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番外編(宗介)夢中にさせる3
しおりを挟む「ちょっと待った」
宗介が突然、凪の額を手で軽く押した。
「わっ」
ほんの少しの力だったのに、不意を突かれた凪は体のバランスを崩し、よろめいてしまう。咄嗟に宗介の腕が回され、しっかりと支えられる。その仕草はあまりに自然で、拒絶というよりも「一線を引いた」ように見えてしまった。
そのまま宗介は特に触れることなく歩き出す。凪も慌てて隣に並んだが、心の中はざわついていた。
(……あれ?もしかして僕、拒否された?)
いや、そんなはずない。宗介が嫌そうな顔をしていたわけじゃない。きっとただの思い過ごしだ。それでも胸の奥に小さな引っかかりが残り、どうしても気になってしまう。
やがて二人の足は自然と駅へ向かっていた。そろそろ「今日は帰ろう」という流れになりつつある。だが、凪はこのままでは終われないと強く思った。中途半端なまま解散してしまったら、さっきのことがずっと頭を離れない気がした。
「宗介、今日って……もう帰る?」
勇気を出して切り出すと、宗介はポケットに手を突っ込んだまま振り向いた。
「ああ、もう帰るつもりだけど……どうした?」
「その……あのね……」
凪は言葉を探しながら、そっと宗介の袖を指先で握った。きゅっと掴む自分の仕草が、子どもみたいで情けないと思いながらも、どうしても止められなかった。
「一緒に……家でお酒飲んだりしない?」
宗介の眉がぴくりと動く。
「……は?」
困ったような顔で、宗介は片眉を上げる。思わず凪は身をすくめたが、それでも真剣に続けた。
「別に、そういう日だってあるでしょ?僕は……宗介と一緒にお酒が飲みたい気分なんだ」
凪は必死で視線を上げ、少し甘えるように宗介を見上げる。宗介は額に手を当て、大げさにため息をついた。
「お前、本当に今日はどうした?」
呆れたように見えて、その声色は優しい。凪はさらに袖を握り込むようにしながら、心のうちを吐き出す。
「……無理にとは言わないよ。でも、僕は……宗介と一緒にいたくて」
口にしてしまった瞬間、顔から火が出そうになる。言い訳のように言ったが、本音でもあった。凪は普段、宗介に甘えたいと思ってもなかなかできずに飲み込んでしまうことが多い。酒の力を借りれば、もっと自然に寄りかかれるのではないかそう考えていたのだ。
宗介はしばらく黙ったまま凪を見つめていた。からかうでもなく、真剣なまなざしだった。そして数秒後、肩をすくめて笑った。
「……わかった。お前の言うこと、 聞くよ。確かに、あんまり二人で飲む機会もねえしな。たまにはいいか」
「ほんとに?」
「嘘ついても仕方ねえだろ」
宗介の素直な言葉に、凪の胸がじんわり温かくなった。断られたのではない。拒絶されたのではない。ただ宗介なりに考えただけなのだとようやく安心する。
「じゃあ……あそこのコンビニで酒買っていくか」
宗介が顎をしゃくると、凪は嬉しさを隠しきれずに笑顔でうなずいた。
「うん!」
小さな声で答えながら、心の中ではすでに決意していた。今日こそ、宗介に思い切り甘えてみようと心に誓う。
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