116 / 124
番外編(馨)ラブなレター10
しおりを挟む「馨くん……?」
凪は馨が見つめる先に視線を移し、その眼差しが机の上の手紙に注がれていることに気づいた。
馨は抱きしめていた腕を解き、ゆっくりとそこへ歩み寄ろうとする。慌てて凪はその腕を掴んで引き留めた。だが、馨は力を緩めることはない。
「ちょっと待って!馨くん!」
「悪いけど、待てない」
短く言い切ると、馨は凪を引きずるようにして手を伸ばした。長い腕は凪の必死の抵抗をあっさりと振り切り、手紙を掴んでしまう。
そこに並ぶ文字を追う馨の瞳が、徐々に揺れていった。
「……これ、いつもらった? ていうか……普通にラブレター……??」
その声には張り詰めた硬さがあり、普段の落ち着きはなかった。
「き、昨日……貰ったやつで……」
凪は怯えたように答える。その横顔を見つめたまま、馨は額に手を当て、乱れた髪を後ろへ撫でつけた。帰国してから精悍さを増した横顔が歪んでいく。
「……俺、もしかしてバチ当たったのかもな」
力なく吐き出すように言うと、そのまましゃがみ込み、凪の指先を掴んだ。
「こんな可愛い恋人を置いて、遠い国に行くなんて無理な話だったのかな。……別の男に目をつけられるのも、いずれあるって思ってたけど。いざ直面すると……正直、結構きつい」
その声は苦い嫉妬と自嘲に滲んでいた。凪の右手の薬指を取り上げ、そこに口づけを落とす馨。唇が触れるたび、嫉妬の熱がその仕草に宿る。
「……凪、お願いだからどこにも行かないで欲しい。」
凪ははっと息を呑んだ。馨の瞳が、揺れながらも強く自分を捕らえている。
「だって俺は……凪じゃなきゃ、もう駄目なんだ」
低い声が胸に染み渡り、凪の心をぎゅっと締めつける。
「馨くん……ラブレターなんて、返事する気なかった。貰っただけで、どうしたらいいか分からなくて……置きっぱなしにしてただけ。僕の気持ちは、ずっと馨くんにあるから」
必死に言葉を重ねる凪。その真っ直ぐな瞳を見つめ、馨の指先から力が抜けていく。
「……そう言ってくれるの、ずるいくらい安心する。」
そう呟いた馨は、再び凪を強く抱きしめた。今度は嫉妬の力ではなく、失いたくないと願う切実さで。
「俺、ちゃんと守るから。離れていても、不安にさせないようにする。それにいずれは…いや、今は言わないでおく…でも凪のことを幸せにするために俺も頑張るから。」
「うん……信じてるよ」
凪は小さく頷き、馨の胸に額を預けた。重なった鼓動が、二人の距離を確かめるように同じリズムを刻んでいた。
762
あなたにおすすめの小説
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
6回殺された第二王子がさらにループして報われるための話
さんかく
BL
何度も殺されては人生のやり直しをする第二王子がボロボロの状態で今までと大きく変わった7回目の人生を過ごす話
基本シリアス多めで第二王子(受け)が可哀想
からの周りに愛されまくってのハッピーエンド予定
(pixivにて同じ設定のちょっと違う話を公開中です「不憫受けがとことん愛される話」)
僕はお別れしたつもりでした
まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!!
親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。
⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
【完結】王宮勤めの騎士でしたが、オメガになったので退職させていただきます
大河
BL
第三王子直属の近衛騎士団に所属していたセリル・グランツは、とある戦いで毒を受け、その影響で第二性がベータからオメガに変質してしまった。
オメガは騎士団に所属してはならないという法に基づき、騎士団を辞めることを決意するセリル。上司である第三王子・レオンハルトにそのことを告げて騎士団を去るが、特に引き留められるようなことはなかった。
地方貴族である実家に戻ったセリルは、オメガになったことで見合い話を受けざるを得ない立場に。見合いに全く乗り気でないセリルの元に、意外な人物から婚約の申し入れが届く。それはかつての上司、レオンハルトからの婚約の申し入れだった──
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる