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しおりを挟む「凪、これとか食べられる?」
馨は片手に皿を持ちながら、凪に問いかける。まるで凪に食べさせようとでもするように。
だが、凪は小さく首を振った。
「いや、僕はもう何もいらなくて……帰るだけだからっ」
「帰るだけ? なんで? せっかく同窓会に来たのに」
「本当はここに来たくなかったんだ。でも、家族に無理やり行けって言われて……」
馨は表情を変えることなく、じっと凪の方を見つめる。
その視線に晒されると、胸の内側にざわりとしたものが広がっていく気がした。
「そっか。でも、そんなにおめかししてきたなら、もったいなくない? こんなに可愛いのに」
「可愛いって……冗談やめて。また騙されちゃうから……」
冗談だとわかっているはずなのに、顔の熱が上昇していくのを感じる。
凪は思わず馨から顔を思い切り逸らした。
馨に連れられるがまま、二人はテーブルへ移動する。
馨は凪のすぐ隣に座り、覗き込むように顔をのぞかせた。
「やだ……僕の顔、見ないで……」
「なんで?」
馨はふっと微笑むと、指先で凪の横髪を拾い、そっと耳にかけた。
その瞬間、馨の指が頬に軽く触れ、凪は驚いてぴくりと肩を震わせる。
馨から漂うシトラスの香りが、不思議と緊張感を加速させた。
「これ、飲んでもいい?」
「飲んでもいいけど……それ……」
馨の返事を待つ前に、凪はグラスに口をつけた。
喉を通る液体はひどく甘く、しかし後からじんわりと熱を運んできた。
「……これ、美味しい……」
「ん? 美味しい? 良かった」
馨は凪の言葉に、柔らかな表情を浮かべる。
なんとなく思考がぼんやりとしてきた気がした。
さっきまで直視できなかったはずの馨の顔を、無意識のうちにじっと見つめてしまう。
「凪、さっきまで俺のこと怖くて見られなかったんじゃないの? それでも、もう嫌じゃない?」
「……嫌だ……」
凪は白い頬をほんのり赤く染めながらつぶやいた。
馨は拒絶されているはずなのに、どこか嬉しそうに笑っている。
「美味しいなら、もっと飲んでみる? まあ、飲みすぎは危険だけど」
「……危険?」
馨の言葉の意味が、ぼんやりとした頭ではうまく理解できなかった。
凪はとりあえず頷くと、馨は「じゃあ、取ってくる」と言い、席を立った。
その背中を見送りながら、ふと周囲の会話が耳に入る。
笑い声や楽しげな話し声が飛び交い、煌びやかな会場の雰囲気がどこか遠くに感じられる。
しばらくすると、馨がドリンクを取りに行った先で、何人かに囲まれているのが見えた。
その輪の中には女性の姿も多く、彼女たちは親しげに馨に話しかけ、時折軽く腕や体に触れている。
(……中学の時より、もっとモテてる……)
そんなことを考えながら眺めていると、胸の奥がもやもやとするのを感じた。
なぜ馨が自分と一緒にいるのか、ますますわからなくなってくる。
馨は昔から人付き合いが上手く、どこにいても注目を浴びる存在だった。
自分とは正反対で、だからこそ、こうして隣にいることが不思議に思えてならない。
(……なんで僕なんかと……)
目の前のグラスを手に取る。
さっき飲んだものと同じ、甘い香りのする飲み物。
無意識に、再び口をつける。
喉を通ると、また体の内側からじんわりと熱が広がっていく気がした。
気のせいか、少しだけ体がふわふわと軽くなったような感覚がある。
意識が少しぼやける中、また馨の方を見てしまう。
楽しそうに談笑する姿を見ながら、さっきよりもさらに胸の中がざわついた。
誰と話そうが自由なのに、目を逸らせなくて、妙に落ち着かない気持ちが募る。
馨は笑っている。周囲に囲まれながら、楽しげに会話している。
自分でもよくわからないモヤモヤとした衝動が胸に湧き上がり、凪はグラスを置いた。
馨の方をじっと見つめたまま、どうしたらいいのかわからず、そわそわと視線を泳がせる。
その時だった。
馨がふと視線に気づいたのか、こちらを見た。
目が合った瞬間、馨は少し驚いたように目を瞬かせ、そしてすぐに笑みを浮かべた。
「……っ!」
思わず、凪は顔を伏せる。
胸の奥がざわざわして、さっきよりももっと落ち着かない。
馨は、そんな凪の様子に気づいたのか、少しだけ困ったように微笑んだ。
それから、会話を切り上げると、こっちに向かって歩いてくる。
馨はすぐ目の前まで来ると、テーブルに手をついて、ふっと顔を覗き込んできた。
「遅くなっちゃってごめんね
……俺の方見てどうしたの?」
その声が、ひどく優しく聞こえた。
馨の瞳をまともに見られなくて、また目を逸らす。
馨は苦笑しながら、凪の前に新しいグラスを差し出した。
「はい、飲みすぎ注意ね」
「……んっ……」
凪はそっとグラスを受け取る。
馨の指がかすかに触れて、また鼓動が跳ねた。
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