【完結】それ以上近づかないでください。

ぽぽ

文字の大きさ
32 / 124

32

しおりを挟む


桜の携帯電話を奪い取り、睨みつける。


「ん? さっき話してた他校の人だけど、何?」


桜は眉をひそめ、邪魔するなと言いたげな視線を俺に向けた。
彼女は本気だ。

冗談で言ったわけではない。
桜は、気に入らない相手を排除するためならどんな手でも使う。
俺は、それを知っていた。 


「……俺が、凪のことを傷つけ続ければ、お前から危害は与えないってことでいいの?」


喉が焼けつくように痛い。
それでも、この言葉を口にするしかなかった。

もし俺がここで桜に反抗すれば、凪は取り返しのつかない目に遭う。
俺がどれだけ謝ろうと、どれだけ守ろうと、そんなことは桜にとって何の意味も持たない。


「そう、物分かりいいね! 馨! さすが頭いいなぁ」


桜は拍手しながら笑う。
まるで俺のことを嘲笑うような、その口調が胸に突き刺さった。

違う。こんなの、ただの負け犬じゃないか。
俺は、何も守れない。

もし俺が勇気を出して、桜に逆らえば。それだけで、凪を守ることができたのかもしれないのに。

だけど、その時の俺にはできなかった。

俺は、また桜の望み通りに、凪を傷つける言葉を吐いた。

言葉を吐くたび、心臓が抉られるように痛かった。けれど、それを顔には出せなかった。

凪が俺を見上げる。

怯えた瞳だった。
あの目が、脳裏から離れない。

凪が転校すると聞いた時は、心に何かぽっかりと穴が空いたような虚しさもあったが、同時に少し安堵する気持ちもあった。
もう凪を傷つけるようなこともせずに、桜からの危害が凪に与えられることはない。

俺は、なんとか凪の居場所を知りたくて、色んな人に聞いて回った。
だけど、誰も知らなかった。

凪は、誰にも何も言わずに消えた。
まるで最初から存在しなかったみたいに。

凪に親しい友達はいなかった。
誰かと話すことはあっても、深く関わるような相手は見なかった。

孤独だった凪の世界に何も知らずに土足で入り込んでかき乱したのは俺だ。あの時、別の選択をしていたらどんな未来が待っていたのだろうなんて何度も後悔して過ごした。

だが、ある日、俺は街中で凪と似た人物の姿を見かけたことがあった。

部活帰り1人で歩いている時、向かいから歩いてきた少年は数人の友人に囲まれ、楽しげに話していた。咄嗟に声をかけたくなったが、俺はそれができなかった。

もし、その人物が本当に凪だったとしたら俺の姿を見た途端、凪の笑顔を奪ってしまうような気がしたからだ。

もう凪と会う資格なんてない、凪が幸せに暮らしていてくれればそれでいいとさえ思えるようになったが、同窓会で凪を目の前にしたらそんなことを考えることができないほど舞い上がってしまい、また凪が怖がるような行動に出てしまった。

我ながら情けなくて、思い出すだけでため息が出た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

6回殺された第二王子がさらにループして報われるための話

さんかく
BL
何度も殺されては人生のやり直しをする第二王子がボロボロの状態で今までと大きく変わった7回目の人生を過ごす話 基本シリアス多めで第二王子(受け)が可哀想 からの周りに愛されまくってのハッピーエンド予定 (pixivにて同じ設定のちょっと違う話を公開中です「不憫受けがとことん愛される話」)

僕はお別れしたつもりでした

まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!! 親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

処理中です...