【完結】それ以上近づかないでください。

ぽぽ

文字の大きさ
44 / 124

44

しおりを挟む



「沢木…くん」


そこにいたのは沢木の姿だった。
相変わらずニキビだらけの顔に、憎たらしい笑みを浮かべている。


「こんなところで何やってんだよ、豚」

「別に何も…」

「何も??俺はさっき見たんだよ。馨と歩いてるところ。まさかお前ら仲良く友達やってんの?」

「…」


沢木はわざとらしく声を上げて笑った。その笑い声は、凪の耳にとって不快以外の何物でもなかった。
だが、凪はこれ以上ことを大きくしたくなくて、黙って立ち去ろうとした。だが、その腕を沢木に掴まれる。


「やめて」


凪は冷たく言い放ち、掴まれた腕を振り払った。すると、沢木の眉間には不機嫌そうに皺が寄った。


「お前、痩せて顔だけ良くなって調子乗ってんだろ?馨の穴にでもなんのか?女ぽい顔してるもんな。性格もナヨナヨして。」


凪はその言葉に拳を強く握りしめた。指先が白くなるほどに力が入る。体がわずかに震えるのを、凪自身も感じていた。


「馨の代わりに俺が遊んでやろうか?どうせ友達もいないんだろ。いたとしてもそいつらは何?オタク集団とか?頭がおかしいとか?
大体、蓮見馨。あいつも思ってたけど中学の頃からおかしいんだよ。昔からてめえみたいな豚庇った時もあったしよ」

「どうだ。豚。お前の顔だけはいいから俺の遊び道具にしてやってもいいぞ。」


その言葉を聞いた瞬間、凪の中で堪えていた何かが切れた。


「僕は一つ聞きたいんだけど、そんな君には自慢できるような友達はいるのかな?自分の肩書きになるような友達しかいない気がするな。だって君は強いものにしか縋らない弱い人間じゃないか」

「は?お前何言っちゃってんの?突然。てか、何逆らってんだよ。豚!!」


沢木が凪の肩を強く突き飛ばす。その勢いに凪の体がたわんだ。


「誰が君と遊ぶと思うの??僕は周りの大切な人を馬鹿にするような人間と関わりたくない!!」


凪の丸い瞳が鋭く細められ、沢木を強く睨みつけた。
その目に、沢木はほんのわずかに怯む気配を見せるが、すぐに肩を掴み返し、手に力を込めた。


「君の自分勝手な思考で、僕の大切な人たちを馬鹿にするな!」

「っうるせえ、豚!歯向かうな」

「自分より力の弱い人間にそうやってやれば言うことを聞くと、まだ思っている部分、君の成長できていない証だ。」


その瞬間、沢木の奥歯が軋むように鳴り、腕が振り上げられた。


「お前、何やってんの?」


地を這うような低い声がその場に響き渡った。
振り向いた先に立っていたのは馨だった。前髪の隙間から覗く鋭い目が、沢木を真っ直ぐに射抜いている。

その目を見た瞬間、沢木の表情は恐怖に変わった。
馨に腕を掴まれていた沢木の手は、痙攣するように震えている。


「凪に何したって聞いてんだよ」

「俺は何もしてないっ!!こいつが突然っ俺に」

「凪が自分からお前に喧嘩ふっかけるような馬鹿なやつだと思ってるの?」

「お前がそういう態度取るなら、お前がこの豚と付き合ってるって同級生の全員に言いふらしてやるよ!!全員、お前の見る目は豚と付き合うキモいゲイって認識変わるだろうな」

「…ああ、俺のことどうとでも言えよ。だけどな」


馨はその言葉を吐くと同時に、沢木の胸ぐらを掴み、耳元で何かを囁いた。
囁き終えた頃には、沢木の顔は血の気が引いたように青白くなっていた。胸ぐらから手を放された沢木は、一言も発せず、ただ立ち尽くしていた。


「ねえ、何やってるの?」


その時、沢木の元に同世代くらいの女が駆け寄ってきた。心配そうに沢木の顔を覗き込み、そして馨を見て声を上げる。


「あのさっき、私見えたんですけど、私の彼氏になんか言ったんですか?」


強気な口調で馨を睨み上げるが、次の瞬間、彼女の表情は一変した。
赤く染まった顔と、明らかに見惚れた様子。その目が馨を見つめていた。


「お前何見惚れてんだよ!!俺の彼女くせしてよくこんな奴に見惚れんな。このクズ野郎に。人を見る目ないんじゃねえの!」

「何よ!その言い方!!さいってい!!私はあんたのこと庇おうとしたのに!!」


口論を始める二人の横で、馨はそっと凪の手を握った。
凪が顔を上げると、馨はいつものように優しい微笑みを浮かべている。


「沢木、その子が見る目ないの正解だわ。」

「え?」


険しい顔をしていた女が、馨の言葉に思わず顔を上げた。


「だってお前みたいな奴、選ぶんだもん。見る目ないよ。」


去り際、馨は女の方に向き直って口を開く。


「ごめんね、半分冗談で半分本当。もっといい男絶対いる。だってあいつが君に見合わない。」


女の顔は徐々に赤く染まり、もう悔しがる沢木の姿は一切視界には入れていなかった。馨は凪の手を引いてその場を離れた。


「それにしても凪、変わったね」

「え?」

「自分の気持ちをはっきり言えるし、沢木にも堂々と立ち向かってた。」

「いや、僕はそんな大したことは…」

「いいや、これはめちゃくちゃ成長した証拠だよ。」


凪はその言葉に少しの照れを覚え、誤魔化すように俯いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

6回殺された第二王子がさらにループして報われるための話

さんかく
BL
何度も殺されては人生のやり直しをする第二王子がボロボロの状態で今までと大きく変わった7回目の人生を過ごす話 基本シリアス多めで第二王子(受け)が可哀想 からの周りに愛されまくってのハッピーエンド予定 (pixivにて同じ設定のちょっと違う話を公開中です「不憫受けがとことん愛される話」)

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

【完結】王宮勤めの騎士でしたが、オメガになったので退職させていただきます

大河
BL
第三王子直属の近衛騎士団に所属していたセリル・グランツは、とある戦いで毒を受け、その影響で第二性がベータからオメガに変質してしまった。 オメガは騎士団に所属してはならないという法に基づき、騎士団を辞めることを決意するセリル。上司である第三王子・レオンハルトにそのことを告げて騎士団を去るが、特に引き留められるようなことはなかった。 地方貴族である実家に戻ったセリルは、オメガになったことで見合い話を受けざるを得ない立場に。見合いに全く乗り気でないセリルの元に、意外な人物から婚約の申し入れが届く。それはかつての上司、レオンハルトからの婚約の申し入れだった──

僕はお別れしたつもりでした

まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!! 親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

処理中です...