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しおりを挟むそれから数年の月日が経ち、凪は二十歳の大学二年生になった。
彼は転校を経て、中高一貫の男子校に通うことになった。当初、いじめられることに不安を抱いていたが、クラスメイトは皆フレンドリーで、凪を標的にする者は一人もいなかった。それどころか、彼のことを気にかけ、自然と輪に入れてくれる者ばかりだった。
そして、もう一つ予想外だったことがある。
凪の丸々と太っていた体が、いつの間にか痩せ細っていたのだ。今では「華奢」と表現しても違和感のないほど細くなっていた。
原因は、転校した学校には強制的に部活へ入部しなければならないという、暗黙のルールがあったからだ。もちろん公式な規則ではないが、周囲の誰もが当たり前のように部活に所属しており、凪が「帰宅部のままでいたい」と主張できるような雰囲気ではなかった。
「何部に入るの?」と当然のように尋ねられるたびに、曖昧に笑ってごまかしていたが、次第に逃げ場がなくなった。仕方なく、唯一まともにできるスポーツであるバドミントンを選択したものの、それが凪にとっては大きな誤算だった。
軽い気持ちで入部したはずが、練習は想像以上にハードだった。
毎日のように厳しいトレーニングが課され、気づけば体はみるみるうちに絞られていった。今までと同じ食事をとっていたにもかかわらず、体重は減る一方。
もともと運動が得意ではなかったため、試合で結果を残すことはできなかったが、三年間の部活動を終えた頃には、すっかり別人のような体型になっていた。
そうして高校卒業後、大学生になった凪の姿は、かつてのふくよかな体型とはまるで別物だった。
さらりとした艶のある黒髪に、黒く長いまつ毛に縁取られたぱっちりとした瞳。通った鼻筋に薄い唇、繊細できめ細かい白い肌。その姿は、母の面影を色濃く受け継いでおり、男子校の中では「姫」とまで称されるようになった。
だが、目立ちたくない凪はできるだけ影を潜め、学校生活を送ることに徹した。その結果、交友関係は極端に狭く、大学生になった今でも人間関係の構築には苦手意識がある。初対面の相手に対しては、人見知りが全開になってしまうのも悩みの一つだった。
恋愛に関しても、未だに経験がないまま二十歳を迎えた。多少の焦りはあるものの、凪自身、いまだに自分のことを「醜い」と感じていた。そのため、どれほど周囲から称賛されようと、結局はからかわれているだけだと考えてしまうのだった。
そんなある日の昼休み。
大学の食堂でカレーを食べていた凪は、向かいに座る転校した中学校からの友人である向井宗介と視線が合う。
「凪、ボーッとしてんな」
そう言うが早いか、宗介は凪の頬に手を添え、親指で口の端についたカレーを拭った。
「んっ……宗介。やめてよ、僕子供じゃない」
凪は拭われながら顔を引き攣らせる。
「子供じゃねえやつは、こんなところにカレーなんかつけねえんだよ」
宗介はクスッと笑いながら、呆れたように言った。
凪はじとっとした視線で睨みをきかせる。
「何、睨んでんの? 全然怖くねえ」
宗介はからかうように微笑んだ。
向井宗介は、凪の中学時代からの幼馴染だった。
兄貴肌で、凪が新しい環境に馴染めるように何かと気にかけてくれた存在でもある。心優しく仲間想いで頼もしい。どれほど仲が良くても、ダメなことはダメだとはっきり叱ってくれる、周りからの信頼も厚い。まるで少年漫画の主人公のような人物だった。
その外見もまた印象的だった。
身長は190センチ近くあり、野球部で鍛えた体はがっしりとしている。健康的に焼けた褐色の肌に、凛とした少し太めの眉。切れ長の目、高い鼻、形の整った少し厚めの唇。端正な顔立ちだが、いわゆる「イケメン」よりも「ハンサム」という表現がしっくりくる。
中学、高校、大学と同じ学校に通い続けており、今もなお、宗介はおっちょこちょいな凪の面倒を見続けている。
「宗介はさ、僕と一緒にいて楽しいの?」
ふと、凪は呟いた。
「は?」
ちょうどそのとき、近くを通りかかった男女混合のグループが、宗介に向かって手を振っていた。宗介は軽く手を振り返す。彼は凪とは対照的に、交友関係が広く、友人も多かった。
そんな彼と一緒にいることに、ふと違和感を抱いたのだ。
「僕と一緒にいるより、他の人といたほうが楽しいんじゃないかって思うんだけど……」
凪は宗介の視線を避けるように俯いた。
すると、宗介は深く息をついて、呆れたように言った。
「凪。俺はお前といたいから一緒にいるって、いつも言ってんだけど? 俺の話、ちゃんと聞いてる?」
「聞いてるっ」
凪は拗ねたように言う。
すると、宗介は「拗ねんな」と笑いながら、凪の頭をくしゃくしゃに撫でた。
「ちょっ……やめてよ」
「素直になればいいのに」
「……うるさい」
凪はふて腐れたように頬杖をつく。
そんな彼の様子を、宗介は微笑ましそうに見つめていた。
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