめでとう!」
「おめでとう!!」
私も小さな声で言う。
「おめでと……」
「ありがとうございますぅ~!!」
カナタさんが言った。
「え~、順位なんですけど、オールイン前の皆さんのスコアで決めたいと思います。なので2位は獏!3位がエド君!4位がカミカさん!5位が麻未さんで6位のクソザコが詩音ってことで決まりました!」
「クソザコってわざわざ言わなくても良いじゃないですか!!」
「黙れ雑魚!ってことで罰ゲームを決めるルーレットをパウラちゃん。回してください!」
あ、忘れてた。罰ゲームがあるんだった。
「はぁ~い!それではぁ、スタートッ!」
ルーレットが回る。別に罰ゲームになってしまっても構わない。寧ろ目立てるしチャンネル登録者数にも繋がる。
「決まりました!罰ゲームをして頂くのは~~、霧声麻未さんです!!」
「え~!!やなんですけどぉ!!」
敢えて大袈裟に嫌がってみた。続けて言う。
「ていうか、罰ゲームって何するんですか?」
「はい。それでは視聴者さん!麻未さんにして貰いたい罰ゲームをコメントに流してください!!どうぞ!!」
〉わさびシュークリーム
〉足ツボマッサージ
〉一発ギャグ
〉モノマネ
〉セクシーボイス
──ワサビや足ツボマッサージなんかは、事前に用意しなければできない。だとすればモノマネとかセクシーボイスとかになるか……
先程まで罰ゲームは逆においしいからやっても構わないと思っていたが、やりたくなくなってきた。
「え~、辛いやつと苦い系の食べ物はオフコラボじゃないので難しそうですね……おっ、これなんか良いんじゃないですか?」
「な、何ですか?」
「これこれ、初配信同時視聴」
「は?」
時が止まった。その後鳥肌がたった。
「ちょっ!ちょっと待ってください!!」
「あぁ、それ良いじゃん」
獏さんがニヤニヤした口調で言ったので、つい大きな声をだしてしまう。
「黙りなさい!ほ、本当にそれ以外ならなんでも良いんで…それだけは……本当にご勘弁ください……」
初配信。昔はVチューバーという業界も手探りであり、自分のキャラ設定をしっかりと守り、ロールプレイを行ってきた。当時は配信主体ではなく動画主体であった為に、自然な喋り方よりかは演技がかった喋り方をしていたりもする。
つまり、今の私と昔の私は全く別物で、その差が本当に黒歴史になるくらい恥ずかしいモノなのだ。
「ええ?でも皆求めてるよ?」
〉麻未さんの初配信w
〉見たい見たい!
〉初期声麻未w
「ルールにも書いてあるようにリスナーさんが決めることになってるから、初配信の同時視聴で決定!!」
「いやだぁぁぁぁぁぁ!!!お願いします!!パウラちゃぁぁぁん、1位の権限で違う罰ゲームにしてもらえませんかぁ?」
私は気付けば、自分の嫌いなパウラに助けを求めていた。
「えぇ~?寧ろこれ罰ゲームになりますかぁ?」
「ん?」
「だってぇ~、麻未先輩の初配信ってとっても初々しくて可愛いから罰ゲームにならないと思うんですよぉ。パウラ、麻未先輩の配信好きで全部のアーカイブ見てますから知ってるんです!」
恥ずかしさとパウラの意外な返答が私をカオスへと誘う。
──私の、配信が…好き?
