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しおりを挟む「はあ……」
店の扉を開けると、少しひんやりとした夜の空気が体を包み込んだ。室内の熱気とは対照的な冷たい風が肌を撫でる。それが心地よくて、凪は自然と深いため息をついた。
合コンの場で感じた気疲れが、一気に肩から抜けていくような気がする。けれど、完全に安堵するには至らなかった。
ふと、どこかで嗅いだことのある香りが鼻をかすめる。
嫌な予感がして、ゆっくりと視線を香りのする方へ向けた。
凪はその場で固まる。
そして、視線を向けた相手の方も凪の方へと視線をやった。
「……凪?」
驚いたような声が聞こえた。
凪のすぐ横に立っていたのは馨だった。
タンクトップの上にカジュアルな上着を羽織り、黒いニット帽を被っている。ラフな格好のはずなのに、馨が身に纏うとそれが雑誌の一ページのように洗練されて見えた。
上着の隙間から覗く精悍な肉体に、凪の視線は無意識に吸い寄せられる。
実際、店を出る女性たちの何人かが馨の方にチラチラと視線を送っていた。
……どうしてここにいるの?
そう問いかけたいのに、うまく言葉が出てこない。
「なんでここに……?」
ようやく口を開いた凪に、馨は眉を寄せながら問い返す。
「それはこっちの台詞だよ。凪こそ、なんでここに?」
「僕は……」
凪は「友達とご飯を食べにきた」と嘘をつこうとしたが、喉元で言葉が止まった。
馨に嘘をついたところで、何の意味もない。
むしろ、合コンに来た ことを告げた方が、馨に対して「僕はもう未練なんてない」という意思表示になるのではないかと思った。
異性との出会いを求めているとアピールすれば、「もう馨のことを引きずっていない」「僕は同性には興味がない」と伝えられるかもしれない。
「僕はね、合コンに来たよ。馨くんは……?」
「は??」
馨の表情が一変する。
眉間に深い皺を寄せ、低い声で問い返してくる。その威圧感に、凪は思わず言葉を詰まらせた。
「……合コンに来た。」
改めてそう繰り返すと、馨の視線が凪を射抜くように鋭くなる。
「合コン? 本当に?」
「……本当だよ。」
馨はしばらく黙ったまま凪を見つめ、やがて店の中を指さした。
「その合コン、どの部屋でやってるの?」
「え?」
馨は質問には答えず、ただ静かに凪を見つめている。
「この店の個室だろ? 店の中で凪っぽい人を見かけなかった。で、どこ?」
「……なんで馨くんに教えないといけないの?」
凪が思わず上目遣いで問いかけると、馨は一瞬だけ息を呑み、それから小さく呟く。
「……その顔、本当ずるい。」
次の瞬間、馨は凪の手首を掴み、そのまま店の中へとズンズン進んでいく。
「ちょ、ちょっと馨くん!!」
「早く場所教えて」
驚いた凪は反対方向に体重をかけて抵抗するが、馨はびくともしない。
「待って!! 待って! お願いだから!」
凪が必死に訴えると、馨は立ち止まり、ゆっくりと振り返った。
「凪さ、本当に合コン出たかったの?」
「それは……」
馨の問いに、凪はすぐに答えられなかった。
「出たかった」と言えば、それは嘘になる。
かといって、「パンケーキが食べたかったから」とは、恥ずかしくて言えない。
馨は凪の顎先に軽く指を触れさせ、俯いた顔を上げさせる。
「凪、こっち見て。 本当に合コンに行きたかったなら、俺の目を見てはっきり言って。」
凪は一瞬だけ馨の瞳を見つめた。しかし、すぐに視線を逸らす。
その時
「凪くん?」
背後から女性の声がした。
凪は驚いて振り返る。
そこに立っていたのは、合コンで隣に座っていた女子だった。
「トイレに行って戻ろうとしたら、凪くんがいたから……」
女子は言いかけて、馨に目を移した。
そして、彼の姿を見つめるうちに、みるみると頬がほんのりと赤く染まる。
「この人は、お友達?」
「お友達……ではない。」
凪がそう告げると、馨の口元がわずかに歪んだ。
馨は普段、クールな印象が強い。けれど、凪の前ではこうして感情が表情に現れるのが不思議だった。
「友達じゃなかったら、俺は何になる?」
馨の低い声が、すぐ耳元で響く。
その吐息を感じた瞬間、凪はとっさに手で耳を隠した。
赤くなってしまう耳を見られたくない。
それに——馨の息が触れると、身体の奥が疼くような感覚がしてしまう。
「凪くんのお友達なら、私たちの部屋に来ませんか?」
女子が突然、馨に話しかけた。
凪は反射的に首を大きく横に振る。
馨と合コンの場に行くなんて、想像するだけで恐ろしい。
「本当ですか?じゃあ案内してもらってもいいですか?」
凪は驚きで目を丸くする。馨の目的ぐなんなのか全くわからない。
「馨くん、ここで用事があったんじゃないの?早く戻らなくていいの?」
馨の気を逸らそうと必死になるもの、馨の様子は変わることはない。
「ああ、あいつらね、別に気にしなくても大丈夫」
"あいつら"とは一体誰のことを指しているのか凪はわからないまま首を傾げた。
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