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第一章
第12話 大量の戦蜂
しおりを挟むルナの家へ行った翌日、俺たちは今日も依頼を受けるべくギルドに集合していた。昨日のこともあったので少しルナのことを心配していたが、会った際にルナがいつも通りの元気な様子だったのでとりあえずは安心した。
「オルタナさん、今日はどの依頼を受けますか?」
基本的にルナは依頼の選択を俺に任せているようでどんな依頼でも頑張ります!みたいな表情だ。俺を全面的に信頼してくれているのか、あるいは自己評価が低いからなのか。おそらく後者の可能性の方が高いだろうな。
まあそれはさておき、俺はすでに選んでおいた依頼書をルナに手渡した。実は今日、行きたい場所があったのでその場所に近いところで出来る依頼を集合時間の少し前に来て選んでおいたのだ。
「先に選んでおいたんだが、今日はこの依頼で問題ないか?」
「難易度A:バトルビーの群れおよび巣の駆除、ですか。いいですね!了解しました!」
「では依頼の受領をしてもらおうか」
そうして二人で受付で依頼を受領してもらって早速出発した。
今回ももちろん魔道車で依頼の場所へと向かう。
今回の依頼場所は昨日よりも少し近いこともあり、魔道車で30分も経たないうちに依頼主のいるキーピン村に到着した。
村に到着して早速、依頼主である村長の家に向かい話を聞いてみた。
どうやら最近、この村の近くにある森のどこかでバトルビーの巣が出来てしまったようで花の蜜を求めて村へと頻繁にバトルビーがやってくるようになってしまったとのこと。
バトルビーはとても好戦的な蜂の魔物で全長が平均1mほどの大きな体を持ち、大きな羽根を高速で羽ばたかせてとても素早い動きで襲ってくる。そして彼らの尻には強力な毒を含んだ毒針があり、刺されれば激痛で悶え苦しみながらやがて死に至る。
そんな彼らの主食は普通の蜂と同じく花の蜜で、綺麗な花畑があるこのキーピン村というのは彼らにとって絶好の餌場なのだ。
これまでに数人の村人が奴らの犠牲となっており、今や村人は不用意に外へと出ることもままならない状況なのだそうだ。
話を聞き終えた俺たちは村長の家を後にしてすぐに行動に移すことにした。これ以上の被害者が出ないうちに早めに処理しなければならない。
「まずはやつらの巣の位置を特定しないとだな」
「それなら私に任せてください!!」
自信満々にそう答えるルナに俺は巣の特定を任せることにした。するとルナは自身に透明化魔法を使用して透明状態で森の方へと向かっていった。
まあ彼女なら人で危険なことをするとは思えないので心配する必要はないとは思うが、万が一の時のために彼女の位置くらいは探知魔法で確認しておく。
そして十数分後、ルナが無事に俺の元へと帰ってきた。
見たところ特に怪我などはしていないようだ。
「オルタナさん、巣の位置が分かりました!」
話によればルナはバトルビーを一匹見つけ、その個体に支援魔法の要領でバトルビーに気づかれないように薄く彼女の魔力でマーキングをしたのだそうだ。そして他にも数匹ほど同じことをしてそいつらの動向を探ったのだそうだ。
そうしてしばらく待っていると彼らに施したマーキングがとある一か所へと集まっていったのを確認したのだそうだ。そしてルナがその場所の近くまで確認しに行ったところ、そこにやつらの巣があったらしい。
「では、早速バトルビーの群れと巣の駆除といこうか」
「はい!」
そうして俺たちはルナの案内の元、バトルビーの巣へと向かって走り出した。もちろん気づかれないように二人とも透明化魔法で透明化した状態だ。