獏さんがパウラに質問する。
「へぇ~、麻未さんの配信のどこら辺が好きなの?」
「なんだろう、初めの方が特に好きでぇ、Vチューバーになれたのが本当に嬉しいんだなっていうのが伝わってきてぇ、楽しそうにお話ししたりとかぁ、楽しそうにゲームをしているところがとっても可愛くて好きなんですよぉ」
「だってさ!麻未先輩」
「だ、だまりなさい!」
敵対していた私がバカみたいだった。それに、とっても嬉しかった。自分の行いを悔い改め、パウラにお礼を言おうとしたが、カナタさんが口を開く。
「よし、これで画面共有して……」
忘れてた。これからおぞましい映像が流れる。同時視聴者数はなんと12万人。
──あぁ、12万人の前で私は……
長い黒髪に毛先をピンク色に染めて、パッチリと目を見開いた霧声麻未が画面に写って、停止している。
──あ……あぁ……
「んじゃ、罰ゲームを執行します!」
カチッとクリック音が聞こえると、画面中央に停止していた私が動き出す。瞳の動きを確かめ、口の動きを確かめてからとうとう喋りだす。
『…ぁ……ぇっと。は、はじめましてぇ──』
猫なで声が私の鼓膜を刺激した。そして恥ずかしさというか虫酸が全身に走った。
「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!ちょっと待って!!一旦待って!!」
カナタさんは私の初配信動画を停止してから言った。
「ちょっと!聞こえないよ!!」
カミカさんが言った。
「今のって誰ですか?」
「私ですよ!!」
〉草
〉最高におもろい
〉別人やろ?
次にエドヴァルド君が言った。
「マジですか?途中で中の人代わったとかじゃないんですか?アニメの2期で声優代わる的な……」
「Vチューバーにそんなシステムねぇよ!!ちょっと待ってください!一旦気持ち落ち着かせてください……」
私は手を仰ぎ自分の紅潮した頬を冷ます。カナタさんは答えた。
「良いけど、次のBブロックも早くやりたいから──」
「わかってます!ちょっと待ってください……」
私はそう言うと深呼吸をした。
「……はい。どうぞ」
「じゃあちょっと巻き戻して……」
カチッ、と再びクリック音がした。
『…ぁ……ぇっと。は、はじめましてぇ。未来から来たバーチャル女子高生の霧声麻未ですぅッ……アハッ』
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ドンドンと両手で机を叩き、床を両足で踏み鳴らした。
「パウラちゃんの言う通り、可愛いですね」
カミカさんがそう言うと、神楽坂くんが言った。
「今じゃ見る影も──」
「オイ!!」
私がつっこむと過去の私がまた喋り出した。
『私、アイドルが大好きでぇ…、特に同じブルーナイツの先輩の愛梨ネル先輩!自分もいつかネル先輩のようになって、皆を笑顔にしていきたいって思ってます!』
甘えるような声が皆を笑顔にしていきたいと言った。そんな素敵な目標がいつの間にかチャンネル登録者の数に変わっていた。
──忘れていたんだ…とっても大切なその気持ちを……
昔の私は満面の笑みで、視聴者と今の私に語りかける。私は画面に写る昔の自分と、これまた画面に写る今の自分を見比べた。なんだか今の私は昔の私に比べて笑顔が少ない気がする。
──それもその筈、昔の私はVチューバーになれて本当に嬉しかったんだ。毎日が楽しくて、やること全てが新鮮で、本当に楽しかった。今は……
眩しい笑顔の昔の私から視線を逸らし、俯くと画面に写る今の私も俯いた。
それで私はハッとする。画面に写るもう1人の私もハッとした表情になった。
私は画面に写る私に触れた。
──私が俯けばこの子も俯く……
そして今度は笑ってみせた。すると画面に写る今の私も笑った。
──私が笑えばこの子も笑うんだ……
私は忘れていた。私はネル先輩のように皆を笑顔にする配信がしたかったのに。そんな想いがいつしか誰かと競い、争うことを目的としていたのだ。確かに長くVチューバー活動をするためには多くの人に求められていなければならない。それを私はチャンネル登録者の数だけで物語るようになってしまったのだ。
──誰かを楽しませるにはまず自分が、もう1人の私が楽しまなきゃいけないのに。ごめんね…もう1人の私……
その時、画面に写る霧声麻未の顔がはにかんだように見えた。
初期の霧声麻未は続ける。
『実は私、精神的に病んでしまったことが少し前にあって、薄暗い部屋でずっとうずくまっていたこともあったんです。でもですね!ネル先輩の配信を見て、私、とっても元気になれたんです!私も先輩みたいに誰かに笑顔を届ける、そんなVチューバーになりたいって思ったんです!!』
私の心に今まで居座っていた暗い闇に大きな光が射したような気がした。それはネル先輩の配信を見ていた時のように。私は今、もう1人の私によって笑顔がもたらされた。それは私の夢が私によって叶った瞬間だった。
「ま、まさかの全員オールインによるショーダウン!!バカゲームと化してしまったぁぁぁ!!!」
詩音が横で独りごちる。
「俺もあの場でオールインしたかったな……」
パウラ 霧声 カミカ
♣️Q ♥️K ♦️A
♠️6 ♦️9 ♣️8
♣️A ♠️7 ♦️10
エドヴァルド 積飛
♦️J ♣️9
♥️7 ♦️8
「カミカさんが強い!次にエド君か!?獏もストレートのチャンスだ!!」
向こうの卓では悲鳴と期待の声で埋め尽くされていた。
『きゃぁぁぁ!!!』
『こい!!こい!!』
『来てぇぇぇぇ!!』
『ひぃぃぃぃぃ!!』
『あぁぁぁぁぁ!!』
〉うぉぉぉぉぉ!!
