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しおりを挟む「沢木…くん」
そこにいたのは沢木の姿だった。
相変わらずニキビだらけの顔に、憎たらしい笑みを浮かべている。
「こんなところで何やってんだよ、豚」
「別に何も…」
「何も??俺はさっき見たんだよ。馨と歩いてるところ。まさかお前ら仲良く友達やってんの?」
「…」
沢木はわざとらしく声を上げて笑った。その笑い声は、凪の耳にとって不快以外の何物でもなかった。
だが、凪はこれ以上ことを大きくしたくなくて、黙って立ち去ろうとした。だが、その腕を沢木に掴まれる。
「やめて」
凪は冷たく言い放ち、掴まれた腕を振り払った。すると、沢木の眉間には不機嫌そうに皺が寄った。
「お前、痩せて顔だけ良くなって調子乗ってんだろ?馨の穴にでもなんのか?女ぽい顔してるもんな。性格もナヨナヨして。」
凪はその言葉に拳を強く握りしめた。指先が白くなるほどに力が入る。体がわずかに震えるのを、凪自身も感じていた。
「馨の代わりに俺が遊んでやろうか?どうせ友達もいないんだろ。いたとしてもそいつらは何?オタク集団とか?頭がおかしいとか?
大体、蓮見馨。あいつも思ってたけど中学の頃からおかしいんだよ。昔からてめえみたいな豚庇った時もあったしよ」
「どうだ。豚。お前の顔だけはいいから俺の遊び道具にしてやってもいいぞ。」
その言葉を聞いた瞬間、凪の中で堪えていた何かが切れた。
「僕は一つ聞きたいんだけど、そんな君には自慢できるような友達はいるのかな?自分の肩書きになるような友達しかいない気がするな。だって君は強いものにしか縋らない弱い人間じゃないか」
「は?お前何言っちゃってんの?突然。てか、何逆らってんだよ。豚!!」
沢木が凪の肩を強く突き飛ばす。その勢いに凪の体がたわんだ。
「誰が君と遊ぶと思うの??僕は周りの大切な人を馬鹿にするような人間と関わりたくない!!」
凪の丸い瞳が鋭く細められ、沢木を強く睨みつけた。
その目に、沢木はほんのわずかに怯む気配を見せるが、すぐに肩を掴み返し、手に力を込めた。
「君の自分勝手な思考で、僕の大切な人たちを馬鹿にするな!」
「っうるせえ、豚!歯向かうな」
「自分より力の弱い人間にそうやってやれば言うことを聞くと、まだ思っている部分、君の成長できていない証だ。」
その瞬間、沢木の奥歯が軋むように鳴り、腕が振り上げられた。
「お前、何やってんの?」
地を這うような低い声がその場に響き渡った。
振り向いた先に立っていたのは馨だった。前髪の隙間から覗く鋭い目が、沢木を真っ直ぐに射抜いている。
その目を見た瞬間、沢木の表情は恐怖に変わった。
馨に腕を掴まれていた沢木の手は、痙攣するように震えている。
「凪に何したって聞いてんだよ」
「俺は何もしてないっ!!こいつが突然っ俺に」
「凪が自分からお前に喧嘩ふっかけるような馬鹿なやつだと思ってるの?」
「お前がそういう態度取るなら、お前がこの豚と付き合ってるって同級生の全員に言いふらしてやるよ!!全員、お前の見る目は豚と付き合うキモいゲイって認識変わるだろうな」
「…ああ、俺のことどうとでも言えよ。だけどな」
馨はその言葉を吐くと同時に、沢木の胸ぐらを掴み、耳元で何かを囁いた。
囁き終えた頃には、沢木の顔は血の気が引いたように青白くなっていた。胸ぐらから手を放された沢木は、一言も発せず、ただ立ち尽くしていた。
「ねえ、何やってるの?」
その時、沢木の元に同世代くらいの女が駆け寄ってきた。心配そうに沢木の顔を覗き込み、そして馨を見て声を上げる。
「あのさっき、私見えたんですけど、私の彼氏になんか言ったんですか?」
強気な口調で馨を睨み上げるが、次の瞬間、彼女の表情は一変した。
赤く染まった顔と、明らかに見惚れた様子。その目が馨を見つめていた。
「お前何見惚れてんだよ!!俺の彼女くせしてよくこんな奴に見惚れんな。このクズ野郎に。人を見る目ないんじゃねえの!」
「何よ!その言い方!!さいってい!!私はあんたのこと庇おうとしたのに!!」
口論を始める二人の横で、馨はそっと凪の手を握った。
凪が顔を上げると、馨はいつものように優しい微笑みを浮かべている。
「沢木、その子が見る目ないの正解だわ。」
「え?」
険しい顔をしていた女が、馨の言葉に思わず顔を上げた。
「だってお前みたいな奴、選ぶんだもん。見る目ないよ。」
去り際、馨は女の方に向き直って口を開く。
「ごめんね、半分冗談で半分本当。もっといい男絶対いる。だってあいつが君に見合わない。」
女の顔は徐々に赤く染まり、もう悔しがる沢木の姿は一切視界には入れていなかった。馨は凪の手を引いてその場を離れた。
「それにしても凪、変わったね」
「え?」
「自分の気持ちをはっきり言えるし、沢木にも堂々と立ち向かってた。」
「いや、僕はそんな大したことは…」
「いいや、これはめちゃくちゃ成長した証拠だよ。」
凪はその言葉に少しの照れを覚え、誤魔化すように俯いた。
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