122 / 124
番外編(宗介)夢中にさせる4
しおりを挟む酒を買い込んだ二人は宗介の家へと向かった。
部屋に入ってまずは手を洗い、それからテーブルを挟んで向かい合って座る。宗介が冷蔵庫から取り出した缶をそれぞれ手に持ち、軽く音を立ててぶつけ合った。
「じゃ、乾杯」
「乾杯」
プシュッと弾ける音が重なり、凪は甘い度数の弱い缶チューハイを口に含む。ほんの二口、喉を通しただけで、すぐに頬がじんわりと熱を帯びてきた。宗介は凪の向かいで、彼に似合った大人びた雰囲気そのままにハイボールを傾けている。その姿はどこか余裕があって、同じテーブルを囲んでいるだけなのに、どうしてこんなに胸が高鳴るのかと凪は不思議に思う。
テーブルの上には買ってきたお菓子やつまみが並んでいた。凪は小さな口で少しずつそれを運びながら、チューハイをまた一口。顔が熱い。お酒のせいなのか、目の前の宗介のせいなのか、自分でもよくわからなくなる。
「なんか映画でも見るか?」
「うん」
凪は小さく頷いて返事をする。宗介がリモコンを手に取り、画面を操作しながら凪の近くへと少し身を寄せた。その瞬間、ふんわりとシトラスの香りが漂う。いつも嗅いでいる香りなのに、酔った頭にはやけに強く、そして心地よく届いた。
「宗介、すごい……いい匂いする」
気づけば凪は宗介の腰元に抱きつき、体重を預けていた。
「は?!お前、いきなりどうした?」
宗介は慌てて凪の頭を柔く掴み、引き剥がす。だが力は優しく、突き放すような強さはなかった。
「嫌なの……?」
潤んだ瞳で見上げると、宗介は一瞬だけ言葉を詰まらせ、やがて苦笑する。
「嫌なわけねえだろ。ただな、いきなりそういうことされると困る時もあんだよ」
その声は優しいのに、どこか大人の余裕を感じさせる。それがまた凪の胸を締めつけた。
「……」
納得がいかず、凪は小さく唇を尖らせる。その後、映画が始まったが、凪は画面の内容などまったく頭に入ってこなかった。慣れない酒を、ほとんどジュースのような感覚で次々と飲み干してしまう。
缶チューハイの甘さが舌を通るたびに、頬の熱は増していく。意識はおぼつかなく、視線はただ一人、目の前の宗介だけに向かってしまう。
三角座りをしながら、コテンと首を傾け、熱っぽい目で宗介を見つめた。
宗介は、やっぱりすごくかっこいい。
胡座をかいているその膝の上に、思い切って座ってしまいたい。
太い首に抱きついて、その香りを胸いっぱいに吸い込みたい。
大きな手で頬も頭も、できれば背中までも優しく撫でてほしい。
自分だけのものにしたい。誰にも渡したくない。
酔いが回ったせいか、そんな欲望ばかりが頭の中を支配していく。けれども行動に移す勇気はまだなく、凪は代わりにまた缶を掴んで勢いよく飲み干した。
「うわあ、このシーンすげえな。なあ、凪?」
「ん?うん、すごいね?」
反射的に答える。正直、映画なんて見ていない。けれど、ようやく宗介が自分に話しかけてくれたことが嬉しくて、頬を赤らめながら満たされた笑みを浮かべる。
宗介が不思議そうにこちらを見て言葉を続けようとしたその瞬間。
「凪、どうしっ」
「宗介っ」
凪は堪えきれなくなり、勢いのままに宗介の首元に腕を回して抱きついた。首筋にすりすりと顔を擦り付け、熱を分け合うように甘える。
「ちょ、ちょっと待て……お前、酔いすぎだろ」
宗介の声は困惑混じりだが、腕は決して振り払わない。その胸板の広さにすっぽり収まってしまうと、凪はもう離れたくなくなった。
521
あなたにおすすめの小説
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
6回殺された第二王子がさらにループして報われるための話
さんかく
BL
何度も殺されては人生のやり直しをする第二王子がボロボロの状態で今までと大きく変わった7回目の人生を過ごす話
基本シリアス多めで第二王子(受け)が可哀想
からの周りに愛されまくってのハッピーエンド予定
(pixivにて同じ設定のちょっと違う話を公開中です「不憫受けがとことん愛される話」)
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
僕はお別れしたつもりでした
まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!!
親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。
⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。
【完結】王宮勤めの騎士でしたが、オメガになったので退職させていただきます
大河
BL
第三王子直属の近衛騎士団に所属していたセリル・グランツは、とある戦いで毒を受け、その影響で第二性がベータからオメガに変質してしまった。
オメガは騎士団に所属してはならないという法に基づき、騎士団を辞めることを決意するセリル。上司である第三王子・レオンハルトにそのことを告げて騎士団を去るが、特に引き留められるようなことはなかった。
地方貴族である実家に戻ったセリルは、オメガになったことで見合い話を受けざるを得ない立場に。見合いに全く乗り気でないセリルの元に、意外な人物から婚約の申し入れが届く。それはかつての上司、レオンハルトからの婚約の申し入れだった──
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる
cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。
「付き合おうって言ったのは凪だよね」
あの流れで本気だとは思わないだろおおお。
凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる