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しおりを挟む「じゃあ、馨、さっさと行くぞ」
キャプテンはそう言って、馨の首根っこを掴むようにして引っ張り、会場の方へと連れて行こうとする。
「あの……!!」
思わず声をかけた凪に、キャプテンはぴたりと足を止めると、凪の方へ向き直って深々とお辞儀をした。その律儀な仕草に、凪も思わずつられるようにぺこりと頭を下げる。
「キャプテン、待って」
馨がその背中を呼び止めると、凪の方に振り返った。
「凪、携帯貸してもらっていい?」
控え室に忘れ物でもしたのか、あるいはどこかに連絡を入れたいのかと思った凪は、特に疑問も持たず素直に携帯を差し出した。
馨は慣れた手つきで何かを入力し、1分も経たないうちに凪の携帯を返してきた。
「その携帯に俺の名前が入ってるから、何かあったらすぐ連絡して。ていうか、何もなくても連絡してくれていいから」
凪が画面を見ると、そこには馨の電話番号が登録されていた。携帯に表示される馨の名前に胸がどきりと跳ねる。
「凪、会場の中で待ってて。変なやつに声かけられても絶対無視して!」
念を押すように言い残し、馨はキャプテンの後ろについて歩き出す。途中、何度か振り返っては凪に手を振った。
凪は馨の背中を見送りながら、携帯をぎゅっと握りしめた。胸の奥がじんわりと熱を持つ。
あまりイベントなどに参加したことがない凪は、多少の緊張を感じながらも先に席を確認しようと会場の中へ入っていった。
試合開始までにはまだ時間があるというのに、すでに多くの観客で席は埋まりつつあった。
自分の席を確認しながら歩いていると、突然、どん、と誰かとぶつかり、身体がよろめいた。バランスを崩して倒れそうになったその瞬間、ぐっと腕を掴まれた。
「ごめんなさい、しっかり前を見ていなくて」
「いえ、俺の方こそすいません」
それはどこか聞き覚えのある声だった。低くどこか大人ぽい雰囲気を纏う声。
互いに謝りながら顔を上げ、視線が合った瞬間、二人の目が大きく見開かれる。
「えっ?!」
「凪!?!」
そこにいたのは、まさかの宗介だった。
「なんでここにいるの??」
「それはこっちのセリフ。お前、バスケとか興味あったの?」
「バスケには興味ないけど、知り合いが今日出場するっていうから、見に来たんだ。宗介は?」
「俺も知り合いが出るからさ。じゃなきゃ、こんな前の席で見れるわけないだろ」
「えっ、宗介も選手の知り合い?」
驚きの連続に、凪の目はさらに丸くなる。
「ああ。チームのキャプテン、そいつが俺の従兄弟」
「え……従兄弟?!?」
凪の脳裏に、さっきの大柄な男の姿が浮かぶ。言われてみれば、宗介と同じく高身長で、馨にはファンが少ないと言われていたが、顔立ちも十分に整っていた。
「凪は誰の知り合い?」
「えっと……蓮見……馨くん、の……」
「は? あの蓮見馨?!」
宗介は馨の名前を聞いた瞬間、目を見開いて声を上げた。
「凪、お前の人脈どうなってんの?」
「人脈ってわけじゃなくて……中学の同級生で。ほら、僕が転校する前の……」
「あー、そういえばお前から前の学校の話、あんまり聞いてなかったな。蓮見馨と友達だったのか?すげぇな」
「いや、友達っていうか……その……」
関係性をどう説明すればいいか分からず、凪は口ごもった。すると、宗介は「まあいいや」と呟き、凪の手元のチケットを覗き込んだ。
「席、どの辺?」
宗介が身を寄せてきた時、ふわりとシトラスの香りが漂った。
「宗介、近い……」
「は? 近いから何だよ。緊張でもしてんのか?お前ともう何年一緒にいると思ってんだよ。」
宗介はからかうように笑いながら、凪の肩に腕を回し、さらに顔を近づけてきた。
「なんでもっと近づいてくるの!」
「ん? お前の反応が面白いから」
「僕は全然面白くないっ!」
凪が宗介の身体を押して距離を取ると、宗介は笑いながら凪の頭をくしゃりと撫でた。
「てか、お前の席、めちゃくちゃ前じゃん。すご。蓮見馨のツテ、半端ねえな。プレミア席だろ、これ。まあ、俺もお前のすぐ後ろの席だけど」
「え? そうなの?」
知り合いが近くにいると知って、凪は少しだけ肩の力を抜いた。慣れない場所で一人きりになる不安が、少し和らいだ気がした。
「ああ、席探してんだろ? 一緒に行くぞ」
宗介は自然な動作で凪に手を差し伸べ、その手を取ると、そのまま歩き出した。
するとすぐ近くにいた女性観客たちの視線が一斉に二人の手元に注がれる。
「宗介、恥ずかしい……」
「俺は恥ずかしくねぇ。お前のこと、見せびらかしたいぐらいだわ」
凪は顔を赤らめながらも、その手を離すことができなかった。
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