【完結】それ以上近づかないでください。

ぽぽ

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番外編(宗介)夢中にさせる6

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それから凪は、宗介にどう接していいのか分からなくなっていた。

週に最低でも三回は顔を合わせていたのに、ここ最近はその回数すら減らしてしまっている。

ただいつも通りでいればいいはずなのに、あの日の出来事が心に棘のように残っていて、無意識に宗介を避けてしまうのだ。近づけばまた嫌われるかもしれない。そう思うだけで足がすくんだ。

けれど距離を置いたままでいれば、宗介の気持ちが離れてしまうかもしれない。その不安がじわじわと胸を侵食していた。


「ねえ、伊藤。恋人との関わり方が分からない時って、どうしたらいいの?」


凪はたまたま一緒にいた友人の伊藤に相談を持ちかけた。
気づけば声に縋るような響きが混じっている。


「お、ついにうちの凪ちゃん、恋人と別れましたか。こっち側だね~。仲良くやろうね~」


冗談めかして返す伊藤の口調が、今はやけに遠く感じる。


「違う。別れてないけど……でも、別れそうっていう危機なのかもしれない」


吐き出した瞬間、自分の言葉に胸が締め付けられ、思わず視線を落とした。


「ええ、まじ!
それは由々しき事態だな」


伊藤は目を見開いて驚き、そして凪の顔を見て真剣な表情に変わった。
眉間に皺を寄せ、顎に指を当てる仕草が、冗談では済まないと告げていた。


「まあ、俺としちゃカップルが別れようが関係ないけど」

「そんなこと言わないでよ」


凪は焦るように伊藤の肩を掴み、揺らした。その瞬間。


「おい、お前ら何やってんだよ」


背後から鋭い声が飛んできて、凪の体が強張る。振り返ると、宗介が険しい表情で立っていた。宗介は伊藤の肩を掴んでいた凪の手を引き剥がす。


「あ、宗介……」


掠れる声で名前を呼ぶと、喉が乾いて唾を飲み込む音すらやけに大きく響いた。


「おい、宗介。こいつが悩んでるらしいから相談乗ってやってよ」


伊藤が軽く肩を竦める。


「相談?」


宗介の眉がひそめられ、その視線が真っ直ぐ凪を射抜く。


「しかも恋人のことらしいぞ。お前なら恋愛経験豊富だから分かるだろ」


その言葉に、凪の心臓は嫌な音を立てた。血の気が引いていく感覚に、手のひらがじっとりと汗ばんでいく。


「へえ、相談。凪は何を相談しようとした」


宗介の声は淡々としているのに、奥に熱を孕んでいる。


「それが、恋人と別れそうだからどうしようって、今にも泣きそうな顔して相談してきたんだ」

「は?別れる?」


宗介の表情が凍りつき、次の瞬間ぎこちない笑みが浮かんだ。


「そういうことなら俺が相談に乗ってやるよ。凪」

「いや、僕は伊藤に相談を」

「いいから行くぞ」


宗介は凪の腕を掴み、強引に講堂から引き出した。温かなはずの掌が力強く、逃げ場を許さない。
人気のない場所に着くと、宗介はようやく足を止めた。残された静けさの中で、鼓動だけがやけに響く。


「別れるってどういうことだ。もしかしてお前そのつもりだったから俺と最近距離置いてたのかよ」


宗介は前髪を荒々しく掻き上げた。鋭さを含んだ声に、凪は息を呑んだ。


「そ、それは……」

「もしかして蓮見馨とまた……」


宗介の声はかすかに揺れていて、弱さが滲んでいた。


「馨くん……?なんで突然馨くんがて出てくるの?」

「お前がずっと好きだったやつだからだろ」


奥歯を噛み締め、視線を逸らす。その仕草に凪の胸はざわめいた。


「凪、俺が悪いことしたなら謝る。直してほしいところがあるなら直す。だから……あいつのとこに行くな」


宗介の腕に抱き寄せられ、胸板に押し当てられた。熱が一気に流れ込んできて、涙が滲みそうになる。


「宗介、僕は」

「俺は別れたくない。ずっと思い続けてきて、ようやく叶ったんだ。ここで終わりたくない。」


声は震えていて、必死に縋りつこうとしているのが分かった。


「違うよ。馨のことを思って別れるかもしれないって相談したんじゃない!」


凪は強く否定する。けれど宗介の表情から不安が消えることはなかった。


「じゃあ、なんであんな相談をした」

「この前のことで、宗介に嫌われたと思ったから……」

「嫌われた?なんのことだ」

「この前……僕が甘えたら、宗介が気持ち悪がったでしょ」


言った瞬間、あの日の痛みが蘇り、瞼が熱くなる。


「は?気持ち悪い?一体何のこと言ってんだよ。この前俺がお前に『離れろ』って言ったことか?」



凪は小さく頷いた。すると宗介は両肩を掴み、顔を覗き込む。



「なんでそんな思考になるんだよ、お前は…」

「だって、本当のことじゃん……」

「違えよ。お前を気持ち悪いなんて思ったこと、一度もねえ」


柔らかな声が頬を撫で、指先が優しく触れる。その温もりに、凪の視界が滲んでいった。


「じゃあどうしてあんなこと言ったの」

「お前、普段甘えてこねえだろ。だからあの日、すげえ可愛いなって思ったんだ。でも同時に、どうしていいか分からなくなった」

「……え?」


思わぬ言葉に顔を上げると、宗介の耳がほんのり赤く染まっていた。


「あん時注意したのは、衝動が抑えられなくなるからだ」

「衝動って……」

「どういうことか、教えてやるよ」


後頭部に回された手が強引に引き寄せ、唇が重なった。荒々しいほど激しいキスに呼吸を奪われ、目尻から自然に涙が滲み出す。唇が離れたかと思うと、宗介が先ほどの激しさを滲ませない優しさでその涙の上に唇を寄せる。


「こういうことされたら、お前驚くだろ。だから離れろって言ったんだ」


宗介は肩を離し、距離を取る。その顔には微かな後悔が浮かんでいた。


「あーあ、こんなつもりじゃなかったんだけどな。反省するわ。でも別れてやんねえ。俺が荷物持ってくるから、お前はここにいろ。その顔のまま戻るなよ」


背を向けかけた宗介に、凪は衝動的に飛びついた。


「宗介!僕は……僕は宗介のこと大好きだよ。だから、どんなことされても嫌いにならない。僕のことも嫌いにならないで」
声が震えても、腕は彼の腰にしがみついて離さなかった。


数秒の沈黙のあと、大きな手が凪の手に重ねられた。すっぽりと包まれる感覚に胸が熱くなる。


「さっきの言葉を聞いて、まだそんなこと言えるのか」

「え……?」

「嫌いになれるわけねえだろ」


宗介は凪の腰に腕を回し、抱き返す。その額を肩に預け、低く温かい声を耳元で響かせた。


「俺が責任持ってお前を幸せにする。だから勝手に離れようとすんな」


その言葉に、凪の目が潤み、細められる。胸の奥までじんわりと熱が広がった。


「うん……もう勝手に離れない」


凪は宗介の胸元に頭をよせ、宗介は凪を包み込むように抱きしめた。
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