村からおよそ5分ほどの距離に森があり、さらにその森に入っておよそ10分ほど進んだところにルナが見つけたバトルビーの巣があった。
バトルビーの巣は周囲よりも一際大きな木の上に作られていた。大きさは目視で少なくとも直径20m以上はあるとても大きなものであった。おそらく村でバトルビーの被害が出るかなり前からここで巣を作っていたのだろう。
当たり前ではあるが巣がある木の周辺には大量のバトルビーが飛び交っており、周囲にはやつらの羽音が響き渡っていた。正直、虫が嫌いでなくてもこの場所はとても不快に感じる。
「オルタナさん、どうやって倒しますか?」
巣から少し離れた茂みに隠れて様子を伺っていた俺に隣で共に息をひそめているルナが問いかける。どうやらルナは虫が特に苦手ということはなさそうである。まあ無理ならこの依頼を受ける前に言ってるか。
「そうだな、今のままだとバトルビーがいろんな所に散らばっているのが少し厄介だ。だからまずは俺がゴーレムを作って巣を攻撃させてすべてのバトルビーの意識をゴーレムに向けさせる。そしてゴーレムに群がってきたところを一網打尽にする。ルナはゴーレムにヘイトが向くように支援してくれ」
「了解しました」
そうして俺たちは透明状態を維持したまま戦闘を開始する。
「クリエイトゴーレム」
俺はバトルビーの巣の目の前に土魔法で鋼鉄のゴーレムを生み出す。このゴーレムは今の俺の体とは違って複雑な構造をしておらず単純な性能のみで動くものだ。
このゴーレムは攻撃力よりも耐久性能を重視して頑丈に生み出したので、バトルビーの厄介な針での攻撃も無傷で耐えるだろう。
「ヘイトアテンション」
するとルナが俺の作り出したゴーレムにヘイトを集中させる魔法を付与した。すると巣の周囲にいたバトルビーが一気にそのゴーレムへと集まり攻撃を開始した。
物凄い数のバトルビーが至る所からそのゴーレムへと群がっていき、一瞬でゴーレムは文字通りのハチの巣にされてしまった。だがしかし、俺のゴーレムはその猛攻をもろともせずゆっくりとバトルビーの巣へと近づいていく。
巣へ近づくごとに巣からも大量のバトルビーがゴーレムへと押し寄せて来た。あれが生身の人間だったらと思うと少しぞっとするが、ゴーレムは少しずつさらにヘイトを集めながら巣へと近づいていく。
そうしてゴーレムが巣の真下に辿り着いたころには全てのバトルビーが集まってきたのか、新たにやって来る個体はいなくなっていた。
「ルナ、ゴーレムとそれに群がっているバトルビー、それに巣のある木を簡易結界で囲めるか?」
「その範囲だと少し構築に時間が必要なので20秒ほど頂ければできると思います」
「了解した。では頼む」
ルナは俺の頼みで簡易結界を構築するために詠唱を始める。本来結界というのはある法則に則った方陣を描き、そこに魔力を流し込むことによってある一定の範囲に効果を及ぼす魔法を発動するものである。
だが今回の簡易結界は魔法効果や強度などかなり劣化してしまうが方陣を描かなくても一時的に魔力で疑似方陣を作り出して結界を展開するという技術である。
これも高等技術なのでもしルナが出来なければ俺が展開するつもりだったが、20秒かかっても展開できるなら上々だろう。ここは彼女に任せることにした。
そして俺はその間にとある魔法を発動させておくことにする。
ゴーレムが時間を稼ぎ、ついに20秒が経過した。宣言通り、ルナは簡易結界を発動することに成功した。
「オルタナさん、出来ました...!」
「上出来だ。そのまま維持を頼む」
ちゃんと指定通りの大きさで構築された簡易結界は全てのバトルビーをその範囲内に収めていた。これならとてもやりやすい...!
