【完結】それ以上近づかないでください。

ぽぽ

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番外編(宗介)夢中にさせる4

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酒を買い込んだ二人は宗介の家へと向かった。
部屋に入ってまずは手を洗い、それからテーブルを挟んで向かい合って座る。宗介が冷蔵庫から取り出した缶をそれぞれ手に持ち、軽く音を立ててぶつけ合った。


「じゃ、乾杯」

「乾杯」


プシュッと弾ける音が重なり、凪は甘い度数の弱い缶チューハイを口に含む。ほんの二口、喉を通しただけで、すぐに頬がじんわりと熱を帯びてきた。宗介は凪の向かいで、彼に似合った大人びた雰囲気そのままにハイボールを傾けている。その姿はどこか余裕があって、同じテーブルを囲んでいるだけなのに、どうしてこんなに胸が高鳴るのかと凪は不思議に思う。

テーブルの上には買ってきたお菓子やつまみが並んでいた。凪は小さな口で少しずつそれを運びながら、チューハイをまた一口。顔が熱い。お酒のせいなのか、目の前の宗介のせいなのか、自分でもよくわからなくなる。


「なんか映画でも見るか?」

「うん」


凪は小さく頷いて返事をする。宗介がリモコンを手に取り、画面を操作しながら凪の近くへと少し身を寄せた。その瞬間、ふんわりとシトラスの香りが漂う。いつも嗅いでいる香りなのに、酔った頭にはやけに強く、そして心地よく届いた。


「宗介、すごい……いい匂いする」


気づけば凪は宗介の腰元に抱きつき、体重を預けていた。


「は?!お前、いきなりどうした?」


宗介は慌てて凪の頭を柔く掴み、引き剥がす。だが力は優しく、突き放すような強さはなかった。


「嫌なの……?」


潤んだ瞳で見上げると、宗介は一瞬だけ言葉を詰まらせ、やがて苦笑する。


「嫌なわけねえだろ。ただな、いきなりそういうことされると困る時もあんだよ」


その声は優しいのに、どこか大人の余裕を感じさせる。それがまた凪の胸を締めつけた。 


「……」


納得がいかず、凪は小さく唇を尖らせる。その後、映画が始まったが、凪は画面の内容などまったく頭に入ってこなかった。慣れない酒を、ほとんどジュースのような感覚で次々と飲み干してしまう。

缶チューハイの甘さが舌を通るたびに、頬の熱は増していく。意識はおぼつかなく、視線はただ一人、目の前の宗介だけに向かってしまう。

三角座りをしながら、コテンと首を傾け、熱っぽい目で宗介を見つめた。
宗介は、やっぱりすごくかっこいい。
胡座をかいているその膝の上に、思い切って座ってしまいたい。
太い首に抱きついて、その香りを胸いっぱいに吸い込みたい。
大きな手で頬も頭も、できれば背中までも優しく撫でてほしい。
自分だけのものにしたい。誰にも渡したくない。

酔いが回ったせいか、そんな欲望ばかりが頭の中を支配していく。けれども行動に移す勇気はまだなく、凪は代わりにまた缶を掴んで勢いよく飲み干した。


「うわあ、このシーンすげえな。なあ、凪?」

「ん?うん、すごいね?」


反射的に答える。正直、映画なんて見ていない。けれど、ようやく宗介が自分に話しかけてくれたことが嬉しくて、頬を赤らめながら満たされた笑みを浮かべる。

宗介が不思議そうにこちらを見て言葉を続けようとしたその瞬間。

「凪、どうしっ」

「宗介っ」


凪は堪えきれなくなり、勢いのままに宗介の首元に腕を回して抱きついた。首筋にすりすりと顔を擦り付け、熱を分け合うように甘える。


「ちょ、ちょっと待て……お前、酔いすぎだろ」


宗介の声は困惑混じりだが、腕は決して振り払わない。その胸板の広さにすっぽり収まってしまうと、凪はもう離れたくなくなった。
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