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番外編(宗介)夢中にさせる5
しおりを挟む凪は我慢できずに宗介の首元に腕を回し、抱きついた。そして、首筋にすりすりと自身の顔を擦り付ける。
「離れろって」
「嫌だっ」
「離れろ」
「嫌だよ」
宗介の声は段々と低くなっていった。けれど凪は、酔いで気分が上がってしまっているせいで、その変化に気づけなかった。
「おい、離れろって言ってんだろ」
次の瞬間、宗介の声は鋭く、真剣な色を帯びて響いた。その低く強い声音に、凪の動きがぴたりと止まる。
「ご、ごめんなさいっ……」
一瞬で凪の酔いは覚めた。慌てて宗介から身を離し、肩を抱きしめるようにして小さく体をすくめる。今日一日、可愛いと思って欲しくて、愛されたい一心で宗介に甘えていた。けれど、それが宗介には迷惑だったのだと、今更になって胸を刺すように理解してしまった。
(誰だって、恋人が甘えれば可愛いと思うわけじゃないんだ。僕は、勘違いしてたんだ……)
今日一日、どんな風に宗介に触れても、どこか微妙な反応しか返ってこなかったことに、ようやく合点がいく。胸がきゅうっと縮こまり、呼吸さえ苦しい。
「本当にごめんなさいっ……。ごめん、今日も無理な誘いばかりで……それに迷惑なことばかりして」
唇を噛みしめ、頭を深々と下げた。宗介に拒絶されたことなど一度もなかった凪にとって、その事実は恐ろしく重く感じられた。
「そこまで言ってねえだろ」
宗介は深く息を吐き、少しだけ声を和らげる。
「俺が言ったのは、いきなりそういうことされると困る時もあるってことだ」
「……そうだよね。本当に、ごめんなさい」
凪は俯き、声を震わせる。宗介の言葉を額面通りに受け止めることができなかった。
(やっぱり甘えるのは間違ってたんだ。もしかしたら、触れることすら嫌だと思ってたのかもしれない……)
「そんな謝ることねえだろ」
宗介は、先ほどの刺々しさを打ち消すように笑って見せた。けれど凪は顔を上げられなかった。その瞳にはすでに涙が溜まっていて、見られたくなかった。
宗介に拒絶されたという現実が、かつて学生時代に周囲から虐げられた記憶と重なっていく。このまま宗介までもが自分を気持ち悪いと感じて離れていってしまうのではないか。その恐怖が胸を締めつけた。
「ごめん……今日、僕帰るねっ!」
「は?なんだよ、いきなり」
凪は慌てて荷物をまとめ始める。今ここにいたら、きっと涙をこらえきれなくなる。泣いてしまえば、もっと宗介に迷惑をかけてしまう。そう思った。
「さっきのこと、キレてんのか?さっきのことに関しては謝んねえぞ」
「違う……怒ってるんじゃない。ただ、このまま僕がいたら、同じこと繰り返すかもしれないし……」
言葉が途中で詰まり、声が震える。
「……はあ」
宗介が深くため息をついた。その音が、凪の喉をさらにきゅっと締めつける。
「……宗介、本当にごめん。もう甘えたりなんかしないから……僕のこと、嫌いにならないで」
最後の言葉はかすれ、ほとんど聞き取れないほど小さな声だった。
「なんて?声が小せえから聞こえねえよ」
宗介が顔を寄せ、凪の口元に耳を近づける。だが凪は慌てて距離を取った。
「帰るなら、家まで送る」
宗介は立ち上がり、自宅の鍵をポケットの中に入れた。
「大丈夫!僕、一人で帰れるから。迷惑かけてごめんね。ゴミも、僕の方で持って帰っちゃうから」
無理に笑みを作り、テーブルに散らばった缶やお菓子の袋を素早くまとめる。その動作には余裕などなく、ただ逃げ出したい気持ちがにじんでいた。
宗介に何かを言われる前にと、凪は慌ただしく玄関へと向かった。ドアを開け、冷たい夜の空気が頬を打つ。頬を濡らす涙を拭うこともせず、凪は足早に宗介の家を後にした。
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