【完結】人前で話せない陰キャな僕がVtuberを始めた結果、クラスにいる国民的美少女のアイドルにガチ恋されてた件

中島健一

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第185話 おまたせ

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~音咲華多莉視点~

 織原は私のスマホで配信を終え、交番に出頭した。

 あれから幾日か経ち、保護責任者遺棄致死罪?死体遺棄罪?どちらかだったがこれが織原朔真の罪状であった。しかし彼の境遇と責任能力の有無が問われ、情状酌量の余地ありとして保護観察処分となった。弁護士には愛美ちゃんのお母さんが自ら買って出たそうだ。また、織原を刺した3年生の生徒は暴行罪、及び現住建造物等放火罪により逮捕された。傷害罪にならなかったのは、その生徒が包丁を振り回していただけであり、織原だけが怪我を負ったからである。そしてその織原が起訴をしなかったのだ。しかし放火による罪は重い。生徒はその罪をしっかりと受け止め、反省の色を示しているとのことだ。

 あぁ、あと私は私で、京極さんを訴える手筈を整えてはいたものの証拠不十分になる可能性が高いため、司法の力ではなく、スポンサーの力──主にお父さんの力──で彼を芸能界から秘密裏に追放する動きになっている。

 現在、私は織原を待っている。まだ付き合ってはいない。彼曰く、人生は何が起こるかわからないから、そうやって私を縛りたくないとのことだ。人の目を気にしたネガティブでクラスの目立たない男の子のように言う織原に、人生は何が起こるかわからないのなら、私と付き合って、物事が好転するかもしれないじゃない?と返すと、彼は困った様にはにかみながら、そうかもしれないな、とエドヴァルド様のように私を魅了しながら誤魔化した。私は織原と会話する度に、赤面し、込み上げる想いに目を見張り、それを織原に悟られないように視線をそらす。たまに織原のことを織原様と言ってしまうこともある。

 感謝を告げたいけど恥ずかしくて言えない。好きだともっと言いたいけど、しつこいと思われるのが恐くて言えない。織原の中にエドヴァルド様がいるように、私の中にもたくさんの私がいる。

 結局、織原は保護観察が終わるまで、そして私が椎名町45を卒業するまではそういう関係性でいたくないと言った。

 だから私は彼を待っている。彼の帰れる場所を作って。

 ここは初めて織原と出会った場所、私のことをトラックから救ってくれた思い出の場所だ。私はきちんと左右を、トラックや車等が来ていないかを確かめて、そこを渡った。

 今思えば私は彼に何もしてあげられていない気がする。織原はエドヴァルド様となって配信している時や病院から抜け出す時、あとは体育館裏で木の影から先生の前へ私が出た時──これを引き合いに出されるとなんだか恥ずかしい──等、十分して貰ったと言っていたが、私の気持ちがおさまらない。

 これからたくさんしていこう。私達は弱い、弱さを知っている。だからお互いに優しくなれる。支え合える。

 私は後ろ振り返り、さっき渡った思い出の十字路を見る。大型のトラックがあの時の軽トラックのように通り過ぎるのが見えた。大型トラックが通りすぎると横断歩道の向こう側にはエドヴァルド様の髪型をした織原朔真が立っていた。流石に髪色は黒だけれども。

 私は手招きし、彼を急がせて、来るのを待った。

 ──ううん……

 待っているのは、きっと私だけじゃない。

 みんなが、あなたを待っている。

──────────────────────────────────────────────────

 オレンジ色の髪。額付近の前髪を生え際までふんわりと立ち上げ、サイドに流した髪型。挑発するような奥二重の目が正面を見てから、目が動くのを確認するかのようにぐるりと目玉を動かした。そして魅惑的な唇が動く。

『あ、あ~。皆さん聞こえますか?おまたせ!待った?エドヴァルド・ブレインです』

 そっと喋っているように聞こえるが、それでいてどっしりとした耳に残る低音が今日も響き渡る。



                   〈了〉




────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────



~あとがき~

 人前で話せない陰キャな僕がVtuberを始めた結果、クラスにいる国民的美少女のアイドルにガチ恋されてた件、を読んで頂き誠にありがとうございました!

 あとがきと言いつつも、この物語で何を伝えたかったのかを記していこうと思います。読後感をぶち壊す可能性もありますので、ご了承ください。

 この物語は人間の持つ多面的な側面を表現しております。しかしここでいう多面的とはどういう意味か、1つは善と悪です。他には親達が最善だという将来設計を全うしたい自分とそこから逸脱したい自分であったり、何かをしたい自分と失敗を恐れて何もしたくない自分等が挙げられるかと思います。

 最初に挙げた善と悪が大枠のテーマとしてあります。

 無敵の人、という言葉を聞いたことがある人もいると思います。僕はこの無敵の人の気持ちが何となく理解できるのです。社会からあぶれて、自分の居場所がない。両親と不和が生じ、社会からも笑い者にされた経験が僕にはあります。今でも人の目を見て話せなかったりします。

 そんな僕が更に追い込まれれば、社会に対して反旗を翻す可能性が、心のどこかで芽生えてしまってもおかしくない。しかし僕やこの物語ではそう言った怒りや悲しみを、誰かに危害を加えるサディズム的な行動で示すことを肯定しておりません。

 そうではなく、その怒りや悲しみを絵や歌、物語等の芸術活動で表現すべきだと、訴えているつもりです。

 その代表格が──僕が勝手に思っているのですが──画家のエドヴァルド・ムンクです。主人公、織原朔真の操るエドヴァルドの名前の由来です。またムンクの作品には『吸血鬼』という絵があったりします。忘れている人も多いかと思われますが、エドヴァルド・ブレインは吸血鬼という設定です。それとムンクの作品は全部で約4万2000点あると言われております。それがエドヴァルド・ブレインの年齢設定にもなっております。

 他にも、『地獄の自画像』『赤い蔦』『メランコリー』『生命のダンス』『太陽』『叫び』『緑色の部屋』『絶望』『不安』というムンクの作品名をこの物語に散りばめていたりします。

 また無敵の人を、人として不良品であると評したのがダウンタウンの松本人志さんでした。ワイドナショーというテレビ番組でそのことについて言及しております。結構強烈な言葉で、それに同調する人もいれば、厳しく非難する人もいました。

 僕の立場では非難まではいかないにしても、自分もそうなってしまう可能性があると意識せざるを得ませんでした。そしてその松本さんの言葉とは対照的に爆笑問題の太田光さんは、自分達の周りに無敵の人になってしまうような人がきっといる筈だ。その人達の為に何かできることがあるんじゃないかと訴えておりました。(うろ覚えです)

 しかし日々を忙しなく過ごしている僕達が一体どうやって彼等の助けを求める声を聞けば良いのかという疑問が出てきます。

 僕が思うに、精神的に辛くなった時、悲しい出来事に直面した時、もうダメだって思った時、その時に何か絵や歌や、写真、小説でそれを表現する。ないしは、その感情を抱いた状態でゲーム実況やエックスのスペース、インスタグラムに画像をあげたり、僕の場合は小説ですね。そうやって発信することで誰かが共感してくれるかもしれないし、助けてくれる人が現れるかもしれない。或いは自分で作った作品に自分が勇気付けられるかもしれないし、ストレスの解消にもなるかもしれない。そして自分の作った何かに触発されて誰かが同じように創作活動をしてそれをまた誰かが受け継いで、回り回って、自分の為になるのかもしれない。この物語全体を通して表現したかったことでもあります。

 またラストの火事の描写は、序盤からそれとなく描いておりました。炎上やSNSのトレンドのワード、グラウンドカートで火の玉を受けるとか、アーペックスのエリアを狭める炎とか、生徒会室の椅子に座ると呪われて火事が起きるとか、朔真の家を燃やそうと決めたのは、ホロライブの大空スバルさんの実体験が元ネタになっていたりします。

 そしてこういった創作活動をしていると、批判や誹謗中傷等がつきものです。僕は批判的な強い言葉を投げる人の気持ちもやはり理解できます。時間をかけて読んだ小説が自分の想像していた内容ではないことに怒りを覚えることだってあると思います。しかし誰かが傷付くような言葉で伝えるのではなく、自分の思ったことを自分の創作物にぶつけるべきだと思っていたりします。

 これはあくまで僕の主張です。現実の世界で批判や罵詈雑言を吐かれることがたくさんあるかと思われます。

 そこで批判的な言葉を投げ付けられたり、創作活動を禁じられた画家達をモチーフにしたキャラクターを登場させました。

 エドヴァルドの名前の元ネタがムンクであることは冒頭に言いましたが、同じく第二次世界大戦中に創作活動を禁じられたドイツ表現主義の画家たちのグループがありました。そのグループ名が青騎士といって、この物語ではブルーナイツというVtuber事務所の名前として使っております。そしてそこに所属するメンバーの名前をアナグラムにしたり、少し付け足したりしてキャラ名を決定しました。

薙鬼流ひなみ  キルヒナー

伊手野エミル  エミール・ノルデ

パウラ・クレイ パウル・クレー

マリア     マリアンネ 

加布里ミュン  ガブリエル・ミュンター

来茉蘭     フランツ・マルク

鷲見カンナ  ヴァシリー・カンディンスキー(鷲見カンナのファンネームをカンナスキーにしてカンディンスキーに近付けてたり……)

 みたいな感じです。彼等、彼女等の精神をリスペクトしながら、これからも創作活動を細々とやっていく所存です。

 あとがきの方が185話の本編より長くなってしまいましたが、これでこの物語は完結です。皆様の読む行為、そのものが僕に生きる活力を与えてくれます。60万字近い長い長い物語を最後まで読んで頂き誠にありがとうございました。
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