〉ひぇっ!!
〉熱すぎる!!
パウラ 霧声 カミカ
♣️Q ♥️K ♦️A
♠️6 ♦️9 ♣️8
♣️A ♠️7 ♦️10 ♦️Q
エドヴァルド 積飛
♦️J ♣️9
♥️7 ♦️8
「パウラちゃんがヒットした!!最後のカードは!!?勝敗の行方はどうなる!!?」
パウラ 霧声 カミカ
♣️Q ♥️K ♦️A
♠️6 ♦️9 ♣️8
♣️A ♠️7 ♦️10 ♦️Q ♥️Q
エドヴァルド 積飛
♦️J ♣️9
♥️7 ♦️8
『ぐわぁぁぁぁ!!』
『いやぁぁぁぁ!!』
『おぉぉぉぉぉ!!』
『あぁぁぁぁぁ!!』
『わぁ~~~~!!』
「か、勝ったのはQのスリーカード!パウラ・クレイだぁぁぁ!!!Aブロックを制したのは豪運天使!パウラ・クレイ!!!!」
〉わぁぁぁぁぁぁ!!!
〉激熱
〉さすが豪運天使……
〉うぉぉぉぉぉぉ!!!
──────────────────────────────────────────────────
~霧声麻未視点~
負けた。またパウラに負けた。いつもは苦々しい悔しさが私を襲うのだが、今回はそうではない。
負けたけど楽しかった。こんな感覚は初めてだった。
パウラは運だけの女だ。私は彼女のその大いなる運によって負けたのだ。しかし私も運が良いのかもしれない。この大会に出れたことや『ブルーナイツ』に入れたこと、それだけで一生分の運を使い果たしたのかもしれない。だけど、運が良いというのは自分が行動した結果ついてくるものだと今日のポーカー大会で思い知った。賭け続けることや弱い手でも勝負すること。何もせずにチャンスを伺っているだけじゃ運なんかついてこない。
私は今まで焦っていたのかもしれない。少額で勝負に参加しては降りたり、長期的に何かに賭け続けることはしていなかった。そのせいで勝手に敵を作るし、余裕もないし、良い結果なんて残せるわけもなかった。
反省をしていると、グループチャット内に司会の田中カナタさんと神楽坂君が加わった。
「あ、あ、あ~。皆さん聞こえますでしょうか?」
「聞こえます」
「聞こえるよ」
「聞こえてます!」
「え~皆さん、最後のオールイン合戦には痺れました。しかしこのAブロックを制したのはパウラ・クレイさんです!!おめでとうございます!!」
「おめでと~!!」
「おめでとうございます!!」
「おめでとう!」
「おめでとう!!」
私も小さな声で言う。
「おめでと……」
「ありがとうございますぅ~!!」
カナタさんが言った。
「え~、順位なんですけど、オールイン前の皆さんのスコアで決めたいと思います。なので2位は獏!3位がエド君!4位がカミカさん!5位が麻未さんで6位のクソザコが詩音ってことで決まりました!」
「クソザコってわざわざ言わなくても良いじゃないですか!!」
「黙れ雑魚!ってことで罰ゲームを決めるルーレットをパウラちゃん。回してください!」
あ、忘れてた。罰ゲームがあるんだった。
「はぁ~い!それではぁ、スタートッ!」
ルーレットが回る。別に罰ゲームになってしまっても構わない。寧ろ目立てるしチャンネル登録者数にも繋がる。
「決まりました!罰ゲームをして頂くのは~~、霧声麻未さんです!!」
「え~!!やなんですけどぉ!!」
敢えて大袈裟に嫌がってみた。続けて言う。
「ていうか、罰ゲームって何するんですか?」
「はい。それでは視聴者さん!麻未さんにして貰いたい罰ゲームをコメントに流してください!!どうぞ!!」
〉わさびシュークリーム
〉足ツボマッサージ
〉一発ギャグ
〉モノマネ
