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番外編(馨)ラブなレター
しおりを挟む「凪、お疲れ」
「お疲れ様」
試合を終えたばかりの馨はシャワーを浴び、疲れた体をソファに沈め深く息を吐いた。
部屋の静けさに耳が慣れるよりも早く、馨はパソコンを立ち上げ、恋人用に購入した大きなモニターに接続する。テレビ通話かけた。
そこに浮かび上がる映像は、世界のどこにいても唯一、馨を安堵させるもの凪の姿だ。
中学時代からずっと思い続け、20歳になった今ようやく自分のものにできた大切な恋人。
画面越しに凪の顔が現れた瞬間、馨の表情は柔らかくほどける。
凪は自分に自信がなく、アメリカにはもっと魅力的な人が溢れていると考え、不安を募らせている。しかし馨にとっては、他の誰も目に入らない。いや、入る余裕すらないほど凪に溺れていた。
現に今日も、チームの打ち上げを断ってまでこうして画面の前に座っているのだから。そのことは凪には話していない。
「そっちは夕方くらい?」
「うん、そうだよ」
ほんの短いやり取りさえ、馨には愛おしい。
試合や遠征で各国を飛び回る生活のため、母国にはなかなか帰れない。
凪とも、もう2ヶ月は会えていなかった。
一度だけ、わずか2日のオフに強引に帰国しようとしたことがある。しかし往復に丸一日かかり、結局会える時間は数時間しか取れない計算になってしまった。その現実に打ちのめされ、渋々諦めた。
けれども、また少しでも休みができたらすぐに会いに行く覚悟はできている。
馨はモニターに映る凪をじっと見つめる。
凪はスマホから何気なくテレビ電話を繋いでいるが、自分の姿がこんなに大きな画面に映し出され、馨が食い入るように見つめているとは夢にも思っていないだろう。
馨自身、それを意図的に隠していた。そんなことを打ち明けたら、凪はきっと恥ずかしがってテレビ通話をしてくれなくなるに違いないから。
「また可愛くなった?」
「すぐ冗談言う」
凪は言葉に慣れているはずなのに、頬をぷくっと膨らませた。その仕草は無自覚なのだろう。けれど馨にとっては、その表情がたまらなく愛おしい。
モニター越しに指を伸ばして膨れた頬を挟み込み、赤く染まった唇に口づけを落としたい衝動に駆られる。
それができない代わりに、馨はただ目を細めて凪を見つめた。
冗談めかした言葉とは裏腹に、馨は本気でそう思っている。恋する人は美しい、とよく言うが、凪は日々少しずつ確実に可愛く、そして美しくなっている。あまりに眩しくて、いつか他の男に攫われてしまうのではないかと不安になるほどだった。
しかも画面には一切のフィルターもかかっていない。自然体の凪が、まるで加工したかのように可愛く映る。馨は胸の奥で熱を抑えきれず、静かに手を動かした。
スクリーンショットを保存する小さな音が部屋に響く。アルバムにはすでに数えきれないほどの凪の姿が並んでいるが、それでも一枚でも多く欲しい。日々変わっていく凪を、時系列で残しておきたいのだ。
もちろん、画面の向こうの凪にはそんなことは悟らせない。
「何?」と不思議そうに首を傾げる凪に、馨はただ、平然とした顔で微笑むだけだった。
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