【完結】それ以上近づかないでください。

ぽぽ

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「うわっ!! やっぱり桜の言ってた通りじゃん!
馨、可哀想!! デブから『大好き』だって!!」

「でしょ? 本当に気持ち悪いよね。
あんなブスに言われても耐えられる馨って、ほんとすごいよね?」


ギャハハ、と廊下の奥から数人の下品な笑い声が響く。
その声に反応し、凪は思わず振り向こうとした—その瞬間。

「何も聞くな」

聞こえるか聞こえないくらいの声で誰かから呟かれた言葉は凪の耳に届くことはなかった。

桜を含む数人の姿が、視界に飛び込んできた。
彼女たちは日頃から桜と行動を共にするグループ。みんな一様に嘲笑を浮かべている。


「馨、もう言って大丈夫だよ。
我慢させちゃってごめんね。馨の方から言い出せなくなっちゃったんだと思って」


そう言うと、桜はお決まりのように馨の腕にぎゅっと抱きついた。
馨は微動だにしなかったが、その腕に力がこもる。


「ねえ、本気で付き合えると思ったの?
あんた、バカじゃない?」


桜が一歩前に出る。冷たい瞳が凪を射抜いた。


「正直、あんたが私の絵を描いた時から気持ち悪くてしょうがなかったの。
だから馨に頼んだのよ。『どうにかして』って。惚れさせてもいいからって」


ざわりと空気が揺れた。
桜の背後にいるグループの面々が、侮蔑の眼差しを向けながら笑う。


「馨くん、それ……本当なの……?」


震える声で問いかける。

視界がぼやけ、涙の膜が張る。
それでも馨の姿だけは、徐々に近づいてくるのがわかった。馨は凪の瞳を見つめた後、間をおいていった。


「そうだよ。逆に、なんで気づかなかったの?
お前、馬鹿なの?」


馨の言葉とともに、彼との距離が縮まる。
凪は恐怖に駆られ、無意識に後ずさった。


——ガタンッ


近くにあった椅子の脚に足を取られ、そのまま床に尻もちをつく。


「だっさ」


誰かの言葉と共に、周囲からクスクスとした嘲笑がこぼれる。

頭の中が真っ白になった。
馨の行動、態度、言葉……すべての点が一瞬で繋がる。

デートに誘われなかった理由。
あまりスキンシップを取ろうとしなかった理由。
恋人らしいことをほとんどしなかった理由。

全部、全部、嘘だったと凪は頭の中でようやく理解した。

喉の奥から、かすれた声が漏れる。


「……全部……嘘だったの……?」


馨は冷めた目で、床に倒れた凪を見下ろした。

「そうだけど?」

「それに、俺から仕掛けたわけじゃない。
むしろ、お前の方から『付き合ってほしい』って言ったんだろ?
それを今さら俺のせいにするの?」


何も言い返せない。
凪の顔が、苦悶に歪む。


「馨くんの目的って……なんだったの……?」

「ん? ただ単にバッシュが欲しかったから」

「バッシュが……ほしくて、僕と……?」


凪の唇が震える。馨は薄く笑った。


「そう。お前はバッシュ以下ってこと。
その気にさせちゃったなら、ごめんね?」


馨は静かにしゃがみ込み、凪の目を覗き込む。


「好きだとか言ってきた、お前が悪いでしょ。
誰がお前なんか好きになるの?」


漆黒の瞳が、凪を冷たく射抜く。


「ご、ごめんなさい……もう、近づかないから……」
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