【完結】それ以上近づかないでください。

ぽぽ

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日曜日


凪は前日から実家に顔を出していた。
大学進学を機に大学近くのアパートへと引っ越していたが、実家はそれほど遠くはなく、月に一度は帰省していた。そのため、凪の部屋もそのまま残されている。心配性で過保護な両親も、凪が頻繁に実家へ帰ってくることを喜んでいた。


「なーちゃん、そういえばね、ママ最近いいことあったの!」


志保は両手をパチンと合わせ、口元に微笑みを浮かべた。


「いいこと?」

「そうそう! なーちゃんが転校する前のママ友にたまたまご近所で会っちゃってね、もうびっくりしちゃった! なんでこんなところにいるのー!? って!」


志保は凪とは違い、周囲との交流を得意とする。そのため、凪が中学時代に通っていた学校の同級生の母親たちとも、いまだに交流があった。いじめられていたことが志保の耳に入っているのではないかと、当時の凪はヒヤヒヤしていたこともあったが、特に変わった様子はなかったため、知られていないのだろうと安心していた。


「そうなんだ。どんな話をしたの?」


志保が話したそうにしていたため、とりあえず会話を続けるために質問を投げかけた。すると、志保の瞳がさらに輝く。


「あのね、なーちゃんの学年で同窓会があるんだって! だからなーちゃんもよかったらおいでって!」


同窓会。その言葉を聞いた瞬間、凪は”行く”という選択肢を頭の中から消し去った。

そんなものに行くわけがない。だが、志保の前では”学校では仲の良い友達がいた”ことになっている。そのため、適当な理由をつけて断ることにした。


「いつあるの?」


行く気はまったくなかったが、自然な流れで質問をした。


「来月のどこかの土曜日だったかな? あとで聞いてみるね!」


日にちが決まっていれば、その日には予定があると言って断ることができたが、「どこか」と曖昧にされてしまうと、バイトもしていない凪がすべての土曜日に予定が入っていると言うのは不自然だ。


「来月の土曜日は結構予定が入ってるから、多分行くのは難しいなぁ」


一旦こう言っておき、いっそのこと母の記憶から同窓会の話がなくなることを願った。


「えー! 同窓会は絶対参加したほうがいいよ! ママはね、若い頃、なーちゃんが生まれたばかりで育児に追われてて、同窓会に参加できなかったの。それが今でもすごく後悔してるのよ……」


涙もろい志保は、そこまで悲しいことでもないのに、すでに瞳を潤ませていた。


「そのうちみんな簡単に集まれなくなるんだから。もう二度と会えない人だっているかもしれないし……」


そんな表情を見せられてしまえば、凪もきっぱりと「行かない」とは言いづらい。


「わかった、考えておくよ」


苦笑いを浮かべながら、適当に返事をする。


「うん! 考えておいてね!」


同窓会なんて行くわけがない。

再びその言葉が頭をよぎる。

数週間後

母から、従姉妹の瞳が家に遊びに来るから、凪も実家に帰ってくるといい、という連絡があった。

瞳は社会人になってから、実家から離れた場所で一人暮らしをしており、以前に比べると会う機会は減っていた。そのため、凪は即座に「帰る」と志保に返信を送った。


「ただいま」


玄関でそう声をかけると、リビングの扉から瞳が顔を出した。


「凪! 久しぶり!」


瞳は凪の方へと歩み寄ると、躊躇なく腕を回し、ぎゅっと強く抱きしめる。薔薇のような香りが鼻をくすぐった。


「瞳ちゃん、久しぶり」

「凪、最近さらに可愛くなったんじゃない? まるまるしてた時もすごい可愛かったけど、今は美人さんになっちゃって~」


瞳は凪の頬を両手で包み込み、そのまま顔が潰れそうなほど押す。


「可愛いっ!」


頬から手を離すと、再びぎゅっと抱きしめられた。


「それにしても、瞳姉ちゃんがここに来るなんて久しぶりだね。どうしたの?」

「ん? 私は志保ちゃんに呼ばれたから来たんだけど? 『凪のおめかし、任せます』って」

「……ん?? おめかし?? どういうこと??」

「だって、同窓会行くんでしょ? 志保ちゃん、ヘアメイクとか得意だけど、男の子向けのは全然わからないからって、私が呼ばれたんだけど……?」 


同窓会に行くなんて一言も言っていないはずなのに、なぜか既成事実になっている。疑問に思いながら志保の方を見ると、彼女は茶目っ気たっぷりの表情を浮かべていた。


「あれ? なーちゃん、行くって言ってなかったっけ?」

「そんなこと言ってないよ!!」


凪が勢いよく否定すると、志保は「えへ」と舌を軽く出して誤魔化した。


「え~、だって考えておくって言ったじゃない。『考える=行く』ってことでしょ?」

「全然違うから!!」

「まあまあ、せっかくだし、おしゃれしてみなよ。瞳ちゃんにヘアメイクしてもらえるなんて、滅多にない機会だしさ?」

「そうだよ~、凪、試しにやってみない? 絶対似合うと思う!」

「いやいやいや、行かないってば!」


瞳と志保の二人がかりで同窓会へ引っ張り込まれそうになり、凪はただただ必死に首を振るのだった。


「凪、せっかく私も来たんだから行って来なよ!こんないっぱい道具だって持って来てあげたんだよ」


瞳は美容に関心が強く、ヘアメイク用品や化粧品を多く持っていた。瞳はそれが入った鞄を掲げる。
凪が苦い表情でそれを見つめていると、瞳はさらに続ける。


「あーあ、これ重たかったし、凪を綺麗にできると思って私すごく楽しみにしてたのになあ」

「…はあ…わかった!わかったよ!!行けばいいんでしょ!」


凪はヤケクソに言葉を発する。
志保と瞳は凪の返事に手を合わせて喜んだ。
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