〉セクシーボイス
──ワサビや足ツボマッサージなんかは、事前に用意しなければできない。だとすればモノマネとかセクシーボイスとかになるか……
先程まで罰ゲームは逆においしいからやっても構わないと思っていたが、やりたくなくなってきた。
「え~、辛いやつと苦い系の食べ物はオフコラボじゃないので難しそうですね……おっ、これなんか良いんじゃないですか?」
「な、何ですか?」
「これこれ、初配信同時視聴」
「は?」
時が止まった。その後鳥肌がたった。
「ちょっ!ちょっと待ってください!!」
「あぁ、それ良いじゃん」
獏さんがニヤニヤした口調で言ったので、つい大きな声をだしてしまう。
「黙りなさい!ほ、本当にそれ以外ならなんでも良いんで…それだけは……本当にご勘弁ください……」
初配信。昔はVチューバーという業界も手探りであり、自分のキャラ設定をしっかりと守り、ロールプレイを行ってきた。当時は配信主体ではなく動画主体であった為に、自然な喋り方よりかは演技がかった喋り方をしていたりもする。
つまり、今の私と昔の私は全く別物で、その差が本当に黒歴史になるくらい恥ずかしいモノなのだ。
「ええ?でも皆求めてるよ?」
〉麻未さんの初配信w
〉見たい見たい!
〉初期声麻未w
「ルールにも書いてあるようにリスナーさんが決めることになってるから、初配信の同時視聴で決定!!」
「いやだぁぁぁぁぁぁ!!!お願いします!!パウラちゃぁぁぁん、1位の権限で違う罰ゲームにしてもらえませんかぁ?」
私は気付けば、自分の嫌いなパウラに助けを求めていた。
「えぇ~?寧ろこれ罰ゲームになりますかぁ?」
「ん?」
「だってぇ~、麻未先輩の初配信ってとっても初々しくて可愛いから罰ゲームにならないと思うんですよぉ。パウラ、麻未先輩の配信好きで全部のアーカイブ見てますから知ってるんです!」
恥ずかしさとパウラの意外な返答が私をカオスへと誘う。
──私の、配信が…好き?
獏さんがパウラに質問する。
「へぇ~、麻未さんの配信のどこら辺が好きなの?」
「なんだろう、初めの方が特に好きでぇ、Vチューバーになれたのが本当に嬉しいんだなっていうのが伝わってきてぇ、楽しそうにお話ししたりとかぁ、楽しそうにゲームをしているところがとっても可愛くて好きなんですよぉ」
「だってさ!麻未先輩」
「だ、だまりなさい!」
敵対していた私がバカみたいだった。それに、とっても嬉しかった。自分の行いを悔い改め、パウラにお礼を言おうとしたが、カナタさんが口を開く。
「よし、これで画面共有して……」
忘れてた。これからおぞましい映像が流れる。同時視聴者数はなんと12万人。
──あぁ、12万人の前で私は……
長い黒髪に毛先をピンク色に染めて、パッチリと目を見開いた霧声麻未が画面に写って、停止している。
──あ……あぁ……
「んじゃ、罰ゲームを執行します!」
カチッとクリック音が聞こえると、画面中央に停止していた私が動き出す。瞳の動きを確かめ、口の動きを確かめてからとうとう喋りだす。
『…ぁ……ぇっと。は、はじめましてぇ──』
猫なで声が私の鼓膜を刺激した。そして恥ずかしさというか虫酸が全身に走った。
「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!ちょっと待って!!一旦待って!!」
カナタさんは私の初配信動画を停止してから言った。
「ちょっと!聞こえないよ!!」
カミカさんが言った。
「今のって誰ですか?」
「私ですよ!!」
〉草
〉最高におもろい
〉別人やろ?
