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しおりを挟むようやく体育の時間が終わり、凪は誰よりも先に教室へ戻ろうとしていた。
以前、体育終わりに着替えていた時に「あいつの腹やばくね」と言われてしまい、それ以来、誰かの目に自分の身体を晒すことに嫌悪感を覚えるようになった。
早く戻って1人先に着替えようと急いでいると、ふと、馨の教室の前に立ち止まった。そこには見覚えのあるものが置いてあったからだ。
高級そうな缶の箱に表面には猫のイラスト。
凪が馨へとバレンタインに渡したものに違いなかった
てっきり捨てられたと思っていたものが何故ここにあるのか不思議に感じつつ、凪は周囲に誰もいないことを確認して、恐る恐る教室の中に入った。
改めて、その缶を見てみるがやはり凪があげたものに違いなかった。
誰の席なのかと椅子の後ろに貼られている名前を確認してみると"蓮見馨"と確かに書かれている。
何故、馨がこの缶をいまだに持っているのか、小物入れなどに使っているのかと思い、そっと中身を開けてみると、中には何も入っていない。だとしたらこの箱はもう要らないはずだ。
嫌いなやつから貰ったものなど、何故こんなところにとってあるんだと疑問が湧いたが、もしかしたら、凪がこのクッキー缶をあげたことを仲間うちに話しているのかもしれない。
知らないところで悪口を言われているのかと思うと今すぐこの缶を馨の目につかない場所におきたいという気持ちに駆られた。
自惚れていた自分が恥ずかしくて、早く自分が馨と付き合っていたという証拠を消したいという思いもある。
この缶を持ち去ったところで、使用用途といえば、おそらくちょっとした物や文具を保管するくらいだろう。困ることなんてない。そう考えた凪は周りに誰もいないことを確認し、缶を抱えて自分の教室へと戻っていった。
そして、その缶をリュックの中に慌てて押し込んだ。
そして、その日の放課後。
帰りの準備をしていると、女子たちの会話が聞こえてきた。
「ねえ、今日の蓮見くんみた?」
凪は馨の名前が聞こえてきて、思わず耳を傾けた。
「えー?いつも通り超イケメン!」
「イケメンなのは当たり前じゃん
あの蓮見くんなんだから。そうじゃなくてさ、蓮見くんって結構クールなイメージで、あんまり感情表に出ない人じゃん??」
「そうだね、あんまり怒ってるとことか見たことないかも!」
「でもね、今日隣のクラスでちょっとした騒ぎがあったみたいで、蓮見くんのものが盗まれたとかなんとかで。」
凪はその会話を聞いた途端、心臓が跳ねる。
自分が盗んだことがバレてしまったのではないかと、額からは冷や汗が伝う。
「蓮見くんが机の上にそれを置いておいたんだけど、体育が終わって戻ってきたら無くなってたんだって」
馨の机にはそのクッキー缶以外置かれていなかったため、明らかにあの缶のことを言っている。凪の鼓動がさらに早くなった。
「ええ、それ怖くない?
蓮見くんだったらファンの子が盗んだとかいう可能性もあるじゃん?」
馨は部活中でさえ、馨目当ての女子生徒が集まるほどの人気がある。そこで馨さえも認知していないファンクラブなるものがあるため、その可能性もあり得なくはなかった。
「そうそう。それに蓮見くん、珍しくめちゃくちゃ機嫌悪かったみたい」
「でもそれはそうじゃない?
自分のもの盗まれたんだから、機嫌悪くなるのも当然でしょ」
凪はその話を聞いて、早く家に帰ろうと決める。缶を盗んだのが凪だとバレたら、馨のものを盗むストーカーに変貌したとでも噂を流れるかもしれない。
凪は慌てて帰りの支度を終え、昇降口に向かおうと足早に教室をでた。廊下を早歩きで歩く。
すると、目の前から馨が歩いてきた。中学生でありながらスラリと高い身長はこれでもかと目を引く。
馨の顔の方へと一瞬だけ視線をやると、凪を刺すよう目で見ていた。凪はすぐに視線を逸らし、馨の横を足早に通り抜けた。
疑われず、しかも話しかけられることもなかったことに安堵して、深い息を吐き出した時、凪が肩にかけていた鞄の紐を勢いよく引っ張られた。
「わっ!!」
紐を引かれた勢いで凪の身体は後ろによろけた。そのまま後ろに倒れて転びそうになったが、なんとか耐える。
いつも小さな声しかあげない凪は驚きで大きな声を出してしまった。
だが、馨は気にすることなく、鞄の紐を引っ張りながら凪の身体ごと引きずっていく。
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