「デス・サイクロン!」
俺はルナの構築した簡易結界の中に風属性の上位魔法『デス・サイクロン』で全てを切り裂く嵐を引き起こした。
荒れ狂う風刃の嵐は中のバトルビーたちを次々と切り刻んでいき、あれだけの群れをゴーレム共々一瞬にして粉々にしてしまった。それに巣があった大樹も葉や枝が見るも無残に切り刻まれ、禿げた大樹は根すらも切断されて地面に倒れた。
「やりましたね...!」
ルナは俺の魔法で巣もろとも全てのバトルビーが討伐されたのを確認して喜びの声を上げる。俺も探知魔法で周囲を確認し、生き残りの個体がいないことを確認した。
「ルナ、お疲れ様」
するとルナは肩の力を抜いて大きく息を吐く。俺は彼女が想像以上に素晴らしい簡易結界を展開する技術を持っていたことに素直に驚いていた。
結界内部で上位の風魔法を放ったのにもかかわらず、途中で壊れてしまったがしばらくの間結界を保っていたのはかなり凄い。相当な集中力と魔力制御の練度がなければあれだけの威力の魔法を一定時間でも耐えることは出来ない。
やはり彼女は魔法の才能がある。
俺は昨日感じていた可能性が強い確信へと変わった。
正直、これから彼女がどれだけ伸びていくのか少し興味が湧いてきた。
「お、オルタナさん!あれ見てください!!」
すると突然ルナが大声である方向を指差す。俺はすぐにその方向へと視線を向けるとそこには地面に転がる無傷のバトルビーの巣があった。
「バトルビーの巣が、まだ壊れていません...!」
すぐさまルナが戦闘態勢に入る。
一方で俺はそれを見て何食わぬ顔で告げる。
「あー、あれは俺が防御魔法で守ったからな。無傷なのはそのせいだ」
「えっ?!どうしてですか?」
俺はルナの質問に答えるためにゆっくりと地面に転がっている巣へと近づいていく。そして巣から流れ出ている謎の粘性液体を指ですくい取ってる根へと見せる。
「バトルビーの集めるは蜂蜜を採取するためだ」
「蜂蜜、ですか?でもそれは毒だと聞いたことがありますけど...」
「ああ、この蜂蜜は普通に人が食べれば毒だ。だがな特殊な方法で毒となる成分を取り出せば薬の材料にもスイーツの材料にもなるんだ」
そう、バトルビーの巣に蓄えられた蜂蜜は一般的には毒があるといわれている。実はその原因というのが細菌である。この世界では細菌や病原菌などの微生物というのはあまり知られていないのだが、この蜂蜜には人に害をなす細菌が含まれているのだ。
その影響でこの蜂蜜を食べた人が毒にあたったかのように次々と体調を崩していってしまうことから蜂蜜自体に毒があると言われるようになったのだ。
前世では乳幼児に蜂蜜を食べさせると毒であると言われていたが、この世界ではどうやら成人だったとしてもこの蜂蜜に含まれる細菌は猛威を振るってしまうようで絶対に殺菌処理が必要なのだ。
だが幸いにもこの世界には魔法という便利なものがあり、俺が王都の学園にいたころに開発した殺菌魔法を使ってやれば無毒な美味しい蜂蜜として食することが出来るのだ。
ちなみに俺の開発した殺菌魔法は細菌や病原菌などの概念があまり広まっていないこの世界において全く評価されることのない無用な魔法だと言われてしまったことがある。まあ時代を先取りしすぎた魔法であると俺も思う。
「蜂蜜が薬やスイーツに...あっ!それよりも巣の中にはバトルビー・クイーンが!!」
「それなら君が簡易結界を構築してくれた段階で俺が空間魔法で巣の中にいた魔力反応を全部巣の外に転移させておいたから、先ほどの魔法でもう討伐しているはずだ」
「えっ...」
ルナは戦闘態勢のまま驚いて口をポカーンと開けていた。確かに先にルナには伝えておいたほうが良かったなと少し反省する。今までパーティで活動していなかったので俺もまだ仲間がいるという勝手があまり分かっていないところがある。
自身の反省点を把握しつつ、俺は蜂蜜たっぷりのバトルビーの巣を収納魔法に収める。特に蜂蜜は鮮度を気にする必要はあまりないが、気持ち的に鮮度がいい方がいいだろう。
今回の依頼は巣の一部とバトルビーの毒針を持って帰れば依頼証明となるのであたりに散らばっているバトルビーの死骸からいくつか毒針も回収しておく。
こうして俺たちは依頼を達成し、欲しい物の一つ目が手に入った。そしてさらにもう一つ欲しいものがあるのだが、それは実はあの村にあると聞いている。
「さて、村に戻って村長に報告しようか」
「はい!」
必要素材を回収し終えて俺たちはキーピン村へと向かって歩き始めた。
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