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しおりを挟む瞳からおめかしなるものをされた凪はいつもの姿とは見違えた姿になっていた。
髪の毛をナチュラルにセッティングをして、清潔感の溢れる白のワイシャツ、その上に紺色のジャケットを羽織り、ズボンはシンプルなスラックスを履いた。
普段、パーカーばかり着ている凪慣れない装いだった。
「なーちゃん、かっこいい!」
「ほんとほんと!凪かっこいいよ!
みんなこんなかっこいい凪見たら驚いちゃうね」
盛り上がる2人を前に凪の表情は憂鬱だった。
同窓会に行ったという事実があれば問題ないのだ。そのため、凪は会場についてもろくにクラスメイトたちの顔をろくに見ることなく即座に帰ろうと心に決める。
「ああ、本当に行きたくない…」
堪らず心の声がそのまま言葉に出てしまう。
会場に近づくにつれ、まだ夜は肌寒い季節だというのにじっとりとした嫌な汗が吹き出した。ポケットからハンカチを取り出し汗を拭う。
そして、会場になっている店へと到着した。
様々なクラスが合同になって開催される同窓会のため広い会場となっていた。
ホテルの宴会場を借り切った広い会場は、煌々としたシャンデリアの光に照らされ、華やかな雰囲気に包まれていた。バイキング形式のテーブルがいくつも並び、自由に食べたり飲んだりできるようになっている。
入り口では受付が設けられ、男女数人が名簿を手に持ち、来場者を確認していた。
同窓会のためあたりまえだが、「久しぶり」など再会を喜ぶ声が飛び交い、憂鬱な気分はさらに増した。凪には再会を喜び合えるような友人もいないのだ。
そして、会場に入って馨の姿がないか無意識に探してしまっている自分に気づいてため息が出そうになった。だがそれらしい姿は見当たらなかった。
無意識に探してしまったのは会うのが嫌だから逃げたい気持ちなのか、どんな姿であるのか確認したい好奇心からくるものなのかはわからなかった。
凪は誰とも話すことなく会場の隅に移動する。
ついたばかりではあるが、あと数分したら帰ろうと決めて立ち尽くしていた。すると、目の前を通った女子たちが眉を顰めて何かを話しており、思わず聞き耳を立ててしまった。
「馨くん、今日来てないんだけどさいっあく!
1番楽しみだったのに!」
「そうだよね!馨くんバスケのプロチームからスカウト来てるんでしょ?本当にすごくない?」
「この前、馨くん載ってる雑誌見たけど超かっこよくなってた。本当にこの人と同じ学校通ってたのか信じられないくらいだったよ」
「ほんとだよね~
あの時サインでも貰っとけばよかった」
その会話を聞いて凪は馨が今自分とは全く違う世界で生きているということだけが理解できた。
雑誌にも出て、プロバスケットチームにもスカウトされて凪にはとても想定できない世界だ。
同時にもう全く届かないところへ行ってしまったのだという虚しさのようなものが募って来た。
その虚しさには絶対に"小鳥遊凪"と言う存在を忘れてられているという確信がさらに強まったというのも理由の一つにあった。2度と会わないという言葉が現実になったのだ。
もう帰ろうと足を踏み出した瞬間だった。
「よっ、ずっとそこにいるけどさどうしたん?友達今日来てないの?」
声の主は、片手に酒の入ったグラスを持った男だった。
ニキビ跡が残る顔立ち、どこか中高生のころのやんちゃな雰囲気が抜けきっていない様子すぐに分かった。
沢木だ。
沢木は凪だと気づいていないことを悟り、凪は適当に言葉を返した。沢木にバレたらこの場が一気に騒がしくなり最悪の思い出になりかねなかったからだ。
「…そう。友達いないから」
一つも笑みを浮かべず、無表情のまま答えた。沢木と目を合わせることもしなかったが沢木はそんな凪に構わず顔を覗き込んできた。
「マジで知らねえ顔なんだけど」
沢木は一人小さく呟く。すると、沢木は何を思い立ったか周りにいた友達に手招きをした。
「お前ら、こいつ知ってる?」
そう問われて振り返った女。それは桜だった。中学の頃から可愛いと噂だったが、成長してもなおその顔には変わりはない。
このままではまずいとその場を離れようとしたが、腕を掴まれた。
「なあ、名前は?」
沢木の呼吸が少し荒くなって来ているようにも感じて、凪はそれが気色悪いと感じた。頬を熱らせ凪の顔をまっすぐと見つめる。
「…俺、こんな美人みたことないんだけど」
「は?!何言ってんの?!この人男だよ!正気??!!」
その言葉に眉間に皺を寄せた桜が沢木の肩を勢いよく叩いた。沢木は叩かれた場所をさすりながら、相変わらず凪の方をチラチラとみて頬を熱らす。凪はその視線に嫌悪感を感じて一切視線を合わそうとしなかった。
「いや、めっちゃ美人じゃん
マジで。こんな美人いた?名前は?」
そう聞かれた途端、凪はもう観念した。
正直に言うしかない。
「小鳥遊…凪」
「え?!?!小鳥遊凪?!?!」
沢木を含め周囲にいた人間が目を丸くする。
「嘘だろ?!あの豚が?!」
「本当に?!嘘でしょ?!あのデブスがどうやったらこんなに…整形?!」
何も悪いことをしたわけでもないのに、中学の時のような悪口を口々に出され凪は瞳が潤んだ。
(成長したからもうこんな言葉痛くも痒くもないと感じてたはずなのに…)
「お前、本当にあの豚?!この美人が?!」
沢木に再び顔を覗き込まれた瞬間、凪の瞳からは一筋の涙が流れた。こんなところに来なければよかったという感情が心を占める。
凪の溢れる涙を見た沢木は困惑して凪の腕に触れたが、凪はそれを跳ね除けた。
その瞬間、沢木の表情が変わった。その表情はブレスレットがちぎれたあの日と一緒の顔だった。
凪はその場から離れようと早足で出口の方へと歩く。
「おい、待てよ
話終わってねえだろ!」
「いやっ」
沢木に腕を掴まれそうになった時、硬い何かにぶつかった。その勢いで凪の身体はよろけるが力強い手が凪の腕を掴み上げる。力強いのに優しさを感じる手。
顔を上げるとそこにはー
「……凪??」
視線が合い、まるで時が止まったのではないかという錯覚に襲われる。
(僕のこと、みんな気付かなかったのにどうして……)
凪の目の前にはそこにはいないはずの馨の姿があった。
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