次にエドヴァルド君が言った。
「マジですか?途中で中の人代わったとかじゃないんですか?アニメの2期で声優代わる的な……」
「Vチューバーにそんなシステムねぇよ!!ちょっと待ってください!一旦気持ち落ち着かせてください……」
私は手を仰ぎ自分の紅潮した頬を冷ます。カナタさんは答えた。
「良いけど、次のBブロックも早くやりたいから──」
「わかってます!ちょっと待ってください……」
私はそう言うと深呼吸をした。
「……はい。どうぞ」
「じゃあちょっと巻き戻して……」
カチッ、と再びクリック音がした。
『…ぁ……ぇっと。は、はじめましてぇ。未来から来たバーチャル女子高生の霧声麻未ですぅッ……アハッ』
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ドンドンと両手で机を叩き、床を両足で踏み鳴らした。
「パウラちゃんの言う通り、可愛いですね」
カミカさんがそう言うと、神楽坂くんが言った。
「今じゃ見る影も──」
「オイ!!」
私がつっこむと過去の私がまた喋り出した。
『私、アイドルが大好きでぇ…、特に同じブルーナイツの先輩の愛梨ネル先輩!自分もいつかネル先輩のようになって、皆を笑顔にしていきたいって思ってます!』
甘えるような声が皆を笑顔にしていきたいと言った。そんな素敵な目標がいつの間にかチャンネル登録者の数に変わっていた。
──忘れていたんだ…とっても大切なその気持ちを……
昔の私は満面の笑みで、視聴者と今の私に語りかける。私は画面に写る昔の自分と、これまた画面に写る今の自分を見比べた。なんだか今の私は昔の私に比べて笑顔が少ない気がする。
──それもその筈、昔の私はVチューバーになれて本当に嬉しかったんだ。毎日が楽しくて、やること全てが新鮮で、本当に楽しかった。今は……
眩しい笑顔の昔の私から視線を逸らし、俯くと画面に写る今の私も俯いた。
それで私はハッとする。画面に写るもう1人の私もハッとした表情になった。
私は画面に写る私に触れた。
──私が俯けばこの子も俯く……
そして今度は笑ってみせた。すると画面に写る今の私も笑った。
──私が笑えばこの子も笑うんだ……
私は忘れていた。私はネル先輩のように皆を笑顔にする配信がしたかったのに。そんな想いがいつしか誰かと競い、争うことを目的としていたのだ。確かに長くVチューバー活動をするためには多くの人に求められていなければならない。それを私はチャンネル登録者の数だけで物語るようになってしまったのだ。
──誰かを楽しませるにはまず自分が、もう1人の私が楽しまなきゃいけないのに。ごめんね…もう1人の私……
その時、画面に写る霧声麻未の顔がはにかんだように見えた。
初期の霧声麻未は続ける。
『実は私、精神的に病んでしまったことが少し前にあって、薄暗い部屋でずっとうずくまっていたこともあったんです。でもですね!ネル先輩の配信を見て、私、とっても元気になれたんです!私も先輩みたいに誰かに笑顔を届ける、そんなVチューバーになりたいって思ったんです!!』
私の心に今まで居座っていた暗い闇に大きな光が射したような気がした。それはネル先輩の配信を見ていた時のように。私は今、もう1人の私によって笑顔がもたらされた。それは私の夢が私によって叶った瞬間だった。
1
あなたにおすすめの小説
クラスでバカにされてるオタクなぼくが、気づいたら不良たちから崇拝されててガクブル
諏訪錦
青春
アルファポリスから書籍版が発売中です。皆様よろしくお願いいたします!
