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しおりを挟む凪が知らなかったこと
中学校の頃、自分を散々いじめてきた女。そして、凪がいじめられる大きな原因になった女。
桜。
彼女は、凪を見つけると足早に近寄ってきて、凪の目の前で立ち止まった。
「ねえ、いつまでも被害者面して馨のこと独り占めできて楽しかった?」
「え?」
唐突な言葉に、凪は戸惑った。
「馨のこと縛りつけるの、もうやめてよっ!!」
桜は顔を歪め、まるで訴えかけるように叫んだ。しかし、凪には何のことか一切分からなかった。桜の目には今にも涙が溢れそうになっており、彼女はそれを必死に堪えているようだった。
「一体なんのこと…?」
だが、凪にはこの状況が全く理解できなかった。
「馨のことずっと縛り付けてきたんでしょ? だから今日だってずっと一緒にいたんでしょ?馨になんか言ったの?」
凪はさらに混乱する。言葉の意味がまるで分からなかった。馨とはたまたま再会し、少し話をしただけだったはずだ。それのどこが「縛り付ける」ことになるのか。
「あの、いったい何のことを言ってるの? 僕には君の言っていることが全く分からない」
凪がそう返すと、桜は驚いたような表情を浮かべた。そして、すぐにその目尻を釣り上げる。
「本当は知ってるんでしょ?! 馨から聞いてるんでしょ?! なんで馨があんたのことを振ったあとに、わざとあんたを虐めるような態度をとったのか!!!」
“わざと”。
桜の声が鋭く空気を裂いた。
その言葉が、凪の頭の中で鈍い音を立てる。
いじめが”わざと”? そんなことがあるのか? いじめというのは、ただ誰かを嫌っているから、気に入らないから、目障りだから、そういう単純な理由で発生するものではなかったのか?
わざと虐める理由なんて、あるのか?
桜はそんな凪の沈黙を見て、さらに目を見開く。
「もしかして、振られた後のこと以外何も知らなかったの…?」
「……僕は何も知らない」
凪は、ただそれだけを答えた。
すると、桜の顔色が一瞬変わる。彼女の口がわずかに開き、何かを言いかけたが、言葉にはならなかった。
「なんでっ…の」
桜が悔しそうに、小さく呟いた。しかし、その声は凪の耳には届かなかった。
彼女はしばらく凪を睨むように見つめたあと、目を伏せる。そして、最後に一言だけ静かに言った。
「もう、馨には会わないで」
それだけを言い残し、桜は踵を返し、会場の方へと去っていった。
凪は、その背中をただ茫然と見つめることしかできなかった。
馨が、わざと——?
いじめを、“わざと”?
その言葉が、凪の頭の中で渦を巻く。何かが引っかかる。けれど、その正体はまだ分からない。
凪は、ふと馨の顔を思い出した。
今日、再会したときの馨の表情。彼の言葉。そして、あの微妙な間。
違和感はあった。確かにあった。
けれど、それが何なのか、分からない。
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