【完結】それ以上近づかないでください。

ぽぽ

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「好きだとか言って来たお前が悪いでしょ。
誰がお前のことなんて好きになると思うの?」


床に倒れ込んだ凪の前に馨がしゃがみ、漆黒の瞳で蔑んだように見た。その瞳には熱など一切感じない。


「ご、ごめんなさい…もう近づかないから…」



蓮見馨はすみかおる小鳥遊凪たかなしなぎの最悪な関係が始まったのは数ヶ月前のことだった。


「え、どうして…??」


小鳥遊凪は小さな目を丸く見開いていた。


「何が?」

「僕と付き合ってくれるって…」

「自分から言ったんじゃないの
だから俺いいよって言ったんだけど。」

「でも、付き合ってまでとは…」


凪は白い頬を真っ赤に染めて、視線を逸らした。
確かに馨には「好き」だとはっきり告げた。だが、凪は告白なんてするつもりはなかった。

思わず「好き」と言ってしまったのだ。

それは数十分前のこと。

重たいゴミを焼却炉に運ぶ役目をクラスメイトに押し付けられよろけそうになりながら運んでいたところに、蓮見馨が歩いてきた。

凪が中学校の入学式で初めてみかけた時から憧れている人。それは一目惚れに近いようなものだった。

スラリと高い身長は遠目から見てもわかるスタイル良さだ。そして、誰もがつい視線を向けてしまうようなオーラがある。これは入学当初から考えても全く変わらない。

その人物の名前は蓮見馨。

艶のある黒髪、少し垂れた大きめの目に黒く澄んだ瞳、通った鼻筋、少し厚めで色気のある唇。透き通る様な肌はきめ細かくて繊細だ。誉めたくなんてないけど、彫刻のように美しい人。

中学生でありながら身長はすでに180センチを超えようとしている。芸能事務所にスカウトされているという噂も学校内で流れていた。

おまけに所属しているバスケットボール部は全国でも有名な強豪校で小学生の頃から活躍していた馨はそこにスカウトされる形でこの学校に来た。部活では一年生からレギュラーの座を勝ち取り、大会でも注目の的となっている。

凪の容姿はというと、出っ張った腹に太い足。脂肪で埋もれた細い目にぼってりとした赤く丸い頬。小さい唇。そして、分厚い二重顎。目立つといえば体型くらいだ。

性格もおとなしく、気が弱い。クラスメイトからも小鳥遊凪という名前だけ見れば美少女のため、名前負けをしているとよく揶揄われていた。

薫と凪は正反対と言ってもいいほど違う2人だった。だからこそ凪にとって馨の存在は憧れだった。

凪は赤くなった顔を隠すため、咄嗟に視線を逸らし、足早に横を通り過ぎようとした。だが、不意に手元が軽くなった。

視線を上げると、凪の持っていたゴミを馨が手に持ち焼却炉の方向へと向かっていた。
凪は一瞬何が起こったのか理解できず、状況を把握するまでに時間がかかった。

学校1の有名人、バスケ部のエース、学力も十分なほどあり、おまけに容姿端麗。劣るところがないと言っても過言でないほど人物が同じ空気を吸うだけでなく、ゴミまでもってもらっている。これほどの奇跡はないと凪は呆然としてしまう。

すると、ゴミを持った馨が振り返った。


「ゴミ、捨てるんじゃないの?」

「…は、はい!捨てます!!」


同級生のはずなのに咄嗟に敬語で話してしまった。
馨の尊顔についての大量の情報を処理するのに必死だった。まつ毛長い、目が澄んでいて綺麗だとか唇の色がほんのり赤いとか余計なことばかり考えてしまう。近くで見るのと遠くから見るのでは全く違かった。

憧れの馨と話している現実が信じられない。これは夢ではないかとさえ思ってしまう。

高鳴る鼓動を落ち着けながら、馨の背中を追った。見た目は細身だが、バスケで鍛えられたであろう広く少し隆起した背中。

その背中を見つめているだけでも卒倒しそうだった。少しでも近くによると風に乗って柔軟剤のような柔らかい香りとは別に爽やかな香りが鼻に届く。片手に持っているゴミでさえも馨が持つとその中の一つ一つに価値が生まれそうだった。

焼却炉に向かいゴミを捨て終わった時、伝え忘れていたお礼を言う。


「あ、ありがとうございます!!」

「声、大きいね」


馨は口の端をそっと上げて笑みを浮かべた。
初めて近くで見たその微笑みがあまりにも綺麗で、凪は無意識に呟いていた。


「やっぱり好きだな…」


春の風の音と凪の声だけがその場に流れる。
まるで時が止まったかのようだった。

凪がつぶやいた瞬間、馨の大きめ目がさらに見開かれた。


「…えっと、今なんて??」


凪は心の中での呟きが、そのまま口に出てしまった事に気づき、馨に聞き返された途端、意識が正常に戻ってきて、これ以上にないほど顔が熱くなる。


「あ!!いや、これは違くてっ!!
だからその!ごめんなさい!!!」


凪はその場で勢いよく頭を下げた。

「好き」という言葉でさえも失礼に感じてしまう。


「俺のこと好きなの?」


頭を下げている凪の頭上から聞こえてきた声は馨の声だ。それに対しては否定はしきれなかった。

好きなことに対しては変わりがないからだ。だからと言って素直にはい、好きですと答えるわけにもいかない。


「それってどういう意味の好き?」


馨は腰をまげて、頭を下げる凪の顔を覗き込んだ。

凪は答えに迷った。好きと言ってしまった手前、その意味はなんなのか聞いてくるのは当然なような気もするが、それに対してどのような返答がいいのか凪にはちょうど良い答えが思い浮かばす、素直に答えてしまった。


「……いや、その…だから」

「恋愛的な意味ってこと?」

「……はい、好きです…ごめんなさい
こんなやつに言われたら気持ち悪いですよね…」


凪が頭を上げて、苦々しい表情で告げる。

凪はそれを言った直後に言わなきゃよかったという後悔をしたが、どうせこんな気持ち悪い奴と話してくれるのは今日で最後だろうと凪は割り切った。


「その好きってさ、俺と付き合いたいとかの意味なの?」

「いや!!!そんなお恐れた事なんて思いません!!!蓮見君と僕なんかが付き合えるわけないから…」

「本音は?」


馨が何故ここまで聞いてくるのか不思議に思いつつ凪は本音を言った。


「……妄想の中でもいいから付き合ってみたい」


我ながら気持ち悪い言葉だと凪は自己嫌悪に陥っていたが、凪のその言葉に馨はまた笑った。その笑顔に見惚れそうになる。


「…いいよ、付き合おっか」


馨はなぜか満足げに笑みを浮かべて、凪の告白は受け入れられてしまった。
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