6月中旬予定で、『クラスでバカにされてるオタクなぼくが、気づいたら不良たちから崇拝されててガクブル』のタイトルで文庫化いたします。よろしくお願いいたします!
間久辺比佐志(まくべひさし)。自他共に認めるオタク。ひょんなことから不良たちに目をつけられた主人公は、オタクが高じて身に付いた絵のスキルを用いて、グラフィティライターとして不良界に関わりを持つようになる。
グラフィティとは、街中にスプレーインクなどで描かれた落書きのことを指し、不良文化の一つとしての認識が強いグラフィティに最初は戸惑いながらも、主人公はその魅力にとりつかれていく。
グラフィティを通じてアンダーグラウンドな世界に身を投じることになる主人公は、やがて夜の街の代名詞とまで言われる存在になっていく。主人公の身に、果たしてこの先なにが待ち構えているのだろうか。
書籍化に伴い設定をいくつか変更しております。
一例 チーム『スペクター』
↓
チーム『マサムネ』
※イラスト頂きました。夕凪様より。
http://15452.mitemin.net/i192768/
【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。
東野あさひ
恋愛
「好きって言ってないのに、なんでバレてるんだよ!?」
──平凡な男子高校生・真嶋蒼汰の一言から、すべての誤解が始まった。
購買で「好きなパンは?」と聞かれ、「好きです!」と答えただけ。
それなのにStarChat(学園SNS)では“告白事件”として炎上、
いつの間にか“七瀬ひよりと両想い”扱いに!?
否定しても、弁解しても、誤解はどんどん拡散。
気づけば――“誤解”が、少しずつ“恋”に変わっていく。
ツンデレ男子×天然ヒロインが織りなす、SNS時代の爆笑すれ違いラブコメ!
最後は笑って、ちょっと泣ける。
#誤解が本当の恋になる瞬間、あなたもきっとトレンド入り。
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
隣の席のクールな銀髪美少女、俺にだけデレるどころか未来の嫁だと宣言してきた
夏見ナイ
恋愛
平凡な高校生、相沢優斗。彼の隣の席は『氷の女王』と噂のクールな銀髪美少女、雪城冬花。住む世界が違うと思っていたが、ある日彼女から「私はあなたの未来の妻です」と衝撃の告白を受ける。
その日から、学校では鉄壁の彼女が、二人きりになると「未来では当然です」と腕を組み、手作り弁当で「あーん」を迫る超絶甘々なデレモードに!
戸惑いながらも、彼女の献身的なアプローチに心惹かれていく優斗。これは未来で結ばれる運命の二人が、最高の未来を掴むため、最高の恋をする糖度MAXの青春ラブコメディ。
俺をフッた幼馴染が、トップアイドルになって「もう一度やり直したい」と言ってきた
夏見ナイ
恋愛
平凡な大学生・藤堂蓮には忘れられない過去がある。高校時代、告白した幼馴染の星宮瑠奈に「アイドルになるから」とこっ酷くフラれたことだ。
数年後、瑠奈は国民的アイドル『LUNA』として輝いていた。遠い世界の住人になった彼女との再会なんて、あるはずもなかった――そう、変装した彼女が俺の前に現れ、「もう一度やり直したい」と泣きつくまでは。
トップアイドルの立場を使い強引に迫る元幼馴染と、過去の傷。揺れ動く俺の日常を照らしてくれたのは、俺の才能を信じてくれる後輩・朝霧陽葵の存在だった。
俺をフッた幼馴染か、俺を支える後輩か。過去の清算と未来の選択を描く、ほろ苦くも甘い、逆転ラブコメディ、開幕。
昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件
マサタカ
青春
俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。
あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。
そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。
「久しぶりですね、兄さん」
義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。
ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。
「矯正します」
「それがなにか関係あります? 今のあなたと」
冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。
今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人?
ノベルアッププラスでも公開。
小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!
竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」
俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。
彼女の名前は下野ルカ。
幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。
俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。
だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている!
堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!
イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について
のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。
だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。
「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」
ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。
だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。
その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!?
仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、
「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」
「中の人、彼氏か?」
視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!?
しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して――
同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!?
「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」
代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる